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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第9部 全国大会編
331/385

躍動

 ―――全国大会、2回戦

 ―――2日目、第2試合


 青稜大附属VS(たい)杜ノ宮戦・・・シングルス1。


「『八極』、杜ノ宮の今永に対して青稜の2年生エース・一条汐莉が互角以上の戦いを見せている」


 会場の雰囲気は概ね、そんな感じだった。

 このゲームをキープして、4-4。試合は膠着状態に入ったかと思われた。


 だが―――


「ッ!!」


 強力なスマッシュが先輩のラケットの向こう側を通り過ぎていく。


「また決まった!」

「今永の振り下ろすようなスマッシュ!」


 このゲームに入って、先輩のボールに力がなくなってきた。

 それを敵は見逃さない。

 相手は『八極』という全国でも最高ランクのシングルスプレイヤーだ。


 一瞬の隙を、弱みを―――巧みに付いては、先輩を崖っぷちに追い詰めていく。


「ゲーム、今永。5-4」


 その瞬間、会場からも大きなため息が。


「終わった・・・」

「ここまでよく頑張ったけどね~」


 試合会場も『決まった』の雰囲気が流れ始めた。

 これは良くない・・・。

 試合を進めていくにも、逆転するにも、会場がこの雰囲気では非常にやりづらい。


 ―――ボクは、この選手専用の応援席から出ることもできなければ、ベンチで先輩を迎えることもできない


「しおりん先輩、頑張れ!」


 こうして、あらん限りの力で叫ぶことしか。


「ボクのしおりん先輩は、こんなとこで負ける人じゃないだろ!!」


 そうだ。

 ボクの憧れた、ボクの目指すしおりん先輩像は―――


「美南」

「あなた・・・」


 先輩たちの絞り出すような声が背中にこつんと当たる。

 だけど、今のボクには関係ない。


「こんなとこで負ける先輩なんて、先輩じゃない!!」


 そんな姿、見たくないよ。

 ボクは"ボクの最高のお姫様"がコートでテニスをするところが見たいんだ・・・!


 先輩(アンタ)が負けるなんて、そんなの・・・!


 声を絞り出した、その刹那。


 ―――まったく、しょうがないなミミは


 頭の中に、その台詞が聞こえた気がした。

 パッと顔を上げ、視線をすっと上げていくと・・・。


 その視線の先には。


「先輩・・・」


 しおりん先輩が、口元に人差し指を突き立て、ボクの方を見て。


 ―――じゃあ、勝ってくるよ


「じゃあ、勝ってくるよ・・・」


 そう、小さく唇を動かしたような、そんな気がした。


(しおりん先輩)


 先輩は、少しもその闘志を萎えさせていない。まったく諦めていないのだ。


「そうだ、頑張れぇー!!」


 だから、ボクも応援を続けよう。


 ―――先輩のサービスゲーム


 あの人が諦めない限り、ボクも諦めない。


(その先へ、一緒にいこう・・・!)


 先輩はレシーブと同時にネット前に出てくる敵の戦術を見抜いていた。

 ロブショット・・・大きく弧を描くような軌道のショットを、ベースラインギリギリのところへ打ち込む。


 だが―――


(敵はそこまで計算づくだ!)


 その緩いボールが狙い打たれてしまう。

 さっきまでのゲームだったら、その強打された打球に対し、チャンスボールを上げてしまっていた。


「ッ!!」


 しかし、今のしおりん先輩は違った。


 強打されたショットに対し、まったく怯む様子がない。

 それをしなやかなラケットさばきで深い位置に返して、敵を再びネット際まで走らせないのだ。


 ―――今永涼夏のネット際プレーを、封じた!


 ラリー戦に持ち込み、やがては敵が疲れて、先輩のショットが上手く決まっていく。


「おおっ」


 その辺りから、会場の雰囲気も変わり始めた。


「一条、これやれるんじゃない!?」

「青稜が攻め始めたよ!」


 潮目が変わったのだ。

 観衆が、"『八極』が倒されるところが見たい・・・!"

 そう意識し始めた。


(いける・・・!)


 これはいけるよ、しおりん先輩!


 しかし、今永選手もここからギアを1つ切り替え、上げる。

 全国最高ランクの選手が、しかも1つ下の2年生に負けるわけにはいかない・・・!最後の力を絞りつくすような粘りを見せ始めたのだ。


 ―――だが!


 しおりん先輩は、それに必死で抵抗を続ける。

 ボク自身、天才と言われているあの人がここまでもがき、あがく姿を初めて見た。


 体力的には限界・・・、だが、ボール1球1球をあきらめず追う姿勢。

 その姿に、ボクは―――本物の『エース』を見た気がした。


 この人こそ、"本物"だと。


「ゲームアンドマッチ、」


 そして、その最後の瞬間。


「一条汐莉! 7-6!!」


 コートの中央で、大きくガッツポーズをしていたのは―――先輩の方だった。


「勝った・・・」


 先輩が、勝ったんだ。


「『八極』を倒したー!!」


 青稜大附属の準々決勝進出が決まったその瞬間。

 だけど、チームの勝利よりもっとすごいことが目の前で展開されているのは、誰よりもその場にいるボクたち自身がよく分かっていた。


 この一大ニュースは、すぐに残った全ての出場校へ伝わることになる―――





「聞いた? 青稜の一条さん」

「うんうん。今永さん倒したんだってー」


 その一報が入った途端、他校の試合に色めきだす部員たち。


「これで一条さんの評価は一段階上にいっただろうね」

「そうだね・・・」


 そして、彼女たちの話の中心は。


「新倉さんと直接ぶつかたったら、どっちが強いのかなぁ」


 どうしても、燐に集中することになる―――


「燐」


 私は、部長として。

 このチームのエースとして。


「周りからの声、気にならない?」


 そんな彼女のことが、心配になってしまうのだ。


「・・・」


 燐はすぐに言葉の意味を理解したのか、顎を引いて何か数秒考えるように間を置いたが。


「大丈夫です」

「そっか。ならいいんだけど」


 そう・・・、彼女なら、そう言うだろう。

 小さい頃から、衆目にさらされ続けてきたであろう彼女なら。

 これくらいの声、どうということもないと。そう思うことだろう。


「他人と比較されるのは、しょうがないことですから」


 少しだけ陰のある表情で、人差し指で頬をかきながら。


「部長だって、ずっとそうだったんじゃないですか?」

「・・・っ」


 この1年を、想う。

 最高学年としてチームを、学校を背負うということ。

 個人として、常に『ランク』や『比較』の対象であった1年間。


「そうだね」


 ―――久我まりか、都内で唯一綾野五十鈴に対抗しうる選手

 ―――東京四天王と呼ばれているの、知っていますか?

 ―――あのレベルまでいくと、高校でも即通用するんじゃない


 目を瞑って、考え直してみる。


「君もこれから、背負っていかなきゃいけないものだからね」

「・・・はい」


 私の言葉に、燐は小さく返事をして頷いてくれる。


(この子の責任感の強さは相当なものだ)


 その気持ちが、君をもっと強くしてくれる。

 そして、それこそが―――『私たち』に必要になってくるものなんだよ、と。

 今はそう言いたい気持ちを押しとどめて、自分の中のものだけにしておいた。





 大会から指定の屋外練習場での練習も少し慣れてきた、そんな日の練習終わり。

 夕食を終えた食堂ロビーで、私は1人、2回戦の内容を思い出していた。


 ―――初瀬田との、2回戦


 ダブルス2。

 1回戦とは変わり、熊原さん・仁科さんペアが試合に出場。


 初瀬田のダブルス2との競り合いなったものの、このペアの粘り強さと根気強さが相手チームを上回り、6-4で勝利。

 全国の舞台でも彼女たちが通用することを証明できたのはチームにとっても心強いものとなった。


 ダブルス1。

 変わらず、山雲さん・河内さんペア。


 ここは前の試合と変わり、一方的な試合展開。

 山雲さん・河内さんペアが相手ペアに自力で勝り、6-2で勝利・・・。


 しかし、それ以上に大きかったのが。


(この試合で、山雲さん、河内さんペアは全国大会でも1,2を争うレベルだということが広く知れ渡ることになった)


 今はもう、大会でも屈指の強ペアとしてマスコミにも注目されている。

 勿論・・・、他校からのマークが厳しくなるのは言うまでもないだろう。


 そして。


 シングルス3、水鳥さんが6-1で初瀬田の選手を下す。


(1回戦とは違うメンバーで2回戦を戦えたのは大きい)


 これで選手の疲労は分散された。

 次の準々決勝、相手にもよるけれど・・・きっとベストな試合ができるはず。


「小椋コーチ」

「は、はいっ!」


 ビクッ。

 考え事に飛躍していた意識を再び戻すのに、少しだけ背中が震えた。


「明日の練習メニューの最終確認をしておきたい。ちょっといいか」

「もちろんです」


 彼女の言葉に、こくりと頷く。


(もうそんな時間かぁ・・・)


 最近、1日がとても早い。

 充実している証拠なんだろうけど、なんだかそのことが―――少しだけ、怖くも感じる。


「今行きます」


 だから、今は時間を無駄にしたくない。

 私はすぐに監督の方へ駆けていった。


 ―――ロビーでつけっぱなしだった、テレビの方には目もくれず


『・・・今日の第4試合、ただ今送りした試合は赤桐中学の勝利という形になりました』

『強い赤桐、中部地区の優勝校・明天をまったく寄せ付けず圧巻の試合』

『そして今・・・抽選結果も出ました』

『赤桐の部長、冨坂選手の引いた番号は―――』

『7番です。7番ですね』


『赤桐中学の抽選番号は7番。これで明日1日の休養日を挟み、赤桐は準々決勝第4試合―――』

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