天元を視る
今回の全国大会は『八極』による争いだ―――
出場枠が決まると、そんな話がまことしやかに囁かれ始めた。
八極。
全国大会出場校の中でも、抜きんでた実力を持つシングルスプレイヤー8人の総称。
私たちの雑誌社でも、いち早くそれで特集を組んで全国大会前特大号を出そうと言う話になった。
今日は、そのための情報出し。
持っている情報を精査するための2人会議みたいなものを、上司と開いていた。
「まずは、何を置いてもこのチーム・・・!」
数ある全国出場校の中でも、明確に『優勝候補』と言いきれるチーム。
「大阪代表―――赤桐中学」
「女王ですね!」
「春の全国大会で黒永を退け王座に座った、まさに『王者』。黒永と同レベルかそれ以上のチーム力、選手層を誇る。それを活かした圧倒的な力で大阪府大会、近畿大会を勝ち上がった"最強"の呼び声高い学校ね」
絶対視されていた黒永の春優勝―――それを決勝戦で破ったあの試合は、今でも鮮明に覚えている。
エース綾野さんをシングルス1に残したまま、シングルス2で試合を決め・・・綾野さんを出させなかった。
逆に言えば、それほどの選手層と言うことだ。
赤桐は何もシングルス2までに試合を決めようと、オーダーをいじったわけではない。真正面のぶつかり合いで、黒永に綾野さんを切らせなかった。
「その赤桐のエース、3年生富坂愛美」
「部長としてもチームをまとめ上げる、司令塔ですね」
ただ・・・。
赤桐の真骨頂は、この選手じゃ無いと・・・私は思っている。
確かに部長で3年生、シングルス1を任されることも多いが―――
(『彼女』が、控えている)
まぁ今はこの話はいいだろう。
「彼女が八極の1人目でしょうね」
富坂選手自体は確かにこの八極に選出されてしかるべき選手だと思う。
全国でもトップレベルのテニス脳の良さ・・・、頭の回転の速さという面ではずば抜けていると思う。
名門赤桐で『司令塔』と呼ばれている所以はここにある。
「2人目。これは文句なしに綾野五十鈴さんでしょう」
「どっちかって言うと、実力的にはこっちが1人目って感じですけどね」
「赤桐がチームとしての女王とするなら、個人としての女王は間違いなくこの綾野さん。全国を見渡しても、彼女より明確に上回っていると言えるプレイヤーは居ないでしょうね」
「そして、その綾野さんに唯一土をつけた久我さん」
久我まりか。
やはり彼女も、この『八極』にしっかり入ってくる。
「都大会決勝戦での負傷から、無事帰ってきた。今は普通に練習も出来てるみたいですし」
「あとは全国の舞台で暴れるだけ・・・ってところね」
そして関東からは。
「龍崎麻里亜さんも、勿論入る」
小さな巨人。
身長差をモノともしないダイナミックなプレーが売りの、トリックスター。
「今までのオールラウンダーとは少し違ったタイプ。全国でも稀なタイプと言えるでしょう」
「龍崎さん同様、ネットプレーが得意な選手というと・・・」
パッと1人、思いつく。
「宮城代表、杜ノ宮中学エース、今永涼夏選手」
「龍崎さんとは大分タイプの違うネットプレイヤーですね」
「ネット際で全ての打球を"叩き落とす"という表現がしっくりくるタイプの選手ね」
まだまだ居る。
「この選手も外せないでしょう。広島代表、烏丸中学エース、紅坂妙」
「出た、妙さま!」
「そう、通称『妙さま』。その振る舞いはまさにコートの中のお姫様・・・。"お山の大将エース"を地で行く、気分屋の選手。でも嵌まった時は手が付けられない選手でもある」
「恐ろしい噂をいっぱい聞いたことあります・・・。部内カーストの頂点に君臨してるから、実質彼女が監督みたいなものだって」
どこまで本当かは、分からないところ。
「そして、最後の2人―――」
まぁ、これは納得といったところだろう。
「福岡鴻巣学園エース・・・。九州の二華と呼ばれたその一輪、立花晶選手」
「風花ちゃんが元居た中学ですね」
「そしてその鏡藤風花選手。本来なら2人揃っての二華・・・、今は別々のチームになってしまったけれど」
「あの2人が同じチームで活躍してたらって思うと、ゾッとすると同時に凄い見てみたいって気持ちもわき上がってきます!」
色々な事情から、それは叶わなかったが―――
「立花選手は鏡藤選手との戦いを強く望んでいると聞いたことがあるわ」
「そりゃ、初瀬田でやってるって情報は当然入ってるでしょうしね・・・」
その戦い、私も非常に興味があります。
見てみたい。
かつてのチームメイト、袂を分かったその本人との戦い。
「この8人が、全国でもトップレベルの実力を持つ『八極』よ」
様々なタイプのプレイヤーが揃った、個性豊かな8人のエース。
その8人が、全国を進む強豪チームたちに立ちはだかる障壁となる。
「彼女たち『八極』に勝てなくては、ベスト8以上進出は難しい」
上位進出を狙おうと思うなら、避けては通れない道だ。
だが、しかし。逆に―――
もし仮に、この八極のエース達を打ち倒すことが出来たのなら。
その選手は相当の"名誉"と"実績"を手に入れることになるだろう。
(八極に挑む者・・・!)
そこにも1つ、注目してこの大会を見ておきたい。
◆
「ッ!!」
放ったサーブが、
「フォルト、です」
また、ラインの上を越えていく―――
「くっ」
どうしよう。
制御が効かない。コントロールが全く定まらない。
もっと抑え気味にするとネットに引っかかるし、軌道を変えてみたら今度は左右に暴れる。
「オッケー、一旦休憩しましょう!」
このみ先輩が手を挙げて、そう言うが。
「もう少しやらせてください!」
わたしは、それに反論するように返事をする。
「打ちたいんです!!」
今は、数をこなして早くこの感覚から脱却したい・・・!
その気持ちでいっぱいだ。
きっと今はすごく調子の悪いとき。この悪い感覚のまま、練習を終わりたくない―――
だが。
「イヤです」
先輩の言葉は期待とは真逆なもので。
「今のお前のボール、これ以上受けたくないです」
「・・・!」
「しょーじき、こんないっぱいいっぱいになっちゃってる奴のサーブ受け続けるの、キツいんですよね」
先輩はひらひらと降参するように両手を挙げると。
「だから、今日はここでおしまいです」
そう、こちらに視線を真っ直ぐに向けてきた。
わたしは勿論、納得なんてしてなかったけれど。
「・・・、はい」
そう言うしかなくて、渋々頷いた。
「身体はまだ動けるんですよね?」
「全然ですっ! 動き足りないくらいで・・・!」
わたしの言葉と表情に、先輩は口に手を付けてふむ・・・と思案する。
「問題があるのは身体ではなく精神の方ですか」
その一言に。
(精神・・・!)
面を食らってしまった。
練習をしていても、度々頭の中をちらつくものがある。
それは焦りにも似た『何か』、それより一歩踏み込んで、絶望とさえ呼べるものだった。
根源は勿論、この間の試合―――あの大敗にあるのは、自分でも分かっている。
何より、
(このまま進んでいってわたしは大丈夫なんだろうか)
という、不安。
それが自分の中でどんどん大きくなっていってるのだ。
「もう全国大会が目前に迫ってきてます。ぶっちゃけ、お前のフォームに支障があるのだとしても、それを矯正してる時間なんて私たちにはもう無い」
「・・・」
「だけど、原因がそういう技術的なことではないというのが分かりました。さっきも言ったように、問題は心の方」
このみ先輩が人差し指を立て、わたしの左胸につんと向ける。
「『ここ』をどうにかしないことには、今の不調は改善されない」
「そんな・・・! じゃあ、どうしたらいいんですか!?」
「うむ・・・」
さすがに困った風の先輩。
このままじゃ、このままの調子じゃ、私、
(全国大会なんて・・・)
無理―――
そんな言葉が、頭を突き抜けようとした・・・その瞬間。
「今のお前を見てて思うことがあるんですよね」
わたしの足に、目を遣る。
「とにかく、地に足が付いてない。不安定。藍原、お前・・・」
先輩は困ったように後頭部をかきながら。
「少しだけ―――上を見すぎてやいませんか?」




