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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第8部 関東大会編 2
287/385

VS 鶴臣 シングルス3 春前はるか 3 ”もっと高みを”

 試合はサーブ合戦の様相を呈してきた。


 はるか選手が曲がり幅を自由に変えられるスピンサーブで有紀にタイミングを掴ませなければ、有紀の方も3種類のサーブで狙いを定めさせず、時にはフラットサーブで純粋な力を見せ押して、時にはブレ球サーブで敵の芯を外させてまっすぐレシーブを飛ばさせない。


(サーブに自信のある選手同士がぶつかった時、稀に起きる・・・!)


 サーブの攻略合戦―――レシーブ出来るかどうかに試合の行方が大きく左右される展開。

 今、目の前で起きているのは、そういう試合(ゲーム)だ。


「ゲーム、春前。4-3」


 おおお、と試合会場が大きく沸く。


「また決まった、はるはるのスピンサーブ!」

「白桜の1年生、全然打ち返せてないよ!」

「でも向こうのサーブを春前妹も打ち返せてない・・・!」

「シンプルなサーブの打ち合い!!」


 こうなってくると、どちらが先に敵のサーブを見切るかということにすべてがかかってくる。


(有紀は、)


 スピンサーブ自体には対応出来ているようだが、やはりあの曲がり幅の調整にだいぶ苦労しているようだ。

 そこを見極めることが出来れば、もう攻略はしたようなものなのだが―――さすが関東レベルのシングルスプレイヤーだ。そこをなかなかさせてくれない。


 ―――だけど、


 有紀のサーブ押しもかなり大したものだ。

 その関東レベルのプレイヤーが、未だ攻略に時間がかかっているのだから。


(やっぱり、3種類、個性の違ったサーブをぶつけられるとあのレベルのプレイヤーでも攻略するのは容易なことじゃない・・・)


 都大会準決勝、新倉雛選手。

 都大会決勝、黒永のレギュラーを張る2年生選手。

 関東大会1回戦、勢いを持った大鷲台の2,3年生。


 サーブをぶつけてきた相手は、決して楽な相手じゃなかった。

 その選手たちですら苦労したボール―――それだけじゃない。


(前の試合より、確実に進化している・・・!)


 フラットサーブのスピードとパワー。

 クイックサーブの打ちづらさ、タイミングのずらし方。

 ブレ球サーブの"ブレ方"・・・揺れ方とも言えるボールの微動。


 それらが確実に、1つ前の試合より進化している。強く、大きく、鋭く―――より凶暴になっているのだ。


(元々サウスポーであの特異な打ち方、天性のパワーはあった。だけどもう、今、有紀を支えているのはそれだけじゃない)


 今まで練習してきた、学んできた、研鑽を積んできた―――それら全ての経験が、1つ1つの形を成して、彼女の大きな力になっている。


「40-0」


 また、有紀のサーブが決まる。

 今度はブレ球サーブで、またもや敵に的を絞らせなかった。


(いけ・・・!)


 そうでなきゃ、私のライバルとは呼べない。

 そうでなきゃ、競い甲斐がない・・・!


 貴女が私の隣をピッタリと併走してくれているから・・・私も、どんどん加速してその高みに近づくことが出来ている。


(いけ、有紀・・・!)


 決めろ。

 そのままどんどん押して―――


『わああああ』


 その1球に、また歓声が上がる。


「ゲーム、藍原。4-4!」


 ―――ねじ伏せろ


 向かってくる敵を、貴女の道に立ちはだかる者を・・・その武器で。


(ほふ)ってみせなさい)


 貴女には、もうその力があるはずでしょう?





 どこかで攻め込まなきゃならない。


 現在、4-4。はるはるのサービスゲーム。

 ここでまたサービスエースをとられ続けたら、11ゲーム目以降が確定する。

 7ゲーム目を獲らないと試合に勝てなくなるのだ。


 サーブ合戦ということもあって体力はまだ大丈夫だけど、なるべくなら6ゲーム目までで試合を終わらせたい。

 なぜなら。


(この試合で勝ったとしても、まだ関東大会は続く・・・!)


 準決勝、そして決勝と。

 関東大会は上に行くにつれて加熱してくるだろう。消耗しきった状態で臨みたくない。


 何より―――どこかではるはるのサービスゲームをブレイクしなきゃ、いつまでたっても試合は終わらない。

 攻めなきゃ。

 攻めて攻めて、わたしの攻撃をはるはるの喉元まで通さなければならない。

 だから。


(いつまでもサービスエースを獲られ続けるわけには、いかないんだ!)


 どこかじゃない。

 "このゲームを"ブレイクして、サービスエース合戦を終わりにする。


 そのための準備はしてきたはずだ。

 相手に打たされたのだとしても、段々コート内にサーブを打ち返せ始めている。

 あとはコントロールと順応性の問題。


 ううん、わたしの場合―――


 はるはるが右手に握ったラケットでサーブを打ち出す。

 それがネットの上でくっと曲がり、サービスコート上で跳ねた。


(コントロールを補うだけの・・・)


 そうだ。

 わたしの最大の武器と言えば、これしかない。


(パワー!!)


 微調整の部分は、それで押し切る。

 変化したサーブも、わずかに芯を外していることも、打たされていることも。

 関係ないって思えるほどの、ショットの威力。

 わたしはそれで勝負できる。


 ―――サーブは勿論、お前のショット、特に強打は関東大会でも十分通用するレベルのものです


 このみ先輩の言葉が脳裏を過ぎった。

 そうだ、わたしは。


「出来るッ!」


 曲がったスピンサーブを、バックハンドで引き込むように思い切り引っ張る。

 敵コートのクロス、その1番奥を狙うような強引な打ち方。


 だけど―――


「入った!」


 コート内に、レシーブが入ってくれた。


「藍原が、春前のスピンサーブを攻略したぞ!」


 観客のその言葉だけが、やけに大きく頭の中に入ってきた。

 それでいい。

 そうやって良い言葉だけを拾えるってことは、良い精神状態なんだってことだから。


「やりますわねっ!」


 はるはるがレシーブを打ち返してくるが、わずかに動揺しているのか、ボールに力がない。


(これなら!)


 帰ってきたショットを、今度はフォアハンドで力の限り引っ張る。

 それが―――


「0-15」


 思った以上に簡単に、そして上手く決まったことに。


「―――っ」


 心臓が高鳴った。

 頭の中から熱いものがあふれ出してきて、全身に巡っていく感覚。


 気持ちいい・・・!

 その感覚の、一端に触れた気がした。


 でも、


(まだだ)


 こんなもんじゃない。

 わたしはもっと、気持ちよくなれる。

 もっと、ドキドキ出来る。上にいける。


 そう、上。

 ここよりもっと先の場所。


 ―――エース達が待つ、本当の高み


(そこへ行くには・・・!)


 ぐぐっと曲がるスピンサーブ。

 しかし、もう打ち方は身体が覚えている。

 それを今度は打球の力に少し自信がなかった分、フォアハンドで、流し打つようにクロスへ。


(こんなところで躓いてる場合じゃない!)


 わたしははるはるを―――この強い敵を倒して、その上を目指す。

 だからこそ、目の前のプレーに全力に、思いっきり。


「向き合う!!」


 打ったショットが、わたしからでも分かるくらいブレている。

 いや、これはもう"揺れている"と言ったほうがいいのではないだろうか。

 黒永戦の最後に掴んだこのショットの感覚。


 だいぶ、身体にもプレーにも馴染んできたようだった。


「0-30!」


 はるはるが打ち返せず、その打球を見送ったことからも、それは十分伝わってきた。


 ―――このショットは使える、と


 押せ。

 行け。

 ここで一気に攻勢に出れば、完全に試合の主導権を握ることが出来る。


「姉御ー、ここッスよ!!」

「勝負の分かれ目なのーーー!」


 暖かく、頼もしい声援がわたしを後押ししてくれる。


「藍原、お前の全てをぶつけてやれです!」


 仲間達、尊敬する先輩達の声が―――力をくれる。


 スピンサーブが曲がり、サービスコートで跳ねる。

 それを完璧に、タイミングを合わせることが出来た。まずは正面にレシーブ。

 勿論これは拾われてしまうが、はるはるは勝負をつけようと角度のあるショットを打ってくる。


 狙うのは―――わたしから見て右方向の隅を狙うショット。

 打ちづらい場所だが、関係ない。

 しっかりと回り込んで体勢を整え、小さくテイクバックをして。


(通れ、)


 腰の高さにバウンドしたボールに、狙いをつけ、両手で握ったラケットで。


「わたしの想い(ショット)、通れッ!!」


 思い切り強打―――

 速さと威力を持ったそのボールは、まっすぐ敵コートの奥深くへと向かっていった。

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