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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第8部 関東大会編 2
286/385

VS 鶴臣 シングルス3 春前はるか 2 ”攻略合戦”

(何から入ろう・・・)


 わたしのサーブは3種類。

 どれから入るのが、1番効果的に見せることができるだろうか。


 ううん、ここはいっそのこと。


(どれから入ったら、1番気持ちいいかを優先した方が良いかも)


 言い換えれば、どれから入れば、上手くゲームに入ることができるのか。

 それを考えてサーブを選んだ方が良い。


 今日は、前衛でサインを出してくれるこのみ先輩はいない。

 自分の頭で考えて、試合メイクして、自分の考えで展開させて、すべて自分1人でやる必要がある。


 だけど、わたしは1人じゃない。


「ガンガンいくんで、応援団の皆さんも応援の方、大いによろしくお願いします!!」


 後ろに陣取る応援団にそう言って手を挙げて言うと。


『わあぁぁぁ』


 歓声と拍手が、飛んでくる。


「いけー、藍原ちゃん!」

「今日も頼むよ切り込み隊長!」


 暖かい声援とともに。


(・・・よし)


 今ので1つ、スイッチが入った。


(やらなきゃ)


 わたしがやらなきゃ、他に誰もやってくれる人なんて居ないんだ。


(逃げない)


 この自慢のサーブをたたき込んで―――3つの中から1つを選択し―――右手に持ったボールをトスする。


「っけぇ!!」


 ―――選んだのは


「!」


 敵コートのはるはるは、動くことができない。

 反応することもできなかったのだ。


 ―――フラットサーブ


 まずは、1番スピードと威力のあるこのサーブで、敵を翻弄する。

 目が慣れられるまで、このボールはかなり強い武器になることは今までの試合経験からも間違いがなかった。


 そして、矢継ぎ早に。


(クイックサーブ!)


 こっちのタイミングで、サーブを打ち込んでいく。

 これができている間は、


「30-0!」


 ―――試合の主導権は、渡さない


「おおお!」

「絶好調じゃん藍原!」

「敵のサービスエース攻勢にお返しのサービスエース!」


 そう、わたしもはるはるも、どちらもサーブを武器にするプレイヤー。

 自分のサービスゲームは、絶対に落とすわけにはいかない。

 いいや、落とすわけがない。


(この、磨き上げてきたサーブなら!)


 そう簡単に、打たれるわけがない!


「40-0」


 再びクイックサーブを決めて、あっという間にあと1ポイントでゲームをキープするところまでくる。


(最後、何で決めよう)


 まだブレ球サーブを使ってないし、このままの勢いならフラットサーブで攻めてもいい。

 さすがにもうクイックは使いにくいけど、あえて続けてみるのもいいかもしれない。


(でも、ここは―――)


 まだゲーム序盤。無理をするところじゃない。

 無難に、


(フラットで押す!)


 ボールの威力があるうちに、このサーブは多く使っておいた方が良い。

 体力に大きく左右されるサーブだから、威力の高いうちに叩いていた方が、効率も良いしリズムも掴める。

 サーブがサービスコートに決まり、跳ねるが―――


 さすがに相手もタダじゃ1ゲームくれない。

 それに合わせて打ち込んできた。


 しかし。


「っ!」


 打球は強くならず、ネットに引っかかって力なく落ちていく。


「ゲーム、藍原。1-1」


 ―――なんとか、


「っしゃー! 1ゲームキープしましたよー!!」


 やっぱりサーブを打てる(サービス)ゲームは強い。わたしはそういうタイプのプレイヤーだって自覚した後は、よりサービスゲームに対する信頼と思いは大きくなっていった。


(サービスゲームをキープするのは、わたしのテニスにとって基本―――)


 すべてはサーブから。

 そういうプレースタイルだからこそ、1球1球のサーブを大切に、丁寧に。

 幸い、今日はそういう思いをプレーで表現できている。


 コントロールも悪くないし、サーブに関して言えば、調子が良いと言ってもいいんじゃないだろうか。


「やりますわね」


 敵コートで、はるはるが笑う。


「しかし、次はワタクシのサービスゲームですわ!」


 そして自信満々に言うのだ。


「あなたにワタクシのスピンサーブが打てて?」


 鼻息荒く呼吸をして、彼女は踵を返しサーブ位置へ歩いて行く。


「打ってみせるよ」


 その背中に向かって、わたしも言葉を放つ。


「次こそは、コートの中に入れてみせる!」


 ホームランじゃない、ちゃんとしたショットを。

 ラインの内側に入れてみせる。

 そのための筋道は立てたはずだ―――さっきのレシーブ時のことを反復してみる。


(ネットの上からどろんと落ちるサーブ。バウンドの仕方、方向、打球の強さ・・・)


 一度、この目で見ているサーブだ。

 今度こそ・・・攻略してみせる。

 敵のサービスゲームだからって、いつまでもただポイントを献上しているわけにはいくもんか。


(コート内に先輩はいない。他にスピンサーブを攻略してくれる人は、代わりに打ってくれる人は、誰も居ないんだ)


 ダブルスとの違いをかみしめる。

 今、向かい合うべき相手はダブルスパートナーではない。敵コートにいる、対戦相手―――わたしと対面する形になっている、彼女だ。


(はるはる、今日の相手が貴女でよかった)


 だってわたし、こんなにもドキドキしてる―――

 貴女のスピンサーブに、その凄さに、こんなにも興奮して、全身のドキドキが収まらなくて、息が苦しくて・・・!


(きっとそのサーブを打ち返せたら、すっごく気持ちいいんだって・・・!)


 本能的に理解できる。

 最高にドキドキできる相手とのテニス―――やっぱり、それって。


(楽しいね!)


 さぁ、来い。

 どこにでも打ってこい。それをわたしは、打ち返す!


 はるはるがサーブを構え、トスを上げて、それを小気味よく打ち出してくる。


「来た!」

「「スピンサーブ!」」


 応援と声が重なる。

 ネットの上でくくっとボールが、まるで重力に引き込まれるかのように落ちてくる。


(目は慣れたっ・・・!)


 あとはタイミングだ。

 芯で捉えなくてもいい、でも確実にアジャストした感覚を―――身体に染みこませれば、絶対に打ち返せないサーブではない。


 ―――いけ!


 感触は悪くない。

 ただ、わずかにそのタイミングが早かった。


「アウト。15-0」


 あああ、というため息に会場が包まれる。


(惜しい)


 ほんの少し、ラインを超えてしまった。


(・・・だけど、)


 感覚は掴んだ。

 もう1回同じボールが来たら、打ち返せる自信がある。


(来い、来い来い・・・)


 もう1球、来い!


「ッ!」


 はるはるの吐息とともに、打球音が聞こえる。

 だが、しかし。

 今度はサーブが大分高い。


(フォルトだ!)


 そう直感する程度には高かったのだ。

 だが。


(!?)


 そこからネットを通過するかしないかのタイミングで、どろんと落ちてくる。

 さっきのスピンサーブがくくっと言うのなら、このスピンサーブはぐぐっと言った感じだ。


 それがギリギリ、サービスコート上で跳ねた。

 手を出せない。はるはるが、手を出させなかったのだ。


「30-0」


 そのサーブを見て、会場がどよめきに包まれる。


「今のスピンサーブ、すごく落ちてなかった!?」

「これまで見せてきたサーブとは違うサーブ・・・?」


 ・・・っ。

 やるね。

 でも、そうでなきゃ。


(そうでなきゃ、攻略のし甲斐がない・・・!)


 心の芯が熱く燃える。

 このサーブを打ち返したくて、身体がうずうずする。


(そのサーブ、次こそは見切ってみせる)


 はるはるがトスをし、もう1球。

 今度は低いサーブだ。しかし、しっかりとしたスピンサーブ。


(変化幅が少ない!)


 くくっどころか、今度はくっと言うくらいの変化しかない。

 だがそれが鋭く曲がるのだ。


 打ち返すことはできた。

 だけど、今度は"打ち返させられた"という感覚だ。レシーブに威力はなく、下手に引っ張ってクロスに返してしまった分、(はるはる)の正面を突いてしまった。


 あらかじめ前に出てきたはるはるに悠々と返され、あっさりポイントを献上してしまう。


「40-0」


 コールされた瞬間、彼女は笑う。


「うふふ。分かりやすいお方」


 してやったり、という表情だ。


「同じサーブが来い、同じサーブが来いと、顔に書いてありますわよ」

「っ!」


 ずばり、図星をつかれた。


「簡単に打たせてあげるものですか。ワタクシのサーブは、お姉さまを追いかけるための大切な武器・・・。貴女に躓いている暇はございませんの」


 それを見透かされたように、はるはるは口元を緩める。


「ねえ、藍原さん?」

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