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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第7部 関東大会編 1
256/385

"仲良し幼馴染5人組"

「強いね、白桜―――」


 立て続けに3ゲームを連取され、未だ反撃の糸口すら掴めない。


「あの1年生のパワーショットは厄介だし、小さい3年生は確かな実力で後輩の弱いところをフォローしてる。良いペアだよ」


 隣でがっくりと肩を落として下を俯いている後輩に言葉を投げかける。

 彼女は何も返して来なかったけれど、それでも良かった。


(私が、諦めるわけにはいかない・・・!)


 イブ、カノ、マト、ミスミ―――

 みんなが見てる。

 みんなが戦ってる。自分に出来ることをしている。


 だから、私が最初に止めるわけにはいかなかった。


(最初にテニスやろうって言ったの、私だから)


 そう。

 これは私たち大鷲台中学の中心選手たちが、ただの仲良し幼馴染5人組だった頃からのお話―――





 私たちは気づいたら、いつも5人で行動していた。

 小学校の帰り道は私たちにとって最高の遊び場。毎日いろいろなところを探検して、いろいろなところに出かけて・・・楽しい楽しい、そんな毎日を送っていたのだ。

 その日々に不満は無かった。日常こそが自分たちの全て。その感じだってたまらなく好きで、この時間が永遠に続くものだと思いながら過ごす日々―――


 イブ。明るく元気で、何をするにも全力の元気娘。

 カノ。昔はお淑やかでお嬢様って感じがしたけれど、最近はイブに張り合って負けん気が強くなった。

 マト。マイペースで、ちょっとぼうっとしたところがある女の子。

 ミスミ。ちょっぴり内気。私たち5人の中では唯一の1つ年下。


 そして、私―――マリ。

 自分で言うのもなんだけど、5人の中ではみんなを引っ張っていく役割をしていたと思う。


(今日は何して遊ぼうかなぁ)


 ある日の朝。

 そんな事をぼんやりと考えながら朝食のトーストを齧っていた時のこと。


『スポーツニュースです』


 その言葉に反応したのかどうなのか、ふとテレビ画面に視線を向ける。


『テニスの世界大会、全米女子のジュニアオープンで、11歳の綾野五十鈴がベスト4進出の快挙を達成。五十鈴ちゃんとして親しまれてきた天才テニス少女が世界の舞台で・・・』


 へぇ。

 その時は単純に、それだけを思った。

 同い年というのは知っていたけれど、その子が世界でベスト4か―――すごいなあ、と。思ったのは本当にただそれだけ。


「ねえ今日、テニスやってみない?」


 だからそうやって口にした時も、大した考えなんか無かった。

 たくさんある遊びの選択肢のうち、たまたま今日はテニスだっただけなんだ。


「お、いーじゃん」

「朝のニュースでやってたもんね」

「五十鈴ちゃん?」

「あいつ、あたしらとタメなんだよなー!」


 みんな最初から乗り気だった。

 だけど、私たちには道具も無ければ場所だって無い。

 ラケットは家にある子供が遊ぶ用の小さく、柔らかい素材で作られたものを使った。ボールもゴムボールだ。


 場所も小学校のグラウンドの端っこ、誰も使わないような場所で。

 勿論ネットも無ければラインも引かれていない。

 今日1日、遊べればそれでいいと思っていたのだけれど―――


「今日もやるの?」

「勿論!」

「マリだって1番ノリノリじゃん」

「私が1番強いしねー」

「なんだとこいつ」


 気づくとその期間は3日から5日、1週間から2週間へと長くなっていき。


「じゃーん。テニススクール! ここみんなで行こうぜー」


 私たちはテニスの虜になっていた。

 こんなに楽しいものがあるのかというくらい。

 そして楽しければ、強くなりたいと思うのは当然の事だった。


 強く、もっと上へ―――そんな事を考えながら、私たちの小学校最後の1年間はあっという間に流れていったんだ。


 中学進学の時期。

 私たちは全員、地元の大鷲台中学へと進学した。ミスミは1年下だから小学校のまま、1年間お別れということになる。

 この時のあの子のぐずりようったらなかった。春休み最後の日、卒業式ですら普通に過ごしていたミスミが号泣して駄々をこねたのには、さすがに驚かずにはいられなかったのだ。


 進学した私たち4人に待っていたのは―――


「え・・・、大鷲台にテニス部って無いんですか!?」


 話によれば、大鷲台は部活が強制ではない為、部員不足を理由に十年近く前に無くなってしまったのだと言う。

 テニス部が使っていた備品も練習場もコートも、今はもうない。

 まさに跡形もなくなってしまったのだ。


「ま、まあ部活はテニスだけじゃないし・・・。それに強制じゃないなら、放課後遊びに行くのもいいんじゃない?」


 正直、その事実を聞かされた段階で私の心はポッキリと折れていた。


(無理だよ)


 この中学でテニスをするなんて・・・。

 そんな事しか考えられなかった。


 だから―――


「いや、諦めねえ」


 イブが、


「無いなら作りゃあ良いんだ。"あたしらのテニス部"を!」


 そんな事を言い始めた時は―――本当に驚いたし、それと同時に、やっぱり無理だと思った。


 ゼロから部活を作る?

 いったい何をしたらいいんだ。一体、何から始めれば部なんて作れる?

 全然わからない。何もわからない。


 更に部の設立申請には最低5人の部員と顧問が必要とのことで、私たち4人では人数すらクリアしていなかった。

 肩を落とす私やマトに対して、イブは。


「ぜってー諦めねえ」


 彼女の闘志だけは、


「んなことで止まってたまるかよ・・・!」


 まったく折れていなかったのだ。


 それからは毎日があっという間に過ぎていった。

 部員集め。勧誘のためにチラシを作ったり、クラスメイトを誘ってみたり・・・。

 部員が集まったら、次は顧問の先生探し。暇そうな先生を見つけるのは結構大変だった。

 そしたら次は練習場の確保。生徒会と交渉して、何とか3日に1回、グラウンドの半分を使うことにこぎつけた。


 それからの練習漬けの毎日は、決して楽しいことばかりじゃなかった。

 だけど、たった7人のテニス部が、私たちにとっては掛け替えのない場所になったんだ。

 イブを部長に、カノが副部長に、それにマトが続いていって―――


 気づけば、私はみんなを引っ張る役なんかじゃなくなっていたけれど、それはそれで全然良かった。

 みんなが楽しく、やりたいことをやれているのなら、そのみんなと一緒に居られるのなら、私はそれが1番だと思ったのだ。


 ―――あの日、


「ゲームアンドマッチ、」


 ―――夏の大会を迎える、あの日までは


「ウォンバイ、相沢。6-0!」


 地区(ブロック)予選。

 1回戦を勝ち上がった私たちの前に立ちふさがったのは、決して強豪ではない―――だけど中堅として確固たる地位を確立している学校だった。

 恐らく、ちゃんとした指導者と練習場のあるチーム。


 そこに、私たちは1ゲームも取れず、ボコボコにされた。


地区(ブロック)予選で、これ・・・)


 いったい、県大会っていうのはどんな化け物たちが跋扈している場所なのだろうか。

 そしてその上の関東大会、全国大会なんて言うのは―――考えるだけで、恐ろしかった。

 自分たちには一生手の届かない場所なんだとも思った。


 それほどまでに、大きな絶望を突きつけられた大会だったのだ。


「・・・」


 普段は強気で、元気なイブが、この日ばかりは呆然としていて口数も少なかった。


(テニス部も、これで終わりかな)


 これほどまでに圧倒的な力の差を見せつけられた。

 正直、止める理由には十分すぎるくらいだと思った。何もない、趣味の集まり程度の私たちじゃ、本気でテニスをやっている子たちの集まりに対しては無力なんだと思い知らされたんだ。

 それか、テニス部を続けるにしても本当に遊び程度に留めるとか。


 私はこの時、大鷲台中学女子テニス部が翌日からそのようになると、信じてやまなかった。



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