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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第7部 関東大会編 1
248/385

東京を代表する者たち

『もはや鏡藤だけのチームじゃない!』

『都大会で急成長の初瀬田、関東大会でジャイアントキリングだ』


 都大会常連ながらも上位進出は無縁だった初瀬田中学。

 そのチームが強豪を押し退け、関東大会への出場権を掴んだ。

 今年の初瀬田と言えば、今や都を代表するエースプレイヤー・鏡藤風花と、チームをまとめ上げる部長・七本響希の二人三脚が印象的なチームだが、今や初瀬田は鏡藤のワンマンチームではない。

 ダブルス1の松本・折鶴ペアは都大会準決勝で黒永の那木・微風ペア、3位決定戦で緑ヶ原の最上・楠木ペア相手に連続で金星を挙げた「大物殺し」。都大会ではほとんど試合に出ることが無かったものの、3位決定戦で緑ヶ原の新倉を圧倒した「秘密兵器」的存在とも言える鵜飼由夢にも注目だ。我々編集部は彼女の試合をこの目で直接見て、関東大会でも通用すると確信した。

 加えて言うなら、初瀬田というチームは鏡藤・七本を中心に強く結束しており、チーム力という意味では白桜・黒永に勝るとも劣らないものを持っている。

 都大会3位に滑り込んだダークホースは、関東大会で名を上げることを虎視眈々と狙っているのだ。




『王者の戦線異常アリ!?』

『根強く残るダブルスへの不安。黒中総監督はテコ入れ示唆も』


 秋全国V、春準Vの絶対王者が不振に喘いでいる。

 6年連続で制覇していた都大会王者の座を白桜に譲り、チーム状態もイマイチ上がってこない。

 問題の根はダブルスの不調にある。準決勝、決勝の2試合においてダブルスの成績は0勝4敗。1勝も出来ていないのだ。

 黒永ダブルスと言えばジュニア時代に全国制覇の経験もある那木・微風ペアだが、彼女たちがピリッとしない。準決勝をあっさり落とすと、決勝では宿敵白桜の山雲・河内ペアに力負けした。

 春以降、ダブルス2を固定できていないことは兼ねてから問題視されており、ここに来てそれが表面化した格好だ。準決勝は吉岡・月下ペア、決勝は2年生の日下生を公式戦ではじめて起用したものの結果は出ず。

 全国でも屈指のシングルス陣は健在であるものの、先に2敗した状態で出番がまわってくれば苦しい戦いを強いられることは避けられない。事実、決勝でも最後の最後で大エース・綾野が白桜の久我に競り負けている。

 黒中総監督は関東大会でのテコ入れをする旨の話をしており、特に都大会で結果の出なかった2年生を入れ替えるのではないかという声も出ている。関東大会で王座に帰り着くためにも、最善の戦力を見極めることが重要だ。




『実を結んだ"白桜テニス"!』

『充実の戦力で7年ぶりの関東大会制覇へ』

『チームを支えるのは2人のスーパー1年生?』


 黒永を降し、都大会を制覇した名門・白桜。

 東京都2強と言われながらも、ここ数年は黒永にまったく勝てていなかった白桜が、今年は違う。

 春の大会で篠岡監督が弱点に挙げていたダブルス2、シングルス3を徹底的に補強し臨んだ夏。宿敵黒永を退け、都大会制覇という結果がその正しさを物語っていた。

 その強さの理由の1つに、レギュラークラスのダブルスを3組用意しているところが挙げられる。

 今や全国でも最強レベルの実力を誇る山雲・河内ペアに加え、菊池・藍原ペア、熊原・仁科ペアと、それぞれ特徴の異なるダブルスペアが3組も居るのは大きい。短期決戦となる関東大会では更に大きな武器となることだろう。

 シングルスは久我、新倉、水鳥と各世代1人ずつ、天才といわれるプレイヤーが揃っているのも◎。

 編集部が注目するのはこの水鳥文香に加え、ダブルス2を務める藍原有紀である。両名は東京都を代表する1年生。その彼女たちが大車輪の活躍を見せたのも、都大会の勝因の1つだ。黒永、初瀬田には1年生レギュラーが居ないことを考えれば、それは明らかだろう。

 白桜の天才シングルスプレイヤーの系譜を受け継ぐ水鳥と、ダブルス・シングルス両方こなせる器用さと本番での勝負強さを発揮する藍原。彼女たちが関東大会で更なる飛躍を見せることが楽しみである。





「『全国大会直前号』、売れ行きもまあまあみたいですね」


 こうして自分の撮った写真が誌面に載るのは嬉しいし、何度見てもうっとりする。・・・やっぱり、JCの爽やかな汗と健康的な肉体は最高だ。何かに向かって一生懸命な姿勢を合わせれはそれは何乗にも増していく。


 乗用車の助手席で自らが携わった雑誌を広げ、目を輝かせながら記事を熟読する時間というのは何物にも代えがたい。

 ただぼうっとしているだけの時間が、七色に光り輝いていくような、そんな感覚にも襲われる。


 何せこの後も取材だ。

 今日は神奈川の青稜大附属の練習にお邪魔させてもらうことになっている。

 関東大会も差し迫っているのに、取材対応してくれる青稜には頭が上がらない。


「綾野五十鈴の中学ラストイヤーだからね。この間の負けがメディアで大々的に報道されたし、注目度も例年より高まってると見て間違いないわ」


 カチ、カチとウィンカーを鳴らして、上司がハンドルを切る。

 私は免許を持ってないし講習も受けたことが無いので、運転中、この人が何をやっているのかはさっぱりだ。


「でもよかったんすか? "東京四天王"の話」


 都大会が終わった時、少し議論になった話題を蒸し返す。


 "東京四天王"に風花ちゃんを加え、最上さんを外そうかという話があったのだ。

 最上さん率いる緑ヶ原はもう敗退してしまったわけだし、"東京都を代表するシングルスプレイヤー四傑"という括りならば風花ちゃんは実力的に申し分なく、関東大会で戦う『東京代表を象徴する名称』としてもぴったりじゃないかという。


 結局、上司(このひと)の反対もあって、それはやめようと言うことになったのだが。


「あんたも変えた方が良かったと思う?」

「うーん。あれっていわゆる俗称みたいなもんじゃないですか。だからそんな(こだわ)んなくてもいいのかなあ、と」

「まあ、その意見も分からなくない」


 お、高速に乗ったな。

 広がった車線と上いっぱいに広がる青空を見ながら、そんな事を思う。


「でも元々、"東京四天王"っていうのは東京を代表する強豪校3校を統べる王―――部長3人と、傑出した実力と知名度を持つ綾野さんをひとくくりにする為の名称だったの。あの世代は実力的にもナンバー1の選手が部長を任されることが多かったし。それがいつしか『東京都を代表するシングルスプレイヤー四傑』に変わっていった」

「あれ、そういう意味でしたっけ」

「そうよ。だからいま現在の定義に当てはめるのなら、鏡藤さんは文句なしだと思うけれど、彼女は元々の意味の『王』ではないからね」

「で、反対したんですか?」

「それもある。けれど―――」


 彼女はどこか遠く―――フロントガラスの向こうの更に向こうを見ているような、そんな顔で。


「私としては、最上さんが1年間『王』で居続けたことに敬意を払いたかったっていうか、尊重したかったの」


 その表情には、編集者としての誇り(プライド)のようなものが滲み出ていたように、私には見えた。


「それにコロコロ変えちゃうと、読者が混乱するだろうなって」

「お、本音が出ましたね」


 私がおちょくるような声で言うと。


「はぁ~。あんたは聞き役としては平均点以下よ」


 と、大きなため息を吐かれてしまった。


「なんでですかっ」

「そこは黙って頷くとか、『そうですね』でいいの! その前に結構良い話してたんだから、ちょっとくらい照れ隠しに外したこと言いたくなるじゃない!」

「知りませんよそんなの! 私、難しい話より面白い話の方が好きなんですから」

「あんたの面白いはどの娘がかわいいとかエロいとか、そんな話ばっかじゃない」

「それのどこが悪いんすか!!」


 私はもっといっぱい、JCのかわいさとエロさについて語りたいんだ!

 それを大々的にやるとヤバいことになるから、こういう狭い空間でこそっとやるくらいに留めているだけであって!


 そんな事を大声で言っていると。


「なんでもいいから、警察のお世話になることだけはしないでよね・・・」


 マジで編集部(ウチ)終わるから・・・と、まだ午前なのに随分と疲れた顔と声で念を押されて、この会話はあえなく終了となった。

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