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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第1部 入学~2軍編
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天使との邂逅

 すぅ。

 ひとつ、息を吸い込む。


「ここが大都会! コンクリート・ジャングル東京ね!!」


 荷物を一旦地面に置いて、わたしは大きく両手を広げて叫ぶ。

 新幹線から降りた駅前の大通り前。周りの人たちはこちらを一瞥すると、何事もなかったかのようにいそいそとそこを通り過ぎていく。


「―――さて、」


 わたしは腰に手を置くと。


「乗り換え・・・って、どうやってやるんだろう」


 目的地である学校の最寄り駅に行くためには路線を乗り換えなければならないらしい。

 何線の何駅とかナントカ書いてあるけど。


(これは地下鉄のこと? それとも、普通に走ってる電車のこと? それともバスのことかな?)


 うちの地元には路線なんて1つしか無かったし。

 30分に1回くらいしか電車が来ないから、乗り継ぎや乗り換えなんて無かったし。


 まあ、つまり。


(完全に、迷った・・・)


 アカン。これアカン奴や。

 わたしはすぐにスマホを取り出し、ぱぱっと操作をすると。


「もしもし白桜(はくおう)女子中等部さんですか!? ワタクシ、今年新入生の藍原(あいはら)有紀(あき)と申す輩でございますが・・・迷子になっちゃいましたぁ!!」


 すぐに泣きついた。


「え、新入生送迎係が居るはず・・・? あの、どういう格好を・・・・。制服を着てる、はいはい。いや、その。ここが駅のどの辺りなのかも分からないんですけども!」


 もう少し田舎モンにも分かるように説明していただけませんか!

 こちとら人生初の上京でテンパってるものでして!


 わたしがそんな調子でスマホとわちゃわちゃ押し問答をしていた時のこと。


「―――あなた」


 誰かに呼ばれた気がする。

 そして次の瞬間、誰かがわたしの肩に後ろから手をかける。


「もう、今お取込み中なんです! ティッシュ配りなら要りませ―――」


 スマホを握りながら、後ろを振り返ると。

 そこに居たのは。


「白桜の新入生と言っていたわね」


 天使―――

 そんな言葉が相応しい、麗人だった。


 わたしより少し背が高くて、サラサラな黒髪が綺麗な・・・超絶美少女。


「送迎係の新倉(にいくら)(りん)です。向こうに新入生が集まっているから、あなたも着いていらっしゃい」


 天使が何かを言っているけれど、何も入ってこない。

 だって。


(わあああぁあぁ~~~)


 わたしの頭の中はもう、この綺麗なお姉さまの事でいっぱいになっていたから。

 顔どころか、頭のてっぺんまで真っ赤になって呆けてしまう。


「・・・? あなた、大丈夫? 顔が赤いけれど」


 はっ。

 気づくと至近距離に天使の顔が!


「い、いえいえいえ大丈夫大丈夫、全然大丈夫です!」


 すぐにのけ反って距離を取る。

 ダメ・・・。あんなに近づかれたらわたし、理性を保っていられる自信がありません。


「元気はあるようね」

「あ、あははは。昔から元気だけが取り柄で・・・」


 後頭部をかきながら笑いを浮かべる。


「着いてきなさい。案内してあげる」

「はい!」


 即答。こういう時は元気よく即答に限る。

 だってこんな美人さんが着いて来いって言っているんだから、着いていけば絶対に良いことがあるに決まっているからだ。


「あなた、随分遠くから来たようだけれど」


 歩いている間、天使にそんな事を聞かれた。


「地元がすっごい田舎で。新幹線でも3時間以上かかっちゃいましたよ~」


 わたしはへらへらにやにやした、緩み切った顔のまま質問に答える。


「そう。一つ、聞いても良いかしら」

「なんですかー?」


 聞かれたままに言葉を返すと、天使はこちらに向き直る。


 そして、随分真剣な表情をして。

 まるでこちらを見下すような姿勢で、言うのだ。


「そんなに遠くから故郷を離れて、あなたは何をしに白桜へ来たのかしら?」


 ―――見間違いだろうか。

 わたしには一瞬、天使が悪魔の様に見えた。


 そのせいか、言葉に詰まってしまう。

 でも、そんな感覚に襲われたのはホントにわずかな時間で。

 気づくと美少女と駅前通りで迎え合わせになって見つめ合っているという自分の状況が、冷静に理解できるようになっていた。


「―――よくぞ、聞いていただきました」


 わたしはにんまりと口角を上げる。

 何をしに? そんなもの、決まってるじゃない。


「わたしはテニスで全国制覇をする為に、白桜へ来たんです!!」


 人差し指を天に向けて突き刺しながら、わたしは宣言した。





 ―――この時のわたしは、自分の言葉の意味、その重さ、そして宣言した相手。


 そのどれも、何も分かっていなかった。

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