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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第4部 都大会編 2
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VS 緑ヶ原 ダブルス2 熊原・仁科 対 小嶺切・小嶺榛 3 "繋がり"



 あれは寒さが厳しくなってきた晩秋のことだった。

 テニス部の練習もこれから冬用の練習メニューに切り替わる、そんな事を考えると少しだけ億劫になってきた、ある日。


「先輩方。1つ、よろしいでしょうか?」


 彼女に、声をかけられた。


「「神宮寺」」


 いつものように切ちゃんと声が重なる。


「なんか用?」

「私ら、今日ちょっとブラックな気分なんだよねー」


 少しお道化た様子で、後輩をおちょくってみる。

 綺麗なウェーブのかかったストロベリーピンクの彼女は、そんな私たちの様子を気に留めるそぶりも見せず。


「先輩たちのプレーは、少しお行儀がよすぎるかと」


 などと、言い放ったのだ。


「あん?」

「どゆこと?」


 これには少し、懐疑的というか怪訝な視線を送る私と切ちゃん。

 後輩にプレーの意見を付けられたこととか、そんなつまらないことを問題にしてるんじゃない。

 『お行儀がよすぎる』という点についてだ。


「ラフプレーしろってこと?」

「いえ、そういう事ではありません。最大の武器を使いこなせていないという事ですわ」

「最大の武器ぃ~?」


 益々、訳が分からない。


「それって、私たちが双子であることを活かしきれてないって事だよね?」


 この点に関しては、十二分に使い切っているという自負があったからだ。

 私たちの他人が入る余地のないほどぴったりと息の合った連携―――これこそ、双子である最大の武器であり、他の誰かに意見されることが無いくらいにそれが完璧だという自信も、誇りもある。


「今現在、切先輩はフラットショットを、榛先輩はスライスショットを武器にされてますよね」


 驚いた。

 この後輩―――神宮寺は、今。


 きちんと、切ちゃんの方を見て「切先輩」、私の方を見て「榛先輩」と言ったのだ。


「おま・・・、私たちの見分けが付くの?」

「はい。おかしいでしょうか?」

「いや、おかしかないけど・・・普通じゃないよ」

「目は良い方だと自覚しておりますので」


 言って、彼女はぺこりと頭を下げる。


(この子―――)

(デキる―――)


 私たちは戦慄していた。

 十年来の友人ですら見分けることが出来ない私たちの見分けを、たった半年しか一緒に過ごしてない後輩がやってのけたのだ。

 『眼力』は、確かなようだった。


 閑話休題。


「"それ"、両方できませんか?」

「「は?」」


 また、切ちゃんと声が重なる。


「いやいや、必殺のショットだよ」

「そりゃ両方出来ることに越したこたぁないんだろうけど」


 あまりに突飛な質問に、笑いながら返すしかなかった。

 切ちゃんも全然本気っぽくない。


「なぜ、『越したことがない』ことをやろうとしないのですか?」


 しかし。


「ベストを尽くすのが、レギュラーたる者の務めかと思いますが」


 この神宮寺珠姫という子は違った。


「先輩方は双子ですわ。この言い方は失礼に当たるかもしれませんが、まったく同じことが出来る方々なのです。ならば、相手が出来ていることが自分に出来ないはずがない」


 最初から最後まで、徹頭徹尾―――


「それをやらないのは、今の2倍、練習するのが嫌だからですか?」


 『本気』だったのだ。





 ―――そうだ


(切ちゃんに)


 ―――相手の声が、聞こえてくる


(榛ちゃんに)


 前衛に居る、もう1人の私に視線を遣る。


(("もう1人の私"に出来ることが、私に出来ないわけがない!!))


 私たちは双子なんだ。

 他の人に出会ったのは、いくら早くても生まれた瞬間。

 でも、私たちは。

 その何ヵ月も前から、生まれる前から、ずっと一緒だった。


(同じ顔)

(同じ声)

((同じ身体))


 それを持って生まれた私たちが、"2人で"出来ない事なんて何もない。

 もう1人の私がスライスショットを必殺のショットにまで昇華させたのなら、私だって同じことが出来るんだ。


 まさかそれを、他人に言われて気づくとは思わなかった。


 あれから、確かに今までの2倍―――ううん、それ以上練習するようになった。

 互いの必殺ショットを習得する為に。それを使ったかく乱の戦術を習得する為に。

 "姫"が練習プランや戦術の基礎を教えてくれた。それを部長や副部長が一緒になって練習してくれて、そうやって作り上げたこの"双子戦術"。


 これには絶対の自信がある。

 私と、もう1人の私の絆、姉妹の愛が作った必殺の術だ。

 崩されるわけがない。


 ―――たかが


((出会って1年や2年のペアに、私たちの『生まれる前からの繋がり』は無い!!))





 敵のかく乱戦術にも何とか抵抗し、(わたくし)たちは一定の戦線を維持し続けていた―――しかし。


「ゲーム」


 活き活きとプレーする相手の双子姉妹に比べたら志気に劣る私たちは、ジリジリと焼き焦がれるように、少しずつ少しずつポイントを失っていき。


「5-4、小嶺切・榛ペア!」


 とうとう、王手をかけられた。


「大丈夫だよ杏。わ、私まだ体力あるし、ここから押し返せば全然いける、頑張ろう」


 コートから出ようとすると、先輩がすぐに駆け寄ってきて声をかけてくれる。

 なんか―――


「先輩」


 そこで私は、その違和感を口にした。


「無理、していません?」


 ―――今の熊原先輩、気持ち悪い

 ざらっとした、変なざらつきを感じる。


「え、あ、その・・・」


 先輩はしばらく口をパクパクさせて何かを言い返そうと頑張っていたけど。


「うん・・・」


 十秒も経たないうちに観念して、下を俯いてしまった。


「ほら熊原さん、お水。仁科さんはスポーツドリンク! まだまだ試合は終わってないよ、前を向いて!」


 ベンチに帰ると、コーチが笑顔で迎えてくれる。

 どうしてだろう。この人がこういうことをしてくれると。


「ありがとうございます」


 すごく有難くて、元気が出てくる。

 自然と自分の口から笑みが零れていて、笑いながらペットボトルを受け取った。


 でも、多分先輩にこれをやられたら、また気持ち悪さみたいなものを感じてしまうと思う。

 この差はいったい―――


(―――!)


 そこで、ピンと来た。


「熊原先輩」

「は、はい!」

「何か異常はありませんこと? 辛かったり、やりにくいこと、ありません?」

「う、うん。さっきも言ったけど全然走れるし、プレーに関して辛いことは無いよ」

「プレーに関しては?」


 そこで先輩はチラッと視線を外してきた。


「あ、あのね。杏、怒らない・・・?」

「怒りませんから、早く言ってくださいな」

「あ、うん。その・・・声」


 熊原先輩は伏し目がちになりながら。


「声、出さなきゃって思うのが・・・少し、しんどいかなって」


 その言葉を、吐露した。


「はあ、なるほど」


 どうしてもう少し早く言ってくれなかったのだろう。

 ううん、言えなかったんだ。この人の性格はもうよく知ってる。そんな事を自発的に言える人じゃないってことも。


「じゃあもう声、出さなくて良いですわ」


 そう言った瞬間。


「・・・ッ」


 顔から血の気がさーっと引いていったように真っ青になる先輩。


「ああ、違います違います。怒ってるんじゃなくて、ですわね」

「お、怒ってない? ホント?」

「本当です。私のこと、信用できませんか?」


 彼女はぶんぶんと顔を横に振る。


「目には目を、じゃありませんけれど・・・向こうの双子の以心伝心作戦に、少し感化されまして」

「感化・・・?」


 先輩は不思議そうにぽかんとして。


「向こうが声によるかく乱をやってくるのなら、私たちは・・・一切声を出さずプレーしてみませんか?」


 その瞬間、一目でわかるくらいに、先輩の顔がぱあっと明るくなった。

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