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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第1部 入学~2軍編
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入部!

 コート一面に部員達がずらりと並ぶ。

 ここに居るのが白桜女子テニス部の新入生・・・。ざっと、30人くらいだろうか。

 そしてその真ん前に居るのが。


「テニス部顧問兼監督の筱岡だ」


 キャプテンがああいう脱力系の変化球的な人だったから、監督も・・・と思っていたけど。


「我が校のテニス部に入ってきた以上、お前たちには当然全国優勝を目指すチームの一員となるのを目標にしてもらう」


 意外―――あるいはこれが名門校の普通なのだろうか。

 ショートの髪型に切れ長の鋭い目、大人だと思わせられる大きな身長にきちんとユニフォームを着こなした女性。

 女子プロのプレイヤーだと言われたら納得してしまいそうな、そんな威厳すら感じる語気の強さ。


 わたしが思い描く"厳しい監督"をそのまま体現したかのような人だった。


「中学テニスの大会規定ではレギュラーはダブルス2組、シングルス3名の計7人。それにサブのメンバーを入れて合計10名しか大会に登録することができない。我が校のテニス部は80人強の部員を抱える大所帯・・・。この意味が分かるか?」


 場が水を打ったように静まり返る。


「ベンチに入れるのは8人に1人、レギュラーになれるのは10人に1人だ。それ以外の部員はコート外で応援にまわることになる。この現実をまずしっかり覚えておいて欲しい」

「か、監督っ。新入早々の1年生を脅えさせてどうするんですかっ」


 その後ろで、ジャージを着たお姉さんがそわそわ慌てている。

 でも。

 わたし達当事者は、あの人の比ではなかった。


(つまり、10人居たら9人はレギュラーになれないって事・・・)


 ぎゅっと拳を握りしめる。


「お前たちには今から3年、時間がある。後悔しない3年間をこの部で過ごしてほしい」


 そして下唇を噛む。


「勿論そのためのバックアップは私と、ここに居る小椋コーチで惜しみなくやっていくつもりだ」

「あ、そ、そうです! みんな相談があれば何でも私に聞いてねっ」


 わたしだって全国制覇するチームのエースになるために遠路はるばる上京してきたんだ。

 レギュラーを外れることを考えるなんてバカらしい。わたしが狙うのは。


「市立第二小出身! 藍原有紀です! わたしはこの部のエースになって!」


 わたしが狙うのは。


「チームを引っ張り、全国優勝するためにここへ来ました。わたしは!」


 わたしが狙うのは。


「1年生で即レギュラーになります!!」


 ただ1つ、それだけだ。


 しん・・・。

 宣言した後、沈黙が辺りを包む。

 ふふふ、みんな、このわたしの言葉におののいて萎縮してる。そうに違いない。まあ、意識の差ってやつかな。


「あー、えー、こほん。埼玉東出身、長谷川万理ッス。シングルスでもダブルスでもどっちも経験あるッス。よろしくお願いしますッス」


 万理はそんな月並みの挨拶をして頭を下げる。

 すると、なぜかぱちぱちと拍手が聞こえてきた。


(あ、あれ!? わたしが挨拶した時、そんなん無かったよね!?)


 よく聞くと他の子のあいさつには全員拍手があるし! わたしだけ!?


(姉御、ちょっと挨拶が奇抜すぎたッス。みんな面食らって拍手どころじゃなかったんスよ)

(ええ~)


 全員の自己紹介が終わり、監督の言葉に戻る。


「今から試合形式の実戦練習を行ってもらう。お前たちの実力をここで見極めたい」


 ・・・あれ。

 こういう名門に入ったらまずは走り込みと球拾いだと思ってたけど、いきなり試合させてもらえるんだ。


「1ゲーム先取の試合を行い、負けた方が次の選手に交代、これの繰り返しだ」

「監督! いいですか!」


 わたしはビシッと手を挙げる。


「なんだ、言ってみろ」

「10人抜きしたら何かありますか!? いきなり1軍に昇格的な!」


 うわ、よくそんな事聞くな・・・、みたいな雰囲気が流れているのが自分でもわかった。


「そんなものはない。最初に言った通り、お前たちの実力を私が見極める」

「あ、そうですよね、ハイ」


 そんな都合よくはいかないか・・・。


「みんな、聞いて。監督が1年生の練習を見るなんて滅多にないことなの。監督は実力があれば1年生でもどんどん試合で使っていく人よ。実力を見極めるってことは、ここでそれ相応のものを見せれば・・・即1軍もあるってことなのっ」


 ずっとあわあわしていたジャージのお姉さん(コーチって言ったっけ)が、急に饒舌になる。


「えっ」

「ほんとですか!?」


 そしてそれと共に、選手たちに少しだけ歓喜の声が湧き出してくる。


「去年、新倉燐さんはここで監督に認められて、すぐ1軍昇格が決まったの。この中に彼女に相当する凄腕がいるのなら、あの子と同じ道を歩めるかもしれないわよ!」


 ガッツポーズをしながらエールを送ってくれる部長。

 ・・・この人、寮母さんとは違うベクトルの綺麗なお姉さんだなあ。おどおどしてて可愛らしいタイプ。


「最初にゲームを行う2人は・・・」

「監督!」


 わたしは間髪入れずに手を挙げる。


「不肖この藍原めが、オープニングゲームに立候補します!」


 瞬間、また場がざわついたのが聞こえた。ふふ、良い反応良い反応。


「ここでバーンと全員抜きしてやりますよ!!」


 1年生全員に一発で勝てたら。

 そうなれば絶対に即1軍昇格、そうなるはず。いやそうならないわけがない。

 ここに居る誰よりも強いと、確固たる形で証明できるのだから。


「分かった、入れ。他に希望者は居ないか?」


 わたしがラケットを取りにコートの端へ駆けていく間、もう1人の立候補が募られたが、誰も手を挙げなかったようだ。


「ならば名簿順で行う。青山、コートに入れ」

「は、はいっ!」


 青山さんが向こう側のコートに立った。

 緊張しているのか、表情が暗く見える。


「サーブ権は1ポイントずつに交代でいく」


 監督は審判席に座る。そりゃそうか。あそこが1番よく見えるもんね。


「藍原、最初のサーブ権は立候補したお前からだ」

「イエス、サー! お任せください!」


 ビシッと敬礼して、コーチからボールを受け取る。


 ぽん、ぽん。

 右手で2回、ボールの跳ね返り具合を確認。


(やっぱり、砂利のコートよりよく弾む)


 当たり前の話だけど。


(燐先輩、文香と戦って感じたのは・・・)


 わたしが練習場に使っていた砂利のコートに比べて格段にバウンドが高くなるし、球足は速くなる・・・と言うこと。


(つまり、ボールの勢いが死なない)


 まあ要するに。


(全力のサーブを、全力で打てば・・・!)


 ボールをトスし、身体をのけ反らせ。


 ―――いいだけ!!


 思い切りボールをインパクトした。


「!?」


 気持ちの良い打球音、そして硬球がコートに突き刺さる音。

 それらの次に。


「15-0」


 相手コートの後ろにある金網フェンスに、ボールが当たった音が聞こえた。


「それほど速いサーブには見えなかったけど・・・」

「コースも甘いし」

「あの青山って子、普通入学組?」


 がやがやとコートの外に居る選手たちの話し声が聞こえてきたけれど。


「・・・違う」


 文香の声が、少しだけ大きく耳に入ってきた。


「あの子は紛れもないスカウト組の選手よ」

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