間章
間 章
僕らは、まぎれもない人間だ。人間として生まれたからには、人間として生きる義務ってものがある。
だけれど、その義務を奪われた。僕らは、人形にされた。
もとの体はきっと焼却されているんだろうと、もとに戻るのは諦めていた。
僕らのことであって自分のことではないのに、僕らを諦めない人がいた。その人は、僕らの体を取り返してくれたらしい。その人のおかげで、希望を見出すことができた。
困難は、あった。もとの体のくせに、長い間人形に移し替えられていたから慣れずに拒絶反応が出る。少しずつなじませて、今では一時間ちょっとなら人の体に戻っていられる。ここが正念場なんだそうで、僕らはもう少しで完全に人に戻ることができる。
タイミングが悪かった。敵は、こっちの楽しみを持ち上げるだけ持ち上げといて落とすらしい。体は持っていかれ、また人形に戻る。今度こそ、この体は処分される。骨も欠片も残しはしない。相手は、そういうものだ。
あの人は、あの子はどうなるんだろう。僕と同じ境遇の子。僕に希望を差し出してくれたあの人。非力で小さい人形じゃなく、健康的で平均的な人間の男性の体が、あったら、二人を助け出せるのに。敵の狂信する神ってものが、敵たちの言う「誰に対しても慈悲の手を差し伸べる」存在なら、僕は迷わず、僕の体をここに持って来いと偉そうに命ずるだろう。まあ、そんなことできやしないけど。
僕は、その神を知っている。
さて、その神に最も近づく輩に、いろいろと「お説教」や「お叱り」を今こうしてもらっているわけだけど、お前などには用などない。引っ込め。
僕らをこうした「神」を差し出せ。おまえの信奉する神を殴り倒して、あの子とあの人を助けに行くから。
人形に戻った僕らは、大衆の前で踏みつぶされている。踏みつぶしているのは、ぼくらの敵の集団の、幹部クラスの奴だ。こうして異端者を見せしめに苛め抜くことで、大衆の抵抗心や疑問をそぎ落とす。やり方をよく知っている身としては、痛みや怒りよりもある種の感心を覚える。痛みなんてないようなものだ、人形だもん。
「信徒たち、我らが兄弟。見よ、裏切り者の末路を」
尻尾をつかまれて、衆人によく見せつける。その表面だけは美しく磨かれた靴で踏みつぶされた人形を、強烈な程に見せつける。醜い足を覆った靴で蹂躙された、哀れな猫の人形を、心に突き刺すように見せつける。
よくわかる。人形の目を通して、よくわかる。信徒たちの恐怖に染まった目が。痛みにじゃない、人形にされてここまで強烈に踏みにじられることに、信徒たちは最大の恐怖を覚える。痛覚や死には鈍感なくせに、無害な人形には怯えるのか。人形なんて、ただのかわいい布っきれじゃないか。……たまにいわくつきの人形だってあるけれど。
「我らが救い主を侮蔑する悪には、相応の裁きを」
何だか「救い主」を代弁しているように思えるけど、そんなことはぼくにとっては大切なことじゃない。
あの人と、あの子は、無事?
次章いくと思ったら間章あったの忘れてました。ぐはあ。