表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/31

五章-3

 次の監獄も、さきほどのものと似たり寄ったりだった。淡色で規模が小さい。看守も普通の信徒で、エリカが忍び込んでも何の興味も示さない。楽で都合がいいが、考えるという概念自体持たない人間に付き合うのは、気味の悪さがまとわりついてくる。

 一通り回って、誰もいない。人形が投獄されていると、信徒はその場所をなるべく避けて看守の役割を遂行する。ここでは、そういった傾向が見られなかった。ということは、人形のコーデリアはいないのだ。それに、人間のコーデリアも、エイナルもいない。人の体は、さらに監視が厳しくなる。ここの看守は五人ほど。小さな監獄とはいえ、数が少なく、信徒の動きに変化がなければここははずれだろう。

 案の定、ここには誰もいなかった。エリカはそれを確認してさっさと監獄を後にする。

「……ワトソンは、昔の全滅計画に参加してたのよね?」

 道中、小声でそう聞いた。

「ヨハンから聞いたのですね」

「うん」

「軽蔑しますか」

「どうなのかしらね。わたしでもよく分からない」

「自分の保身のために言い訳するつもりでは決してありませんが……旦那様にはそれを行うだけの大義がありました。誰かに何を吹き込まれても、お嬢様の知っている旦那様を信じてください」

「うん」

 次の監獄も、それほど大きくなかった。ただ、心なしか看守の数が多く感じられた。一通り一周してみて、ここでの看守の傾向が分かってきた。妙に、避けて通りたがる場所がある。エリカはさりげなくそこを素通りする。

 ぼろぼろになった兎の人形が、閉じ込められていた。覚えのある、コーデリアの人形だ。周囲に誰もいないのを見計らって、エリカはその牢獄に近づいた。

「コーデリア。聞こえる?」

「……お嬢様?」

「そうよ、エリカよ。待ってて、今出すからね。……この鍵は違った」

 ポケットの鍵束から鍵を選ぶ。数が多いから、時間との勝負になる。

「ここにおられるということは……ヨハンの所へ行ったのですね」

「うん。ヨハンとイオリに協力してもらって、あなたたちを助けに来たの。……あ、それから、危ないから逃げろって言わないでね。ワトソンの時にさんざん言われたから、最初に言っておくわ」

「ワトソンが? いたのですか?」

「もう助けたわ。猫の人形の方だけど。人間の体は、きっとヨハンとイオリが見つけてくれるわ」

 エリカのポケットから、少しだけワトソンが顔を出す。

「ここにいるよ」

「無事……ではなさそうだけど大丈夫みたいですわね。それにしても……ずいぶんと思い切った行動に出たものですね、お嬢様」

「ワトソンもコーデリアも、わたしの大切な家族よ。それを奪われたなら助けたいと思うのは、当然じゃない? ……よし、開いたわ」

 エリカは兎の人形を抱えて、胸ポケットにしまいこむ。

「あと一つ、回るところがあるの。それが終わったら、ヨハンの家に戻るから、それまで辛抱してて」

 エリカは何事もなかったという風に監獄を後にした。

 最後の監獄は外れた。ということは、ヨハンとイオリの担当する監獄に、ワトソンとコーデリアの本体、エイナルが投獄されているのだ。

「戻るわね」

「ええ」

「くれぐれも、お気をつけて」

 ポケットの中には、従者が二人、突っ込んである。助けたいと強く願った家族が、ここにいるのだ。それも、圧倒的な力量を持つ敵に対して、救い出すことができたのだ。英雄になったつもりはさらさらないが、エリカにはひそかな達成感が生まれた。

 このまま、覚えた地図通り、ヨハンの家を目指す。

 フードから髪がこぼれないように、ポケットから人形がはみ出ないように(もし人形が落ちて信徒に見られようものなら混乱どころではない)、信徒ではないことをさとられないように。エリカの演技は、完璧だった。


「そこの子」


 肩を、掴まれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ