四章-2
「ねえ、明日から数えて七日?」
「そうなる」
「わかった。ありがとう」
エリカはヨハンの方を向く。
「ヨハン、イオリの協力は?」
「今から電話して、できる限りの助力をもらうよ」
ヨハンはにっと笑って、大切にしていた紙をぴらぴらと見せた。エリカは満足そうにうなずいて、リオンに向き直る。
「リオン……と呼んでいいのかしら?」
「ご自由に」
「ならリオン、ヤエガキという人と連絡は取れる?」
「できる」
「『月』の信徒たちにバレずにできる?」
「できなくはない。お望みなら、今からでも可能」
「なら連絡をしてほしいの。エリカという子供が話をしたいと伝えて」
リオンは無言でうなずいた。
「それから確認したいのだけど、七日目の朝までは、準備をしておけと言われただけで、あれをするなこれはやめろという具体的なことは言われてないのよね?」
「何も。だから、あなたのしたいことはとがめられることはない」
「ありがとう」
リオンはコートのポケットから直方体の物体を取り出し、何かを操作した。数秒の沈黙と二三の会話ののち、それをエリカに差し出す。
「これは、なに?」
「でんわ。ヤエガキと話ができるから。どうぞ」
エリカはそれを受け取った。
「あ、あの……」
『初めまして、エリカ』
電話の向こうの主は、優しげな男性の声を持っていた。
「は、初めまして」
『いい子に育ったようで何より。リオンからの連絡で君が出るということは、君は今『月』の本拠地にいるんだね』
「うん……」
『エイナルが捕まっているというのも知っている』
「あなたは、助けたいと思わない?」
『友人を助けたくない人間なんていないよ。だけどね、私には何もできない。そこにいないということが、どれだけのハンデなんだろうね』
「できるわ。あなたは、リオンが言うには政府に口出しできる立場の人間だって言ってたわ。だったら、おじさまたちの救出も計画に入れるように掛け合えばいいの」
『教団だけじゃなく、政府も強敵なんだよ。世界を知らない君にはわからないかもしれないけど』
「世界を知らないわたしにとって、おじさまがいて、ワトソンがいて、コーデリアがいるあのお屋敷がわたしの世界なの。それを壊されようとするなら、守りたいの」
『面倒がり屋のヨハンがいるのに』
「ヨハンも助けてくれるって。……ヨハンじゃなくて、あなたもあなたにできることをして。危ないことはわたしがする。何もあなたに、今すぐここに来てってことじゃないの。自分の立場から、わたしたちを助けてほしいだけ」
『……君は、本当にいい子に育ってる。エイナルも危ない目に遭ってまで助け出したかいがあるというものか』
「危ない?」
『その話は終わった後にゆっくり話そう。私も、なるべく掛け合ってみる。ただし一ついいかな? できるだけ危ない橋を避けること。どうしても危ない目に遭わなきゃならない場合、うまく生き残るコツはね、なるべく危険を回避することだからね』
「うん。ありがとう、ヤエガキ」
『リオンに代わってもらえる?』
「うん」
エリカはリオンに電話を渡した。
「はい。……うん。それじゃ、また後で」
そういって、リオンは電話をポケットにしまった。
もう時間がない。猶予がはっきりしていると、嫌でも頭が冴える。




