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僕への人望が爆上がりすぎる~お前たち、そんなに僕を崇めるな~  作者: 天草冬樹


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奴隷を意のままに操る僕~episode4~

 アリッサとその父親からとんでもない情報を得た。カルタニアの王族につながる血筋の娘だと。しかも、王族として処分するほど近しい血筋でもない。かわいい妹の従者として最高じゃないか。使い物にならなかったら、その血筋を生かし、変態貴族に売り払えばいい。


 なぜ、急に奴隷を追加する必要ができたのか。それはかわいい妹のためだ。


 マルクス兄上とネティバ姉上に奴隷を差し上げたところ、妹のベアーチェが泣き出した。

「なぜ、なぜ、私にはないのですか」

「ベアーチェ、お前は来年、十歳になる。その時にとっておきの奴隷をあげようと思っているのだ」

「いや、今、今、欲しい。マル兄様、ネティ姉様と一緒に欲しいぃ」

 大声で泣き始めたベアーチェを見て、僕はとっさに言ってしまった。


「ベアーチェ。それじゃあ、来年のためのとっておきの奴隷をやるから。そうすると十歳の時のお祝いは無くなるよ。それでもいいの?」

「いい!」

 多分、来年はきれいさっぱり忘れて求めてくるだろう。でも、いいのだ。かわいい、大好きな妹のためだもの。


「それじゃあ、何日か待って。用意するから」

「うわあ、楽しみ。ルキ兄様、大好きです」

 涙の跡を付けたまま、ベアーチェが笑顔で抱きついてきた。今までのギャン泣きは何だったのかと思った。


「本当に簡単に掌で転がされる兄様、チョロすぎる」

 ベアーチェが僕の服に顔をうずめながら何か言っていた。『本当に、か…、兄様、…すぎる』は聴き取れたので、『本当に神様ありがとうございます。兄様、好きすぎる』と言っていたのだろう。信心深く、兄大好きな妹を持って、僕は本当に幸せだ。


 それにしても貴重な情報を得ることができて幸いだった。

 情報をもたらしてくれたアリッサの父親、何という名だったかな。


 そう、スケ…、スケベェだ。今度、スケベェをみんなの前で褒めてあげよう。名前を覚えただけで泣いて感動していた奴らだ。気を失うくらい喜ぶだろう。


 明日は早朝から動くぞ。今夜は早く寝よう。



「いや~、あんなチョロいご主人様。前世でも見たことないね」

「アリッサはジュリアと仲良くなっていたもんね。たださぁ、ご主人様が動くとなったとき、アリッサ、すっごく悪い笑顔になったよ。ご主人様だから気が付いていないけど、あれ、気を付けたほうがいいよ」


「エレ姉、私、そんな顔してた?」

「してた、してた。黄門様に出てくる悪代官みたいな顏してた」

「あのさ、お前たち、黄門様は出さないで」

「助さんなのにイヤなの?」


「パパの名はスケチャ」

「すけちゃん!」

「やめろよ」

「めっちゃ面白いね」

「いや~、あんな面白くてチョロい人がご主人になるなんて奴隷もいいね」

 

 家族全員で心から笑える日が来るなんて。ルシアス様には感謝しかない。



 僕は朝食のとき、父上に昨日買った奴隷の話、そして極秘情報として王族につながる母娘の奴隷の話をした。

「それはぜひ購入しろ」

「とんでもない情報ね。その奴隷たちを大切にしなさい」

「はい。たった一日で僕に心から忠誠を誓っている様子です」


「ルキアスはすごいね。どうやったら、そんなに忠誠を誓うようになったんだい」

「奴隷どもの名前を覚え、名前を呼んであげたのです。そうしたら、真っ赤になって感動して、涙まで流していました」

「来たばかりの奴隷の名前を覚えたんだ」


「はい。スケベェ、ヒトウと呼んだら、娘たちまで涙を流して喜んでいました」

「そうか。私たちも奴隷たちの名前を覚えてあげるか」

「そうすると忠誠心が上がると思いました。お試しください」

「ルキ兄様、すごいです」


 僕たちの朝食の会話は弾んだ。


 

 僕は朝食を終えると、ルーシェ、そして昨日の護衛の兵士二人に加え、さらに四名、計六名の兵士と共にピッツァに向かった。僕とルーシェは馬車で、他の者たちは馬だ。

 石畳の道を僕たちは進んでいく。


「ルーシェ。父上はどこまで出してくださるのだ」

「100アレスまで許すと言われました」

 僕の持っていた10アレスにまもなくもらえる100アレスを合わせると210アレスか。今の相場なら成人の男奴隷が10人は楽に買える金額だ。十分すぎるだろう。ついでに他の奴隷も買うかな。


 日が落ちる前にピッツァに着いた。僕はカエサル家が帝都に向かうときいつも泊まる宿に向かった。早馬で宿泊することは伝えてある。


「ルシアス・カエサルだ。部屋に案内しろ」

「ルシアス様、申し訳ございません。今日はいつも宿泊されている部屋はご案内できません」

「どうしてだ」

「ルシアス様からご連絡が来る前に、フラン辺境伯のコルティ様がお入りになられていまして」

「なに、コルティ様が」

「はい」

「それならそうと言え。それでは部屋に案内しろ」


 僕はいつもと違う廊下を通り、部屋に入った。狭いが道路に面し、見晴らしがいい。

「うん。この部屋でいい。ベッドは二つしかないぞ」

「申し訳ございません」

「よい。ここはルーシェと二人だな。護衛の兵士二名は向かいの部屋か。後は下だな」

「さようでございます」


 護衛の兵士たちが出ていった。

「ルーシェ、ちょっと見てほしい」

 僕がズボンのひもを緩めた。


「ルキアス様。まだ夕食も食べていません。お早いのでは。私も心の準備が!」

「夕食前だからだ」

「…はい、ご満足いただけるかわかりませんが精一杯努めさせていただきます」


「見てくれ。一日中、馬車に揺られてお尻が痛いのだ。腫れていないか」

「…はい?」

「痛いのだ」


 僕がお尻が痛くて見せているのに、ルーシェはボーっと立っている。役に立たない奴だ。

「見ろ。腫れていないか」


「ちっ。ああ、冷やしますね。そのままお待ちください」

 今、舌打ちをしたように聞こえたのは気のせいだろう。僕も疲れて、ありえない音が聞こえたように感じているのだ。

 水で濡らした布がお尻に当てられた。ひんやりして気持ちいい。


 そのまま寝てしまった。

「ルキウス様。夕食の時間です」

 しばし寝ていたようだ。ルーシェに起こされ、一階に向かう。護衛の兵士も一緒にテーブルを囲む。御者は馬の世話もあり別だ。


「私どもも一緒に座るとは恐れ多いです」

「よい。どうせ護衛として周りにいるのだ。むしろ周りに立っていられるほうが落ち着かない。父上たちもいないのだ。気にするな」

「はっ、ありがたいお言葉、ありがとうございます」


「昨日もな、買ったばかりの奴隷たちの名を覚えて言ってやったら感動して泣いていたよ」

「それはすばらしい」

「ああ、僕は家を継ぐわけでもないから、市民階層であるお前たちや、さらには奴隷たちともいい関係を築いていきたいのだよ。そういうわけでお前たちの名前も教えてくれ」


 僕は『お前』ではなく、そいつの名前を呼んで、自分の名前を覚えていてくれたと感動させたいのだ。それを教えてくれたスケベェたち、あの家族には奴隷とは言え感謝したい。



「いや~、ルキウス様は今頃どうしてるかな」

「多分、俺ってすごいとか勘違いしながら自己満してるよ」

「エレ姉、ルキウス様のこと、そんなふうに言っちゃだめだよ」

「そうよ。ママはね、ルキウス様のことを思うと心があったかくなるの」

「秘湯だもんね」

「そう、秘湯だから」

「ママ、ルキウス様で遊ばないで」

 ハンノキ家のルキウス愛が止まらない。



 翌日、僕はアリッサから聞いた目的の奴隷商人のところに行った。街からはすぐだが、小さな丘を挟むため人気がない木々に囲まれたところだ。

「カエサル家のルキウスだ。ジェノベチア領主である父上から直々に奴隷購入を命じられてここに来た。ここの奴隷は質がいいと聞いてな」

「ありがとうございます。すぐに上質な者を集めてきます」

「いやいや、のんびり見ていくからいいぞ」


 街中と違い、広い敷地を区切って奴隷たちがいる。敵意を向けてくる者、無気力に眺めてい者、こびてくる者、そして…、なんだ、こいつは?

 大の字になって空を見ている。体中、ひどい傷だ。

 死んでいるのか?

 いや、よく見ると腹がわずかに動いている。


「あれは?」

「…ああ、あれはカルタニアの百人将でございます。将として首をはねるほどではございませんが、ロウムス帝国の兵もかなりやられました。負傷して倒れたところを捕らえ、ベスビオウス将軍が敵ながらあっぱれ、奴隷としての使い道もあるだろうと。私の甥がベスビオウス将軍の副官補佐という縁もあって、私が買い取らせていただきました。ただ、寝首をかかれるのではと皆様、購入をためらっている物件でございます」


「カルタニアの百人将か」

「はい。あれほどの巨体ながら、戦争の前は医学の道を志していたようです」

「ほう。…買うかな」

「よろしいのですか」

「ああ。面白そうだ」

「お前たち、カクサニウスを連れて来い」


 カクサニウスと言うらしい。言いにくな。

「カクサニウス、お前のご主人が決まったぞ」

「…」

「なかなかでかいな。僕の護衛にお前を買ってやる」

「…怖くないのですか。俺があなた様を襲うかもしれないと思わないのですか」


「そう言った段階で、お前は僕を襲う気はないんじゃないか。お前が忠誠を誓っていたカルタニアは滅んだ。お前はこのままだと闘技場で戦い死んでいくだろう。お前には知性と優しさを感じる。それがお前を買う理由だ。僕を守る限り、僕はお前を保護してやる」


「そうですね。…こんなかわいい子のそばにいられるならいいかも。ああ、踊らせたい、歌わせたい」


 小声で『こんな…たい』と言ったのが聞こえた。そうか、こんな俺を必要としてくれてる方に奉公したいと言ったのだな。カクサニウスの目を見て確信した。あの目は神殿で神々の彫像を見ているときの巫女たちと同じ目だ。

 一瞬にして、僕を崇めるようになったか。自分のカリスマ性に驚いてしまう。


「いくらだ」

「50アレスでございます」

「高いな」

「高い戦闘力とこれだけの肉体。そして、まだ十九という若さでございます。それによく見てください。まるで戦神マウルスのような顔立ちを」

「戦神マウルスは豊穣と平和の神でもあるのだぞ。こんな、ごつくて戦うことしか考えていないような顏ではないだろう」

「いえ、護衛としては最高の顔です。怖くて誰も寄ってきません。転売するときに付加価値が付きます」

「う~ん、やっぱり顔はもう少し近衛兵みたいなかっこいい顔がいいな。こいつを連れていたら犯罪者にしか見えんぞ。他にいないのか」


「お坊ちゃま、40アレスにしますので買ってください!」

「は?」

「なぜ、売られるお前が値段を決めるのだ」

 奴隷商人が叫んでいる。カクサニウスが自分で40アレスと言ったぞ。ここでは奴隷が自分の値段を決めるのか?


「こいつが40アレスと言ってるぞ」

「無視してください。他にも買われる予定がありますか」

「ああ。妹の侍女が欲しいのでな。そっちが優先だ」

「それでは、それを含めてお話しませんか」

「そうするか」


「ご主人様、ぜひ、ぜひ、購入を検討してください。私は医学の心得も多少あります。しかも今なら24時間警備。一緒に寝ます。いや、一緒に寝させてください」


「なんか気持ち悪い奴だな。やっぱりやめよう」

「そんなぁ。お待ちしております。私の推しに、私の推しになってください」


 私のオシ? オシとは何だ。ああ、星か。私の星、つまり、私の生きる希望、目標になってほしいということだな。ほんのわずかな時間で僕という人間を見抜いたか。なかなかの奴かもしれない。やっぱり買おうかな。



 女の奴隷が集まっているスペースに行く。檻で区分けされたなかで一際丈夫な檻の中に目的の母娘がいた。言われていた通り母親は鮮やかな金髪なのですぐにわかった。隅っこに立っているだけなのに雰囲気が違う。


「あの母娘は?」

 さりげなく目についた感じで奴隷商人に声をかける。


「さすが、お目が高い。昨日、着いたばかりです。それなりの身分だったのでしょう」

「おい、そこの母娘。ちょっと来い」


「母親と娘か。何歳だ?」

「私が二十六、娘が八歳です」

「妹と同い年か。ちょうどいい。いくらだ」

 始めからこの母娘狙いだと知られていたら高くふっかけられるだろう。僕は一応聞くという感じで尋ねた。


「はい、母娘でセットで200アレスでございます」

「200!」

「あきらかに貴族の血筋。しかも少し歳はいってますがすこぶる美人の母、そして、これからが楽しみな娘。これほどのものはもう二度と入ってきません」


「う~ん。でもなあ、見た目がいい女はそこいらにいるじゃないか」

「育ちは金で買えません。帝都に行けば、この母娘は250アレスでもすぐに売れます。実は、帝都で300アレスで売ろうと思っていたのですが、カエサル家のルキアス様がわざわざ来てくださったのですから、利益など全く出ないこの価格でお譲りしたいのです。いかがでしょうか」


「予算がなあ」

「わかりました。今すぐにお決めいただけるのなら先ほどの奴隷をタダで付けましょう」

「なに、タダ!」

「はい。それに少々弱っていますが子どもの奴隷を二人、さらにサービスで付けます」

「買った!」


 なんてお得な買い物だろう。僕の人徳だろうか。本来なら帝都で300アレスで売られる母娘と50アレスの護衛奴隷、さらに子どもの奴隷二人。370アレスはかかるはずが全部で200アレス。すばらしい。買い物上手すぎるだろう。


 

 なんてチョロいお貴族様だ。あの母娘だけを明らかに狙って来ていたのはバレバレだった。全部で100アレスもかからず買った奴隷五人が200アレスで売れ、しかも死にそうなガキ二人を処理できた。あの母娘は少々もったいないが、ここでカエサル家とのつながりもできたし、万万歳だ。

「さすが、俺」

 思わず呟いてしまった。



 奴隷商人が感動したような顔で僕を見ながら『さすが…』と言っている。そんなに僕を褒めるな。恥ずかしいだろう。

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