表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/22

感覚が多すぎる男

点呼の列に、見慣れない影が混じっていた。


赤い髪の少年が、壁際で膝を抱えるように座り込んでいる。


「――特別編入生、桐谷ミナト」


返事はなかった。


代わりに、彼の肩が小さく震えた。


「聞こえてないのか?」


誰かがそう言った直後、桐谷が顔を上げる。


「……うるせぇ」


掠れた声だったが、近くにいた訓練生が思わず耳を押さえた。


その異変は、食堂でさらに明確になる。


トレーが擦れる音。


椅子を引く音。


話し声。


そのすべてに、桐谷は過剰に反応した。


「っ……!」


フォークを落としただけで、身体が跳ねる。


照明の白さに目を細め、匂いに顔を歪める。


「音が……近い……」


「光が、刺さる……!」


「人の声が、多すぎるんだよ……!」


空気がざわつく。


ミコが目を閉じ、眉をひそめた。


「感情……過剰。恐怖と不快が常時流れ込んでる」


「常時?」


「止まらない。ずっと限界」


三崎教官が一歩前に出る。


「桐谷、落ち着け」


その距離が、引き金だった。


「来るな!!」


衝撃が弾ける。


床が抉れ、テーブルが宙を舞った。


悲鳴と同時に警報が鳴り、隔壁が降りる。


「能力暴発!」


「全員、距離を取れ!」


レンが即座に結界を展開し、二次被害を防ぐ。


それでも桐谷は頭を抱えたまま叫び続けていた。


「全部来るんだよ……!」


「音も、光も、匂いも……一個ずつなら耐えられるのに……!」


ユウトは、その姿から目を離せなかった。


理解できてしまう。


あれは“暴れている”のではない。


耐えきれず、壊れかけている。


「灰原」


三崎教官の声が飛ぶ。


「解析できるか」


ユウトは一歩前へ出た。


【アナライズ】

能力:感覚増幅

能力構造:五感受信感度を常時強制拡張

代償:刺激遮断不可/感覚蓄積による精神摩耗

弱点:刺激遮断環境でのみ安定


情報が流れ込む。


止められない。


遮れない。


感じ続けるしかない能力。


「……生きてるだけで、地獄だ」


思わず漏れた言葉に、桐谷が笑った。


「だろ……? やっと分かる奴が来た……」


次の瞬間、衝撃波が結界を叩いた。


レンが歯を食いしばる。


「長く持たない!」


「ユウト、下がれ!」


ソラの声が飛ぶ。


危険だと理解している。


致命的だと分かっている。


だが――身体が止まらなかった。


胸の奥が、妙に静かだった。


怖い、という感覚が立ち上がってこない。


「レン、部分遮断!」


「無茶だぞ!」


「今だけでいい!」


遮断が走る。


ほんの一瞬、桐谷の動きが鈍った。


「ソラ!」


「分かってる!」


風圧が正面から叩き込まれる。


光と音と衝撃が重なり、感覚が一点に集中した。


「あ……ああ……!」


能力が内側で暴れ、桐谷の身体が崩れ落ちる。


真白が駆け寄る。


「生命反応あり! 神経が限界……!」


騒動が収まったあと、食堂には壊れた床と沈黙だけが残った。


夜。


203号室の灯りが落ちたあとも、ユウトは眠れずにいた。


今日のことを思い返す。


衝撃波。


叫び声。


死ぬ可能性。


それらが“危険”だったことは、理解できる。


だが。


心拍が上がった理由が分からない。


「……なあ」


暗闇でソラが呟いた。


「今日のやつ、正直……怖かったよな」


ユウトは答えられなかった。


怖いという感情が、どこにあるのか分からなかったからだ。


廊下の向こうから、ミコの小さな声が聞こえる。


「……減ってる」


「まだ消えてない。でも、確実に薄くなってる」


ユウトは天井を見つめた。


勝利のあとに喜びを失い、


今度は危険の前で、恐怖を感じきれない。


感情が、順番に削られていく。


それがどれほど致命的かを、理解できる頭だけは残っていた。


だが――


止まりたいと思う気持ちが、どこにも見当たらなかった。

"ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


この物語は「観測されることで」先へ進みます。

もし少しでも続きを見届けたいと思っていただけたなら、

ブックマークという形で、観測に加わってもらえると嬉しいです。


次話も、アナライズは続きます。"

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ