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正解だけの世界

2話毎更新してます。

点呼の列は、どこか歪んで見えた。


人数は変わっていない。


欠けている者もいない。


それでも、空気だけが明らかに違っていた。


別班全滅から三日。


施設内では誰もその言葉を口にしないが、沈黙の密度だけが増している。


靴音が揃わない。


呼吸の間隔がばらばらだ。


「――本日の訓練内容を通達する」


三崎教官の声が響く。


「灰原ユウト、前へ」


呼ばれるより早く、ユウトの足は一歩踏み出していた。


自分でも、その速さを意識する。


待つという動作が、身体から抜け落ちつつあった。


「単騎即応班として、正式配属を命じる」


小さなどよめきが広がる。


拍手も、祝福もない。


評価であり、同時に線引きだった。


ブリーフィングルームには、白い照明と端末の光だけがあった。


向かいに座る鷹宮レイナは、いつも通り表情を動かさない。


「あなたの判断速度は、平均能力者の約三倍です」


画面に数値が並ぶ。


反応時間、決断時間、損耗率。


「罪悪感反応の消失により、判断遅延が発生しません」


それは“欠落”ではなく“利点”として扱われていた。


「あなたの解析結果は、今後すべての作戦で最上位判断とします」


「他班の意見は、参考値に留めます」


人の命より、数字が優先される。


それを異常だと思う感覚は、もう湧かなかった。


「質問は?」


「ありません」


即答だった。


疑問が生じない。


それ自体が、変化の証だった。


昼の食堂。


長テーブルの端に座り、黙って食事を進める。


笑い声が遠い。


聞こえてはいるが、距離感が合わない。


「……あの人、最近ちょっと」


「目、怖くない?」


ひそひそ声が背中に届く。


以前なら、不快や居心地の悪さを覚えただろう。


今はただ、音声情報として認識するだけだった。


午後の判断訓練。


映像が切り替わり、三つの災害シミュレーションが同時に表示される。


爆発。


倒壊。


能力暴走。


「制限時間三十秒」


教官の声と同時に、ユウトの視界が数値で埋まった。


到達時間。


生存率。


被害拡大係数。


十二秒で答えを出す。


「区域Cを放棄。AとBを優先」


「Cには要救助者が残っている」


「生存率が最低です」


それ以上の説明は不要だった。


正解は、常に一つしかない。


室内に、誰も言葉を発しない沈黙が落ちる。


否定できない。


だが、肯定もできない。


その狭間で、誰も視線を合わせなかった。


夕方、医療室の定期チェック。


モニターには平坦な脳波が映る。


「罪悪感反応、引き続き検出されません」


「感情の揺らぎは極めて安定しています」


安定。


その言葉に、安心よりも隔たりを感じた。


夜。


個室へ戻る途中、203号室の前で足が止まる。


扉の向こうから、誰かの笑い声がした。


ソラの声だと分かる。


以前なら、当たり前にそこにいた。


今は入らない。


入る理由が見当たらない。


部屋へ戻り、灯りを点ける。


静かすぎる空間。


音が反響しないことに、まだ慣れない。


ベッドに腰を下ろし、今日一日の判断を反芻する。


間違いはなかった。


最適だった。


誰かを責める必要も、自分を悔やむ必要もない。


だからこそ、思考は止まらない。


次は、もっと早く。


次は、もっと多くを救う。


そう結論づけることに、抵抗が一切ない。


正解だけの世界。


そこでは、迷いも痛みも存在しない。


そしてその世界に、ユウトは静かに適応し始めていた。

"ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


この物語は「観測されることで」先へ進みます。

もし少しでも続きを見届けたいと思っていただけたなら、

ブックマークという形で、観測に加わってもらえると嬉しいです。


次話も、アナライズは続きます。"

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