表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

間に合わなかった

現場に到着したとき、すでに終わっていた。


空は白く濁り、焦げた匂いだけが風に残っている。


北区画第三ブロック。


昨夜、別班が全滅した場所だった。


「……反応、ゼロです」


アオイの声が、必要以上に乾いていた。


瓦礫の間には、焼け焦げた装備と、識別タグの欠片が散らばっている。


能力反応は完全に消失。


空間歪曲の痕跡も、薄く揺らいだまま霧散していた。


「解析できるか」


三崎教官の問いに、ユウトは頷いた。


遅すぎると分かっていても、視線を向ける。


【アナライズ】

能力:空間歪曲

能力構造:半径固定型閉鎖空間生成

代償:自己座標永久固定(能力解除不可)

弱点:能力者死亡時のみ解除


情報が揃った瞬間、全員が理解した。


助けられなかったのではない。


助ける方法そのものが存在しなかった。


能力者が死ぬまで、空間は解けない。


つまり別班は、最初から詰んでいた。


「……じゃあ」


ソラの声が震える。


「俺たちが行ってても……」


「結果は同じだ」


ユウトが答えた。


感情ではなく、事実として。


救出確率はゼロ。


誰が行っても、全滅していた。


その判断は、間違っていない。


数値も、構造も、それを証明している。


だが。


瓦礫の隙間から、ひとつの手が見えた。


黒く焼け、指先だけが形を残している。


その光景を見た瞬間、胸の奥に何かが浮かびかけた。


重い。


鈍い。


何かを、感じるべきだという認識。


だが、それが何なのか分からない。


「……何で」


ミコが呟いた。


「何で、何も感じないの……」


ユウトは答えなかった。


正確には、答えられなかった。


悲しい。


悔しい。


申し訳ない。


そう思うべき場面だと、知識として理解している。


だが胸は沈黙したままだ。


「俺の判断が早ければ」


「俺が前に出ていれば」


そういう仮定すら、頭に浮かばない。


最初から不可能だった。


それで思考が終わってしまう。


帰投後、医療室に呼ばれた。


検査項目は増えていた。


脳波。


感情誘発刺激。


事故映像。


死亡報告音声。


通常なら、強い反応が出る刺激。


だがモニターは、静かな波形を描くだけだった。


「……罪悪感反応が確認できません」


医師の声が、わずかに揺れる。


「他者の死に対する自己責任感情が……消失しています」


ユウトは、その意味を理解した。


自分が原因でなくても。


助けられなかったとしても。


「自分のせいだ」と思う機能が、もう存在しない。


廊下に出ると、ミコが壁にもたれていた。


目が赤い。


泣いていたのだと、すぐに分かった。


「ねえ」


声をかけられる。


「あなたは……苦しくないの?」


少し考える。


苦しさとは何かを、定義しようとする。


胸が締めつけられる感覚。


後悔で眠れない状態。


それらは、もう想像でしか分からない。


「……分からない」


正直な答えだった。


ミコは唇を噛みしめ、何も言わなかった。


夜。


個室の灯りは消えたまま。


ユウトはベッドに横になり、天井を見つめる。


誰かが死んだ。


それは事実だ。


自分はそこに間に合わなかった。


それも事実だ。


だが、その二つを結びつける感情が存在しない。


後悔も、罪も、痛みもない。


残っているのは、


「次は、より早く判断する」


という結論だけだった。


それが、最も多くを救うから。


その思考が、あまりにも自然に成立していることに、本人だけが気づいていなかった。

"ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


この物語は「観測されることで」先へ進みます。

もし少しでも続きを見届けたいと思っていただけたなら、

ブックマークという形で、観測に加わってもらえると嬉しいです。


次話も、アナライズは続きます。"

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ