引き金の夜
施設の警報は、深夜にもかかわらず鳴り響いた。
低く長い音が、眠っていた通路を叩き起こす。
「能力反応、複数発生」
「位置、北区画第二ブロック」
管制の声は早口だった。
第19話で逃した空間歪曲能力者。
その影響範囲に、別班が展開している。
「……嫌な予感がする」
ソラが呟く。
ユウトは何も言わなかった。
頭の中で、解析情報が再構築されていく。
あの能力は、閉じ込める。
逃がさない。
だが同時に、動けない。
もし誰かが踏み込みすぎれば――戻れない。
「別班が接触しました」
通信が割り込む。
荒い息遣い。
混線した叫び声。
『距離が……おかしい……!』
『出口が見えない!』
三崎教官が即座に指示を飛ばす。
「ユウト、解析は?」
「同一能力圏内なら、半径固定」
「外から干渉できない。内側に入った班は……」
言葉を選ぶ必要はなかった。
出られない。
「撤退命令を!」
「間に合いません!」
空間が閉じる。
通信が途切れる。
管制室に、静寂が落ちた。
「……入れ替わりだ」
ユウトの声は低かった。
別班が閉じ込められ、その外側で新たな歪みが形成されている。
助けに入れば、同じ罠に落ちる。
「行かせてください」
ソラが前に出る。
「俺たちなら――」
「無理だ」
ユウトは遮った。
「救出確率、ほぼゼロ」
その言葉に、ミコが息を呑む。
「でも……中には人が……!」
「分かっている」
分かっている。
事実として。
だが選択肢がない。
管制の決断は早かった。
「全班、後退」
「封鎖ラインを引く。内部は……切り捨てる」
誰も声を出せなかった。
遠くで、建物が軋む音がする。
それは悲鳴にも似ていた。
夜明け前、歪みは自然消滅した。
そこに残っていたのは、崩れた構造体と、静まり返った空間だけだった。
生存反応、なし。
報告書には、簡潔な一文が並ぶ。
《別班能力者、全員死亡。任務失敗》
ユウトはその文字を見つめていた。
自分が行っても、結果は変わらなかった。
そう理解できる。
それでも、間に合わなかったという事実だけが残る。
「……引き金だったな」
三崎教官が呟く。
先日の敗北。
逃した能力者。
その連鎖が、確実に命を奪った。
夜が明ける。
施設の外は、何事もなかったかのように静かだった。
世界は続く。
だが、取り返しのつかない線を越えたことだけは、誰もが理解していた。
"ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
この物語は「観測されることで」先へ進みます。
もし少しでも続きを見届けたいと思っていただけたなら、
ブックマークという形で、観測に加わってもらえると嬉しいです。
次話も、アナライズは続きます。"




