減っていく温度
朝の点呼は、昨日より少し長かった。
「――本日より混成訓練を開始する」
三崎教官の一言で、ざわめきが走る。
「男子班Aブロックと女子班第三班を統合。実戦想定で動いてもらう」
扉が開き、三人の少女が入ってきた。
「真白ユキ。再生付与能力者です」
淡い声で名乗った少女は、どこか眠たげな目をしている。
「霧島アオイ。視覚共有」
短く告げると、彼女はすぐに端末を操作し始めた。
「早乙女ミコ。感情感知です」
最後の少女は、名乗った直後にユウトを見た。
一瞬だけ、眉がわずかに動く。
「……後で、話せる?」
理由は言わなかった。
食堂では自然と長テーブルが使われた。
男女合わせて六人。
人数が増えただけで、空気が変わる。
「女子班って、医療と後方特化なんだな」
ソラが言う。
「前線は男子が出る形ですか?」
真白が首を傾げる。
「死なせないのが私の役目ですから」
「さらっと重いな……」
レンが小さく呟いた。
ユウトは会話を聞きながら、妙な違和感を覚えていた。
笑っている。
談笑している。
空気は悪くない。
なのに――胸が、あまり動かない。
楽しい、はずなのに。
午前は能力制御訓練だった。
白い訓練室に、各能力者が配置される。
「灰原」
三崎教官が呼ぶ。
「解析は一回のみ。無意識発動を防ぐ訓練だ」
ユウトは頷き、視線を前に向けた。
【アナライズ】
能力:身体強化
能力構造:筋繊維出力増幅
代償:関節摩耗(不可逆)
弱点:連続使用不可
情報は一瞬で頭に収まった。
考えなくても理解できる。
だが解除したあと、胸の奥が少しだけ冷えた。
「……どうだ」
「問題ありません」
自分の声が、やけに平坦に聞こえた。
医療室で定期検査が行われる。
脳波、心拍、神経反応。
「感情刺激テストを行います」
モニターに映像が流れた。
花火。
歓声。
誕生日を祝う映像。
ここは、喜ぶ場面だ。
ユウトはそう理解できた。
だが、胸の奥は静かなままだった。
「反応値、低下しています」
医師が首を傾げる。
「平均値の約三割。消失ではありませんが……弱まっていますね」
「戻りますか?」
真白が聞いた。
「代償は不可逆です。ただ、今は“残っている”と判断します」
その言葉に、なぜか安堵した自分がいた。
午後は模擬連携訓練。
レンが結界を張り、ソラが風圧で道を作る。
アオイの視界情報が共有され、ユウトは指示だけを出した。
能力を使わなくても、勝てた。
それが少し怖かった。
夜。
203号室の灯りが落ちたあと、ユウトはベッドで目を開けていた。
昼間の会話を思い出す。
笑っていた。
仲間が増えた。
本来なら、嬉しいはずだった。
なのに胸の中に熱が残らない。
まるで温度が、少しずつ下がっているようだった。
「……なあ」
暗闇でソラが囁く。
「今日の訓練、楽しかったか?」
答えはすぐ出なかった。
楽しいという感覚の位置が、分からない。
「……分からない」
「そっか」
それ以上、会話は続かなかった。
ユウトは天井を見つめる。
まだ失ってはいない。
そう言われている。
だが確かに、何かが薄れている。
使うたび、戻れない場所へ近づいている。
その予感だけが、はっきりと残っていた。
"ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
この物語は「観測されることで」先へ進みます。
もし少しでも続きを見届けたいと思っていただけたなら、
ブックマークという形で、観測に加わってもらえると嬉しいです。
次話も、アナライズは続きます。"




