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選ばなかった命

警報が鳴ったのは、夕方の帰投直前だった。


市街地南区画。


複数の能力反応が重なり、暴発の兆候あり。


「住民避難、間に合ってない」


アオイの報告に、車内の空気が張りつめる。


「現場は商店街だ。人が多い」


三崎教官が短く指示を出す。


「被害拡大を最優先で防げ」


輸送車が停まった瞬間、熱気と騒音が押し寄せた。


悲鳴。


走る足音。


泣き声。


能力反応は二つ。


一つは通りの中央で暴れる青年。


もう一つは、建物内部で急激に膨張している。


「同時発生……?」


ミコが顔を強張らせる。


「感情、二方向とも限界。両方、今にも弾ける」


「距離は?」


「中央が近い。建物内は少し遠い」


ユウトは即座に計算を始めた。


時間。


距離。


被害想定。


中央を抑えれば、被害は最小。


建物側は、到達までに数十秒かかる。


その数十秒が、致命的になる可能性。


「分かれよう」


ソラが言う。


「俺たちが中央を――」


「無理だ」


ユウトは遮った。


「中央は出力が高い。風圧でも押さえきれない」


「じゃあどうする!」


答えは一つしかなかった。


「俺が中央に行く」


「待て!」


ミコの声を背に、ユウトは走り出していた。


【アナライズ】

能力:爆圧変質

能力構造:感情昂揚時に衝撃波出力増大

代償:内臓損傷の進行

弱点:出力集中後の硬直


中央の青年へ向かいながら、別の反応が強まるのを感じる。


建物内。


恐怖と絶望が、急激に膨らんでいた。


「ユウト、建物側が……!」


通信が入る。


聞こえていた。


だが足は止まらない。


中央を止めなければ、被害は指数関数的に増える。


そう計算した。


最短距離で接近し、硬直の瞬間を突く。


衝撃。


爆風。


舗道が抉れ、煙が上がる。


青年は気絶し、能力反応が収束した。


同時に、遠くで破裂音が響いた。


建物の二階。


窓ガラスが吹き飛び、火花が散る。


「……遅れた」


現場に駆けつけた時には、すでに崩落が始まっていた。


瓦礫の下から、弱々しい声が聞こえる。


「……助けて……」


真白が必死に再生を施す。


だが出血が多すぎた。


「……間に合わない」


救急班が到着したとき、心拍は止まっていた。


沈黙が落ちる。


誰も責める言葉を発しなかった。


誰の判断が間違っていたのか、誰にも言えなかったからだ。


夜。


施設の廊下で、ミコが立ち止まった。


「……選んだんだよね」


ユウトは頷く。


「最も多く救える方を」


「それで、救えなかった人がいる」


「確率上、最善だった」


ミコは唇を噛んだ。


「それでも……」


言葉を続けられなかった。


203号室へ戻る途中、ユウトは足を止める。


空いたベッドが、相変わらずそこにあった。


今日、確かに命が一つ消えた。


だが胸の奥に、強い痛みはなかった。


悲しみも、後悔も、湧いてこない。


ただ、事実として理解している。


あの判断で、救えた命の数は多かった。


それだけだ。


「……次も、同じ判断をする」


誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。


それが最適解だから。


人間として正しいかどうかよりも、結果がすべてだった。


その思考が、もう自然になり始めていることに、本人だけが気づいていなかった。

"ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


この物語は「観測されることで」先へ進みます。

もし少しでも続きを見届けたいと思っていただけたなら、

ブックマークという形で、観測に加わってもらえると嬉しいです。


次話も、アナライズは続きます。"

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