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空いたベッド

朝の点呼で、ユウトの名前は最後に呼ばれた。


「――灰原ユウト。配置変更につき、臨時個室」


返事をする前に、周囲の視線が集まる。


昨日まで一緒に並んでいた位置が、ぽっかり空いていた。


203号室の前を通り過ぎるとき、足が一瞬だけ止まる。


扉の向こうから聞こえていたソラの咳も、レンが遮断を解く音も、今日はなかった。


個室は静かだった。


音が反響しない。


匂いも、空気の温度も、均一すぎる。


「……広いな」


思わずそう呟いてから、自分でも驚いた。


広いと感じる理由が分からなかったからだ。


午前の訓練は観測任務だった。


戦闘想定ではなく、能力犯罪の発生予測区域を遠隔監視する。


「解析者は単独で十分だ」


管制室の声が耳に届く。


複数人で行っていた作業が、今は一人で完結していく。


画面には数値と確率だけが並び、人の顔は映らない。


効率は確かに上がっていた。


判断も早い。


指示も正確。


それでも、何かが抜け落ちている。


昼食は一人だった。


長いテーブルの端で、トレーを前に座る。


周囲はざわついているのに、そこだけ音が遠い。


会話が耳に届いても、意味だけが遅れて理解される。


笑い声が上がる。


それが楽しい場面だという知識はある。


だが胸は動かない。


午後、医療室での定期検査。


「喜び反応、引き続き確認できません」


「恐怖反応も消失状態を維持」


医師の淡々とした声が続く。


「生活への影響は?」


「……客観的判断力は向上しています」


それは褒め言葉のようで、どこか違って聞こえた。


夜。


個室の照明を落とすと、部屋は完全な静寂に包まれた。


203号室なら、ここでソラが寝返りを打ち、レンが遮断を切り替える音がしていた。


今は何もない。


ただ、空気があるだけだ。


ベッドに横になる。


視界の端に、何も置かれていない空間があった。


本来なら、隣にもう一つベッドがあるはずの距離。


そこが空いている。


合理的には正しい。


一人の方が効率はいい。


そう理解できる。


なのに、視線が何度もそこへ戻ってしまう。


空いているという事実だけが、異様に強く意識される。


失ったものが何なのかは、まだ言語化できない。


だが確かに、日常は壊れ始めていた。


戦わなくても、失われるものはある。


この静けさが、その証拠だった。

"ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


この物語は「観測されることで」先へ進みます。

もし少しでも続きを見届けたいと思っていただけたなら、

ブックマークという形で、観測に加わってもらえると嬉しいです。


次話も、アナライズは続きます。"

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