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龍の財宝

作者: 高鳥瑞穂
掲載日:2026/03/03

 ヒトの営みとは楽しいものだ。

 木の実を集め、火を起こし、鉄の器でぐつぐつと煮ると、あの渋くて硬い実がかように甘く柔らかくなる。

 これもただ煮ればよいものではないらしく、シタショリだとかヒカゲンだとかが重要らしい。

 弱い炎でじっくりと炙った脂の滴る肉に果実を絞って煮詰めたものを上からかけると、それはもう極上の味わいになるのだ。


 ヒトはこれらの肉や果実を硬貨という金や銀を溶かし固め模様をつけたものと交換した。我もそれに習い魔獣の希少な素材を硬貨に替え、その金銀硬貨で浴びるほど飲み食いをした。


 たらふく食い、目覚めたらまたたらふく食わねばと思って、硬貨を巣の奥に隠し、眠りについた。


 目を覚まし街に降りれば、街は以前よりも活気に満ち、建物も様変わりしていた。

 表の飯屋で串に刺さった肉を指し銀の硬貨を渡せば、店主は訝しげに硬貨を弄り回して、それから別の建物を指した。


「このあたりの通貨じゃねえな。ウチじゃ受け取れねえ。嬢ちゃん、あそこの両替商で替えてこい」


 どういうことだろうと言われた店に行けば、店主はこれまた訝しげに渡した金貨を眺めた。


「これは、スヴェラ王朝時代の金貨ですね。二百年ほど前に滅んだ王朝が発行していた硬貨です。お嬢さん、どこぞ遺跡でも潜りましたか? この時代の金貨は金の含有率が安定していなくて、混ぜ物も多いので、あまり高くは買い取っていないんですよ。これくらいですね」


 そう言って数枚の銀貨を我の手のひらに置いた。

 なんと、ほんの三百年ほど眠っていた間に国が変わり硬貨も変わったのだと言う。

 以前は金貨一枚で銀貨二十枚ほどの価値だったはずだが、当時の金貨一枚で今の銀貨三枚にしかならなかった。

 なんとまあ、人の世の儚いことよ。ほんの数百年眠っただけでこれほど様変わりしてしまうとは、これは巣の硬貨は全てだめだ。

 慌てて巣に帰り、両替商ですべて今の硬貨に替え、最近不足しているという霊峰の薬草を摘んでやり病のリョウシュとやらに届け、褒美として渡された財貨でまた飯を食った。


 うむ、相変わらずヒトの作る飯はうまい。


 今度は忘れずに、眠る前に宝飾店とやらで、硬貨を全て金の指輪と色石に替えた。

 両替商が金の含有率を気にしていたので、ほとんど金そのものであるこの指輪や、何やら高値の付いていた色石ならば目覚めても価値があるだろう。


 何度かそうして眠り、目覚めた。

 目覚めるたびにほとんど毎回硬貨が変わっていたが、金の指輪はいつでもある程度の硬貨に交換できて大変便利だった。色石は宝石と言って、起きる時によって流行があるらしくあまり安定しなかった。時たま以前の硬貨のままだった時には感動を覚えたものだ。





「お嬢ちゃん、市民証は持ってるか? 持ってないか。中に知り合いは? ギルド証とかはあるか? なにもないかあ。じゃあ入市税がかかる、お嬢ちゃんくらいだと二千ガルドだが、持ってるか? 硬貨はないが指輪なら? ……って、これ金じゃねえか。だめだよ嬢ちゃん、門番はこういうのは受け取れねえ、バレたら首が飛んじまう」


 なんということだ、街が大きな塀で囲まれ、入るのに硬貨が必要なのだという。

 元の姿になって飛べばいくらでも超えられるが、騒ぎになると肉や果実が古く不味くなるのだ。それは良くない。

 しまった、少しくらい古い硬貨も持っておくべきだった。


 ぐぬぐぬと頭を悩ませ、結局あまり善性ではなさそうな行商の男に金の指輪を売って銀貨を手に入れた。


 入市税とやらを払ったらいくらも残らなかった小銭を片手に、日雇いの仕事ができるというぎるどとやらに登録をした。ぎるどしょうがあれば入市税もかからないらしい。それは助かる。

 ふむ、ここから依頼の品を持ってくればいいのか? すまない、読んでもらえるか。ーー雷光水晶、流星狼の瞳、月下豊草。ふむ。このあたりはもうずっと出ているが誰も達成できずもはやただの飾りと。なるほどのう。


 ほれ、ひとまず雷光水晶じゃ。ん? ああ、巣……じゃない、自宅の直ぐ側にたまたまあっての。触ると痛いでちと難儀するが。なんじゃ、いらんのか? いるならそう言え。金はなんぼになる。我はこれから飯を食うのだから金をよこせ。


 ほい、今日は月下豊草じゃ。ん? ああ、これは月光草で間違いないぞ。満月の夜に月光を一瞬だけ当てての、その後すぐに布で隠すんじゃ。そうすると月光を浴びるためにこの形に変化する。その時に薬効が変わるとかなんとか……ほれ、だから月光草の下で見つかるんじゃ。少し背の低いやつが他の月光草で隠れての、その時に月下豊草に変わる。なんぞ月光草がだいぶ間引かれておったの。あれでは月下豊草にはならん。え? 学者が来るから待て? いやじゃよ、我は飯を食いに、え、学者の出す菓子が美味い? それを先に言わんか。


 ほれ、流星狼の瞳じゃ。他の部分はどうすればよい? いや、お主らが持って来いと張り出しておったんじゃろうが。目を潰さないようにするのに難儀したというのになんじゃその態度は。

 はあ? オウキュウに呼ばれている? なんじゃそれは。いやじゃよ、我はこれから飯を食うのだから。え? オウキュウのパーティーにはこの世の美食が全て揃う? ほう? ほうほうほう?



「貴女が冒険者の、ホワイト殿ですか」


 パーティーとやらの席で、美食という美食を腹に詰め込んでいた我に、透明硝子を瞳に着けた痩せぎすの男が言った。


「私が依頼していたものを全て納品してくださったと。本当にありがとうございます」


 その男は今の王朝の第三王子なのだという。国政には携わらず、魔法やカガクの研究をずっとしているようだ。

 なるほどのう。(まつりごと)にはかかわらず趣味に走る気持ちはわかるぞ。我も兄弟達のように一つの国に肩入れはせなんだ。これは我が番を見つけていないということも大きいがの。


「きっと手に入らないと思っていた素材でしたので、本当に助かりました。貴女の献身のおかげで、我が国の科学は千年時間が進みます」


 さようか。お主の依頼のお陰で今日かような美食を食うておるでな、我も感謝もしておる。

 ああそうだ、聞きたいことがあっての。


「聞きたいことですか? 何でもおっしゃってください」


 この国の通貨の、金と銀の含有率はどれくらいかの?


「金の、含有率……? ――――失礼ながら、貴女には金銭以上の報酬をご用意しますので、そのような詮索はおやめいただきたい」


 詮索? それはよく分からんが、しばらく眠るでの、金貨のままで持っておくべきか、また指輪あたりに変えるべきかで悩んでおる。


「なにか事情がお有りでしょうか……でしたら、こちらをお持ちください。今の金貨はそのままお持ちいただいて、こちらをお渡しします。私からの友好の印と、貴女のもしもの時の蓄えに」


 そう言って第三王子は紅い宝石の散りばめられた金のブローチを差し出した。

 ふむ、宝石は目覚める時期によって価値が変わるから金の方が良かったのだがの。まあよいか。


 満腹になったのでな、我はもう眠る。


 ばるこにぃという出窓に立ち、魔法を解く。

 体がぐんと大きくなり、巨大な翼が広がった。


 さらばだ人の子よ。もう(まみ)えることはないだろうけれど、我は今日の食事をきっと忘れないだろう。


 月の明るい良い夜だ。我の巣である北の山脈がよく映える。

 飛び立った我を、人の子らが呆然と眺めていた。




 微睡みから目覚める。

 さて、どれほど眠ったか。ふむ、この水晶の育ち具合は四百年くらいか。少し眠りすぎたな。


 巣から顔を出せば、何やら見慣れない柱が建っている。眠っている間に誰ぞ来たのか。祀られるのは随分と久々だ。


 霊峰と呼ばれる山を降り、中腹で遠目に見たヒトの服を魔法で真似る。ふむ、随分と服装が変わっている。見た目は寄せられるが、あの素材は何だ?


 街の近くに行けば、街は随分と様変わりしていた。


 広い道を鋼鉄の車が走り、我の本体よりも巨大な見上げるほどの鉄の建物がそびえ立っている。

 地脈の隣にも鋼鉄の走る気配がある。


 今までにない凄まじい発展だ。これは今回の飯は心せねばならない。

 ひとまず換金所か両替商を探そうと思ったのだが、街が全く見慣れない姿になっていて探しようがない。


 仕方ない、そこな人よ、両替商はどこだろうか。え? 両替は両替だ。通貨をこの国のものに変えたい。は? くらうどまねー? なんの事……ああもういい、古物を買い取ってくれる場所は何処だろうか。

 ああ、ありがとう。


「んー、金とルビーかあ」


 古物屋の店主は我の出したブローチを見て首を傾げた。


「まあ、キラキラで子供のオモチャにゃいいもんだけど、悪いがウチじゃ取り扱いがなくてね。買い取ってないんだ」


 金が、子供の玩具? かような高級品を幼子に与えるのか?


「高級品って、いったいどんな世界の裏側から来たんだ?」


 どういう事だ、何が起こっている。


「金なんて核融合で作りたい放題だろ。そっちのコインも、歴史的な価値のあるもんなら、ウチじゃなくて博物館に持っていくんだな」




 高い建物の立ち並ぶ街から見上げた空には、風船のような物が、多くのヒトの気配を乗せて飛んでいた。


普段は『「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~』というSFVR恋愛ものを連載しています。お暇でしたら是非どうぞ。

ところでこの作品のジャンルはもしかしてSFではなかろうかと一生悩んでいる。

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― 新着の感想 ―
なかなか面白かったです(/・ω・)/満足するのに世代を跨ぐ燃費の悪さには笑ったけどw 長命種は欲か執着とかで結びつけないと、フラフラと無軌道に動いていくんだなあとちょっと納得してましたw
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