#01 三十路ってま?
俺の名前は、上空 要今年で30歳になる。
トーキョーで冴えない派遣社員として、製鉄工場で働いている。
昔から、自分の感情を抑えることが苦手で、世の中を上手く渡る術である優しい嘘や建前が使えない。
昨日も、些細なことで正社員さんと口論になり、派遣の営業さんから怒られてしまった。
噂をしたら、営業さんから電話が来た。
「もしもし上空さん、今話せます?」
きっと例のことだろう。
「あ、はい、大丈夫です。」
ため息混じりに返す。
「ため息つきたいのはこっちですよ。上空さんと先方が揉めて評価下がるのは僕もなんですからね。年下の僕が言うのもなんですけど。。。」
この営業は、俺より歳が5歳年下だ。
最近の子は自分のことしか頭にないのだろうか?
いや、俺も後先考えずに生きていたから30手前で派遣なんてやってるんだが。
「あのー、聞いてます?まぁ、いいや。
過去に一瞬バズっただけなんだから、いつまでもバンドマンぶってイキらないでくださいね、お願いしますよ。
そんなんだから、天才遠山 翔に見捨てられたんでしょうよ、がくしゅ・・」
反射的に電話を切ってしまった。
ーーーーー遠山 翔
遠山翔とは俺の高校の同級生で、文化祭で組んだバンドのドラムだ。
俺や他のバンドメンバーは解散してからは、各々音楽の世界を後にしたが、こいつは別だ。
翔は俳優としてドラマ、舞台にも参加している傍ら、売れっ子アイドルのプロデュース、売れっ子バンドに楽曲提供を行うなど今をときめくタレントとなっている。
昔から翔は、容姿端麗、学業優秀、ドラム以外の楽器もできるし、俺みたいなやつとも対等に接してくれる神様みたいな存在だった。
テレビをつければ毎日のように見るし、外に出かけたらそこたらじゅうにポスターがあり、嫌でも目に入るが、最後に会ったのは、もう6年も前になる。
翔以外の他のメンバーともそれくらい会っていない。
まぁ、会ったところで何も話すことはないし、会わせる顔もない。
大都会トーキョーで意味もなく派遣やってるくらいなら、大人しく田舎へ帰ってしまおうかと思ったが、音楽で飯を食っていくと啖呵を切って家を飛び出した反面、それはできない。
そんなことを考えていたら、出勤の時間になってしまった。




