エロ本が伝説の魔導書だった件
世界のあり方を変えるほどの魔導書。
中身がエロ本?
ここはミアモール国の王都の外れにある、エンブラソ家。
優秀な魔女を多数輩出し、敵国やモンスターを打ち払って来た誇り高き貴族である。
百年前までは。
エンブラソ家の女には遺伝という形で、血族にしか使えぬ数多の伝承魔法があった。
それらは神の仕業と言われ、吟遊詩人の伝承歌として歌い継がれてきた。
その遺伝が百年前に途絶えた。
結果、領地は荒れ果て、きらびやかな豪邸は荒廃し、使用人すら雇うことができなくなった。
しかしそれも今日までだ。
私は百年ぶりの適合者であり、魔女の素質を持っている。
15歳の成人を迎えた今日、お父上から古より伝わる魔導書を拝受した。
「――光よ」
漆黒の闇であった室内に、太陽よりなお眩しい光球が生まれる。
無限に体内から溢れる魔力。
一般人が使う魔法など既に極めていた。
その気になればこのあたり一帯に雨を降らすことすらできる。
力を持たぬものからしたら、既に奇跡に似た力。
私はその先、禁呪とさえいわれる伝承魔法に手を出す。
「私がエンブラソ家を再興するのだ」
自室の机の上、私はその本に敬意を払ってひと撫でしてから開いた。
なるほど、エンブラソ家は恋の女神様の加護を受けているらしく、この魔導書には神々が使う秘術が記されているとのこと。
我が家の歴史が刻まれた序章を過ぎると、様々な魔法が記されていた。
癒しを与える魔法、魔力の鎧を纏う魔法、天を切り裂く雷鳴を呼ぶ魔法。
ひとつひとつが歴史を変えるような魔法。
「すばらしい、すばらしいわ」
貴族特有の長い金髪を振り乱しながら読み進める。
夜が明け朝日が訪れたころ、私はすべての魔法を取得した。
これで正しく詠唱を行えば私は大陸最強の魔女となれる。
感情を込め、抑揚をつけ、一語一句間違えず、天の女神さまに聞こえるように高らかに詠唱すれば、奇跡の担い手となれる。
私は数百年守り続けられた家宝の魔導書を手に取り、あらん限りの力で床に投げつけた。
バアアアアアアアン
「……エロ本だこれ」
私は机に肘をつき頭を抱えた。
どうしてこうなった。
いや、魔法は素晴らしいよほんと。
死者を蘇生し、山を削り、海を割る、そんな魔法の数々。
でも詠唱が聞いたこともないドギツイセクハラで、どう読んでもエロ小説にしか見えない。
触るのも嫌な私はペンで魔導書を開き、できる限り薄目で見る。
「時間を巻き戻す魔法」
口には出せず心の中で読む。
え!?そんなとこにそんなの入れていいの?
聞いたことない聞いたことない聞いたことない。
あ、だめだ、心の中でもダメなやつだ。
見ていられないと魔導書から視線を外した。
「なんでこんな<<自主規制>>とか言わないといけないの…」
クソ親父、なんてものを娘に渡す。
われ15の乙女ぞ?
お前も読んだんだろ?
そうかだからか。
だから渡すとき少し気まずそうだったのか。
小さいころ読みたいと駄々をこねた私に、消耗が激しいため成人を迎えてからと言ったな。
ただの子供は見ちゃダメな本じゃないか!
「こんなの人前で言えるわけないよ」
なんでパーティーメンバーに囲まれてエロ本読み上げなきゃだめなんだ。
恋の女神って嘘だよ、猥談の女神とかじゃん絶対。
ご先祖様が猥談の神に祝福された貴族とか嫌すぎるから、恋とか言い始めたんだろ。
魔法の詠唱中に、オホーってダブルピースで叫ぶ指示があるのなんて初めて見たわ。
「でも」
私が才能を受け継いだことを知った時の父と母の嬉しそうな顔。
愛を注ぎ大切に育ててくれたふたり。
その両親を裏切るなんて私には。
――誇り高きエンブラソ家の末裔として、その様なこと許されるわけがない。
貴族は誇りとともに生まれ、誉とともに死ぬのだ。
全ては民のために、貴族の義務を。
もう一度魔導書を見る。
『いや、だめ、そんなとこ……もっとして』
ふうーと大きくため息を吐いた。
「よし、家出しよう」




