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俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第2章 青春
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遊びのお誘い

「ねぇ! 川に魚釣りに行こうよ!」


 七瀬にそう言われたのは、六月末の放課後だった。



 俺の父さんはふもとの町で小さな建築会社の社員として働いている。

 毎日家から通勤するのは大変ということで、特別に会社の許可を取って泊まり込み、金曜日になると家に帰ってくるのだ。


「父さん。実は、釣りに誘われて......。釣り竿が欲しいんだけど......」


 俺は頭を下げて、釣竿を買ってもらえるようお願いした。


「仕方ないなぁ......。勉強を頑張ってるみたいだし、いいぞ」


「あ、ありがとう」


 少し恥ずかしがりながら、俺はお礼をした。

 あまり喜んでいないようにも見えるだろうが、内心は結構喜んでいた。

 釣り竿を買ってもらえるということもあるが、町に行けることも嬉しかったのだ。


「それじゃあ、明日ふもとの町まで買いに行こう」


 俺はそう言ったが、父さんは少し考える。


「いや、釣り竿は俺が買いに行く。お前は留守番だ」


「......え? ど、どうしてだよ!」


 俺はショックを受け、父さんに強めに聞く。


「いや......。だって......」


 父さんはまた考える。


「お前、先月ぶっ倒れて入院して、その後家でも体調を崩したんだろ? それなのになぁ......」


「......ん? 川に釣りに行くのはいいのに、川より安全な町はダメなのか?」


 俺が疑問に思って反論すると、父さんは黙ってしまった。

 それから、諦めたような表情を浮かべ、口を開いた。


「......わかった。連れてってやる」


「よし!」


 俺は心の中でガッツポーズをして喜んだ。


「その代わり、万全の状態になるために早く寝ろよ?」


「はーい」


 俺は父さんの言うことを素直に聞き、自室へ向かった。



 次の日、俺は朝早くに支度を済ませ、車に乗り込んだ。

 準備は万端、あとは父さんを待つだけだ。


 父さんが目をこすり、眠そうな顔をしながら家から出てきて、車に乗り込む。

 欠伸をしながらエンジンキーを差し込み、エンジンをかける。


「ちゃんとシートベルトしろよー?」


 父さんがそう言ったが、俺は既に着用していた。

 そして、俺がシートベルトを着用していることを確認した父親は、アクセルを踏んで発進させた。



 いつもの通学路を通り、森の中の細い道を通り、山を下っていく。

 見慣れている退屈な風景が続く中、大きな欠伸をして退屈しながら眺める。

 ここがニュースで見る東京のような、大きな建物とお店が沢山あり、様々な人々が歩く都市だったらどれだけ良かったことか。

 そう思っていると、いつの間にか俺は眠りについていた。



「おーい、着いたぞー」


 父さんが俺の体を揺すったことにより、目を覚ました。

 窓の外を見ると、商店街の入り口にある駐車場に車が止められていた。


「よっしゃ......!」


 体を伸ばしながら、窓の外を眺めて喜ぶ。

 東京と比べたら田舎ではあるが、俺が住んでいる場所と比べたら相当マシである。


 俺は車を降り、走ってお店へ向かう。

 釣り具屋の具体的な場所は知らないが、商店街のどこかにあることは分かっている。


「おい! ちょっと待てよ!」


 父さんが俺を止めようとしたが、久しぶりに町にやってきてテンションが上がっている俺を止めることはできない。

 商店街の人々の間を通り抜けながら、俺は釣り具屋へと向かった。



 肉屋、八百屋、駄菓子屋。

 様々な店を通過していき、木製でボロボロな釣り具屋に辿り着く。

 俺は入口の引き戸を開ける。


「こんにちはー」


 そして、店主であるヨボヨボのお爺さんに挨拶をした。


「あい......。いらっしゃ......!?」


 店主は俺を見て返事をした。

 だが、返事の途中で、何かに驚いたのか、言葉に詰まっている。


「ん......?」


 何か俺の顔に付いているのかと思い、顔や頭をベタベタ触る。


「......あっ!」


 耳の上あたりを触ると、酷い寝ぐせが付いていることに気が付いた。

 髪の毛がボサボサになっており、酷い状態だ。


「はあはあ......! 先に行くなよな......!」


 俺を追いかけて走ってきた父さんが、扉に手を付いてゼーハーゼーハーと荒い呼吸をしている。


「あの......。トイレを借りてもいいですか?」


 寝ぐせが恥ずかしく、一刻も早く直したかった俺は、俺に文句を言う父さんを気にもせず、トイレを借りていいか店主に聞いた。


「あ、ああ......。トイレはそこにあるから......」


「ありがとうございます」


 俺はお辞儀をすると、即座にトイレへと駆け込んだ。


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