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【完結済】俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第1章 目覚め

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体調不良

「おえぇぇぇ......」


 恐ろしいほどの吐き気と腹痛が俺を襲う。


「なんだこれ......? 食あたりか......?」


 昨日の夕食は刺身だった。

 そして、今は六月、俺が住んでいる場所は海から離れた山奥。

 もしかしたら、運搬方法に不備があり、刺身が痛んでいたのかもしれない。


 体を起こしてみるが、学校までの道のりを歩けるかどうか不安になるほどの調子だった。

 俺は本日の通学を諦め、再び寝る。

 保健体育の授業で、吐きそうな時は横向きで寝ると良いということを思い出し、横になる。

 これで吐いてしまっても、喉に詰まって呼吸困難にならないらしい。


「正道......。今日は学校に行くのは無理そうね......」


 いつの間にか、母さんが俺の部屋に入ってきており、俺の様子を伺っていた。


「母さん、ごめん......。今日は無理だ......。吐き気と腹痛が......!」


「見ればわかるわよ。先生と七瀬ちゃんには休むって伝えておくから、あんたは寝てなさい。」


「うう......」


 母さんは坂月先生に連絡するために部屋を出ていった。


 それから、しばらく寝ようとするも、吐き気と腹痛が邪魔をし、眠りにつくことはできなかった。

 むしろ悪化し、寒気を感じ始め、布団を頭まで被る。


「辛い......」


 だが、俺には我慢することしかできなかった。

 涙を流しそうになりながらも、ひたすら耐えて寝ようとする。


「あれ......? そういえば、刺身は母親も食べたはずなのに......」


 それなのに、何故あんなにも元気なのだろうか。


「もしかして、俺だけ入院明けで体調が万全じゃなかったのか......?」


 不運が重なり、俺だけ食あたりの症状が出てしまったのかもしれない。


「クソ......。最悪だ......」


 俺は自分の不運さを恨む。

 それから、二時間ほど苦しんだ後、俺はいつの間にか眠りについていた。



 目が覚めると、時刻は昼の四時だった。

 まだ体調は回復しておらず、相変わらず吐き気と腹痛が続いている。

 体を少し動かすと、服が汗でびしょ濡れであることが分かった。


「うへぇ......。最悪だ......」


 俺は体を起こす。

 すると、枕の隣にタオルとビニール袋が置いてあることに気が付いた。

 おそらく、母親が用意してくれたのだろう。


 俺は汗だくの体を少しでも早くどうにかしたいと思い、立ち上がる。

 そして、思い通りに動かない体を無理やり動かして風呂場へと向った。


 脱衣所に付いた俺は着替え始めるが、あることに気が付いた。


「ん......?」


 下半身に視線を向けると、ズボンとパンツが交換されていたことに気が付いた。


「ま、まさか......」


 食当たりで腹を下していたので。寝ている間に便を漏らしてしまったのだろう。


「あ、あとで謝っておくか......」


 俺は心の底から母親に申し訳ないと思った。

 サッとシャワーで体を流し、風呂場から出た。


 自室に戻ると、母親がベッドのシーツを取り外していた。

 その様子を見て、俺は再び申し訳ないと思ったのと共に、恥ずかしくなってしまった。


「ご、ごめん......。こんな年にもなって......」


 俺はモゴモゴとこもった声で、母さんに謝罪した。

 しかし、母さんは呆れた顔などせず、心配そうな表情をしていた。


「しょうがないわよ。体調が悪かったんだから。迷惑だと思ってないから、心配しなくていいわよ」


 母さんがそう俺に言い、シーツを持って部屋から出ていった。


「うう......。本当に申し訳ねぇ......」


 俺はベッドの横に座り込み、落ち込みながら新しいシーツに交換されるのを待った。



 シーツを交換し、ベッドで寝ているとインターホンが鳴った。

 スマホで時間を確認すると、時刻は四時半を少し過ぎた頃だった。

 時間帯からしておそらく七瀬だろう。


 耳を澄ませると、静かに、でも、素早く階段を上る音が聞こえた。

 そして、部屋の扉が開くと、七瀬の乱れた息の音と共に、俺を心配する七瀬の姿が見えた。


「正道! 大丈夫!? また倒れたりしてないよな!?」


 走ってきたのか、ゼーゼーと息を切らした汗だくの七瀬が俺のベッドの横に膝立ちをし、俺の顔を覗き込む。


「あ、ああ。大丈夫だ......」


 俺は親指を立て、七瀬に見せる。

 それを見た七瀬は、大きく息を吐き、安心したような表情を見せた。


「よ、よかった......」


「はは......。すまなかったな、心配かけさせて......。ほら、汗拭けよ......」


 母親が汗を拭くためにと、枕の隣に置いてくれた未使用のタオルを七瀬に手渡す。


「ありがと......」


 七瀬はそれを受け取り、顔をゴシゴシと拭いた。


「そういえば、なんで調子が悪くなっちゃったの?」


「昨日食った刺身が傷んでて体調を崩したみたいなんだ......。朝から吐き気やら腹痛が酷くて、まいっちまうよ......」


「吐き気がするなら、あまりお話しない方がいいかな......? ごめんね、喋らせちゃって......」


「い、いいよ......! 気にすんな......! ......うっ......!」


 俺は咄嗟に口を押える。

 七瀬は慌ててタオルの隣に置いてあったビニール袋を口元へ運ぶ。


 吐きそうになったが、運よく吐き気が収まってくれた。


「ねぇ......。一人で大丈夫? 私が見ててあげようか?」


「い、いや。大丈夫......。七瀬には迷惑かけられないから......」


 心配している七瀬に、俺はそう返事をした。

 その返事には、七瀬に迷惑を掛けたくないという気持ちもあるが、情けない姿を見られたくないという気持ちと、嘔吐している場面を他者に見られたくないという気持ちも含まれていた。


「じゃ、じゃあ私は帰るね......? 学校のプリントは机の上に置いておくから......。それじゃあ、お大事に......」


「ああ......。今日はありがとな......」


 七瀬はプリントを机の上に置くと、部屋から出ていった。



 七瀬が帰宅し、少し経った後に母さんが部屋にやってきた。


「ほら、お粥持ってきたわよ」


 俺は体を起こし、母さんはおぼんをテーブルの上に置く。


「どうしても無理そうならいいけど、できるだけ食べなさい。食べないと、栄養不足になっちゃうから......」


 母さんはそう言い、タオルを回収して部屋から出ていった。


「......いただきます」


 俺は頑張って口にお粥を運び、飲み込む。

 まだ吐き気は残っているが、なんとか食べきれそうだ。


 お粥を食べ終えると、俺は再び眠りについた。

 明日は治っているといいなと思いながら。



 しかし、食あたりは次の日も続いた。

 そして、初日と同じように吐き気と腹痛に苦しんだ。

 二日目も同じように耐え、食あたりの症状が治ったのは三日目の朝だった。

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