七瀬の入院
六月の中旬のある日。
唯一のクラスメイトであり、俺が片思いをしている七瀬が倒れ、病院へ運ばれた。
放課後、俺は走って病院へと向かった。
病院に到着し、扉を勢いよく開ける。
「七瀬に! 七瀬に合わせてください!」
俺は病院にいるであろう医師に声をかけながら、受付カウンターに向かって走った。
「......病院ではお静かに。君は誰ですか......? 七瀬さんとはどんなご関係で?」
受付の奥から、白衣を着た医師が出てきた。
首からぶら下げている名札には、藤波という名が書かれていた。
「俺は高凪正道! 七瀬のクラスメイトです! 倒れたと聞いて、心配になってお見舞いに来ました!」
「まずは落ち着いてください......。私は藤波という医師です。西森七瀬さんの担当をしています」
藤波さんは自己紹介をし終えると、少し困ったような顔をした。
「それで、お見舞いですよね......。しかし、残念です。七瀬さんは、まだ目を覚ましていません......」
藤波さんの言葉を聞いて、俺は更に心配になった。
「そんな......! 七瀬は大丈夫なんですか!?」
「......そこまで慌てるようなことではないですよ。勉強による疲労とストレスで一時的に意識を失っているだけで、命に別状はありません。そのうち目覚めると思いますよ」
それを聞いて、俺は心の底から安心した。
「よ、良かった......」
「それで、七瀬さんのお見舞いですよね? 先ほどのように大声を出さないのであれば、七瀬さんの病室に入ってもいいですよ」
「ほ、本当ですか......!?」
「ええ。では、こちらに来てください」
藤波さんはカウンターの外に出て、歩き始めた。
俺はその後を着いていく。
病院は広くはないので、数十歩歩いただけで病室に辿り着いた。
病室の扉の隣には、西森七瀬という名札が貼られていた。
「ここです。私は用事がありますので、これで......」
藤波さんはそう言い、受付へと戻っていった。
俺は扉を開け、病室に入る。
あまり広くない白い壁、白い天井、黄色寄りのクリーム色の床の六畳ほどの病室。
そんな病室に置かれているベッドで、七瀬は横になったいた。
俺は静かに七瀬に近づき、顔を見た。
健康とは言い難い青ざめた顔をしており、如何にも健康状態が良くない感じだった。
「七瀬......。七瀬が居なくなったら、俺一人になっちまうよ......。それに......」
意識が無い七瀬に聞こえるはずもないのに、話しかけるように声を出す俺。
すると、七瀬の眉が少しだけピクッと動いたような気がした。
「な、七瀬......!? もしかして、意識が......!? 七瀬......!」
俺は七瀬の手を握り、声をかける。
数分間、七瀬が目覚めることを願いつつ、ひたすら声をかけ続けた。
「はっ......!」
声をかけ続けると、なんと七瀬は目を覚ました。
蛍光灯の光が眩しいのか、目は半開きだ。
そんな目で、眼球をキョロキョロと動かし、周囲を確認している。
「......っ! 目が覚めた!」
俺は嬉しくて、うっかり大声を出してしまった。
「な.....なせ......?」
「大丈夫......!? 自分の名前とか、覚えていることを言って......!」
俺は勢いで、記憶喪失の可能性があるかどうかも分からないのに、そんな質問を七瀬にしてしまった。
「覚えていること......」
部屋の眩しさを我慢しつつ、必死に思い出している七瀬を見守る。
時間をかけて必死に考え、何かを思い出したのか、七瀬の口が動いた。
しかし、七瀬はとんでもないことを発した。
「高凪正道......。一四歳......」
七瀬は自分のことを高凪正道だと思ってしまっていたのだ。




