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俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第4章 不信

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幻の終わり

「ど、どうして......」


 寝たところで、俺の体調不良は治らなかった。

 むしろ、寝る前よりも苦しくなっている。


 吐きそうになるのを必死に耐え、ビニール袋を必死に探す。

 床を這い、部屋を見渡す。

 偶然、机の下にビニール袋があることに気が付き、手を伸ばす。

 ビニール袋を握り、急いで引き寄せて顔を突っ込む。


 幸い、吐くことはなかったが、まだ吐き気は治まらない。

 俺はビニール袋を枕の隣に置き、ベッドに戻る。


「あれ......。そういえば......」


 こんなこと、前にもあったような気がする。

 一ヶ月前から一ヶ月半くらい前。

 刺身を食べて体調を崩した日。


 今日の苦しさは、あの時と似ていた。

 ということは、今回も食あたりなのだろうか。


 だが、今回は前回とは違う。

 前回の刺身とは違い、今回は火を通したパエリアとチキンである。


 しかも、先生と母さんが二人で調理したはずだ。

 火を通しても体調を崩すほど痛んでいるのであれば、流石にどちらかが気が付くはずだ。


 チキンの過熱不足という可能性も捨てきれない。

 だから、みんなの様子を確認するべきだ。


 まずは、母さんの様子を確認することにした。

 下の階まで行けるほどの調子ではなかったので、スマホで確認をすることにした。

 母さんの連絡先を選び、電話をかける。

 呼び出し音が数回鳴ると、母さんが電話に出た。


「正道どうしたの? 家に居るのに電話なんて......」


 母さんの声を聞いた瞬間、俺の体中を冷えるような感触が襲う。


「あ、いや......。七瀬に電話をかけようと思ったんだけど、間違えちゃって......。ごめん......」


 声を振り絞り、必死に誤魔化す。

 そして、俺は電話を切った。


 次に、七瀬に電話をかける。

 再び呼び出し音が数回鳴り、七瀬が出た。


「正道おはよー!」


 七瀬の元気な声を聞き、俺はスマホを落としてしまった。

 母さんも、そして、同じ子どもである七瀬でさえ、元気そうだった。

 つまり、過熱不足による食中毒などではない。


 俺の考えが間違えかもしれないという可能性があるとわかり、俺の脳は勝手に次の可能性を考え始める。


「正道......? 大丈夫......?」


 俺だけが体調を崩したのは何故なのか。

 大人二人が管理した料理で、何故、俺だけがこんな目に合うのか。


「毒......?」


 ただの中学生の俺なんかに毒や薬を盛って、どんな意味があるのだろうか。

 だが、俺の思考では、それくらいしか思いつかない。

 偶然調子を崩したという予想も思いついたが、食あたりと同じような症状が都合よく出るのだろうか。


 分からない。

 怖い。

 俺の頭は、そんな恐怖に支配されていた。



 母さんが怖い。

 一緒に花火大会を隠ぺいした七瀬が怖い。

 一緒に料理を作っていた坂月先生が怖い。


 意味が分からなくて怖い。

 俺を追い詰める世界が怖い。


 生きていることが怖い。



「......嫌だ」


 何もかもが嫌になった。

 俺は床に落ちたスマホを無視し、布団に潜り込む。


 もう、何も考えたくない。



 それから、母さんや七瀬が心配してやってきたような気がするが、ほとんど覚えていない。

 食事も運ばれてきたが、ほとんど喉を通らない。

 どのくらい時間が経ったか、全く分からない。


 調子は良くなってきたが、周りの人が、全てを恐れていた。

 俺は恐怖を隠すために、俺は無意識に思考を停止させて生きていた。


 そんな俺はまともな生活を送れるはずもなく、部屋に引きこもりっぱなしで、部屋から出るのは、コッソリとトイレに行く時くらいだ。

 母さんに見られると、恐怖のせいで急いで部屋に戻ってしまう。


 学校にも通わず、勉強もせず、ただ毎日起きて、恐怖し、倒れるように寝るだけの日々。

 ほぼ死んでいるような、生き地獄の日々。



「なんで......」


 なんで、ただ勉強を頑張り、ここから出ようとしただけの俺が、こんな目に合わなければいけないのか。


「どうして......」


 どうして、七瀬と一緒に楽しく過ごしたいと思っただけの俺が、こんな目に合わなければいけないのか。


 俺の精神は、限界を迎えてしまった。


「私がこんな目に......!」


 言葉を発し終えると、俺の思考は停止した。

 そして、自分が無意識に発した言葉を思い出す。

 ほぼ停止していた脳を、必死に動かす。


「私が......? なんで俺、私だなんて......」


 その時、視界が歪み、眩暈がした。

 更に、頭痛と吐き気も襲いかかる。


「嘘......!?」


 嘘だ。


 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。


 もしかして、今までのは全て幻だったのではないか。

 それを確認するために、俺は部屋を飛び出し、階段を駆け下りた。


「ちょ......! どうしたの正道!」


 勢いよく階段を下りる音を聞いた母さんが俺に大声で声をかけるが、それを無視して脱衣所へと向かう。

 脱衣所の扉を開け、洗面台の鏡を覗き込んだ。


「嘘だろ......。本当に......!」


 鏡に映り込んだ姿を見た俺の意識は、そこで途絶えた。







 目が覚めると、正面には見知った天井。

 俺は、今まで幻を見ていた。


 俺の彼女は幻だった。

 そして、俺自身も幻だった。


 現実は、俺と彼女ではなく、私と彼氏......。







「正道、行ってらっしゃい」


 玄関で靴を履いていると、母さんが台所から俺に声をかけた。


「行ってきます」


 靴を履き終えた俺は立ち上がり、玄関の扉を開ける。

 外に出て玄関の扉を閉めると、学校へ向かって歩き始めた。


 一人で畑に囲まれた道を、とぼとぼと歩いていく。

 何年も通っているので、一人で通学するのには慣れていた。


 三十分ほど歩くと、学校に到着した。

 玄関で上履きに履き替え、教室へと向かう。


 教室に入ると、七瀬も坂月先生も居ない。

 時計を確認すると、朝会の開始五分前だった。


 俺は椅子に座り、誰もいない教室でボーっと過ごす。

 朝会の時間になり、坂月先生が教室に入ってきたが、七瀬は姿を現さなかった。


「七瀬、遅刻かなぁ......」


 俺は七瀬のことが気になり、ボソっと呟いた。

 七瀬はいつも勉強ばかりしているので、家でも夜遅くまで勉強し、寝坊したのかと思っていた。


 すると、坂月先生の口から衝撃的な言葉が発せられた。


「正道くん......。実は、さっき七瀬ちゃんのお母さんから連絡があって......。七瀬ちゃんが気を失って、病院に搬送されたらしいの......」



第4章 終

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