嘘
それから、俺たちは楽しく会話をしながら、食事を続けた。
俺と七瀬、母さん、坂月先生。
みんな笑顔で、とても居心地が良く、幸せな時間だった。
そんな状況でも、疑問は頭を離れることはなかった。
いや、そんな状況だからこそ、頭から離れることは無かった。
本当に、ここを出る必要があるのか。
そんなことを考えつつ食べていたせいで、食事量を調整できていなかった。
食事を終えた頃には、俺の腹はパンパンになっていた。
「ふぅ......。ご馳走様でした......」
腹をさすりつつ、声を振り絞る。
「正道、もしかしてお腹いっぱい......? ケーキ、どうする......?」
「ケーキ......。ごめん......。食いすぎて、もう......」
「じゃあ、冷蔵庫に入れたままにしておくね?」
「ああ......」
「......正道、大丈夫?」
「正道くん......。大丈夫ですか......?」
七瀬と坂月先生が、心配そうに俺のことを見つめる。
大丈夫、ではない。
食べ過ぎたせいで、若干気分が悪い。
「ごめん......。少し、横になっていいか......?」
「う、うん......」
「七瀬、ごめんな......。体調崩しちゃって......。今日はありがとな」
「ど、どういたしまして......」
「先生も、今日はありがとうございました......」
「こちらこそ、呼んでくれてありがとうね......。お大事に......」
俺は先生に頭を下げると、椅子から立ち上がり、自室へと向かう。
気持ち悪いせいか、少しだけ歩きにくい。
フラフラとした足取りで、踏み外さないように階段を上っていく。
部屋に入り、一目散にベッドへと向かい、倒れ込む。
「うぅ......」
意識が朦朧としてきた。
本当に、ただの食べ過ぎなのだろうか。
「なんなんだ......。マジで......」
俺は、目を閉じる。
辛い、とても辛い今の状況から解放されることを願って。
「......ねぇ、七瀬。今日の旅行、楽しかった?」
「うん。楽しかったよ」
名残惜しそうに、窓の外を眺める。
帰りたくない。
家に、帰りたくない。
出たい。
生まれたこの地を、出たい。
私の居場所は、あんなところではない。
あんなつまらない場所ではないはずだ。
......本当にそうなんだろうか。
「んぅ......」
目を開けると、少しだけ調子が良くなっていた。
だが、完全に良くなったわけではない。
「喉......乾いた......」
体が、水を求めている。
俺は水を飲むために、部屋を出る。
人の声は聞こえず、カエルの声が少しだけ響いているだけだった。
そんな中、ゆっくりと階段を降り、台所へ向かう。
台所に入ると、そこには誰も居なかった。
俺は棚からコップを取り出し、水道水を入れる。
そして、中の水を少しだけ飲んだ。
水を飲むために顔を上げたついでに、時計を見る。
時刻は夜の十一時。
とっくに七瀬と坂月先生は帰り、母さんも寝ている時間だ。
仕事だった父さんも帰宅し、疲れてぐっすりと眠ってしまっているだろう。
「まだ、気分が優れないな......」
俺は水を飲み終えるまで、椅子に座って休むことにした。
薄暗い台所で、ボーっとしながら、少しずつ水を飲む。
そうしていると、ふと、視界にゴミ箱が入った。
七瀬がチラシを捨てたゴミ箱。
そのはずなのだが、中にあのチラシは入っていないような気がした。
「あれ......?」
俺は歯を食いしばって立ち上がり、ゴミ箱を覗き込む。
見間違えなどではなく、本当にチラシは入っていなかった。
元々入っていたゴミはそのまま残っており、チラシだけ無くなっていた。
「ど、どうして......」
もしかして、隠されたのではないか。
「あ、怪しい......」
あのチラシをこのまま無視してもいいのだろうか。
何故か、無視してはいけないような気がした。
俺は、ふらつきながらも台所を出て、チラシを探すことにした。
あまり音を立てると母さんと父さんが目を覚ましてしまうため、音を立てずに慎重に探す。
音を立てずに、タンスや押し入れを探していく。
もしかしたら、既に捨ててしまったかもしれない。
だけど、残っている可能性だってある。
だから、必死に探した。
そして、あのチラシは見つかった。
母さんの部屋のゴミ箱。
パンパンに詰まったゴミの下の方に、チラシはあった。
俺は取り出し、クシャクシャになった紙を広げていく。
「な、なんで......」
俺はチラシを見た途端、頭が疑問で埋め尽くされた。
「どうして、七瀬と母さんは......」
七瀬と母さんは、花火大会の中止のお知らせが書かれていたと言っていた。
だが、目の前のチラシには、花火大会開催のお知らせが書かれていた。
体調不良ということもあり、頭が働かない俺は、そのチラシをポケットに突っ込み、部屋へと戻った。
どうして二人はわざわざ嘘を付いたのか。
そのことについて考えたかったが、そんな元気も無かった。
手すりを握りしめ、死に物狂いで部屋へと戻る。
そして、俺はすぐに寝ることにした。
目が覚めたら、調子が良くなることを信じて。
だが、そんな俺に訪れたのは、快調などではない。
死にそうなくらい辛く、まるで、病気にでもなったんじゃないかと思うほどの不調だった。




