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俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第4章 不信

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居場所

 花火大会に行きたい。

 そんなごく普通の言葉に、何故そこまで驚いたのか。


 ぼんやりとしか見えていなかったので、見間違えであるかもしれない。

 だが、見間違えでなかったとしたら。

 七瀬、母さん、坂月先生の三人は、どうして驚いたのだろうか。


「あー......」


 七瀬は立ち上がり、花火大会のチラシを手に取る。


「な、何か都合が悪いのか......?」


「えーっとね......。......いや、都合は悪くないよ......」


 口ではそう言っているが、目は明らかに泳いでいた。


「じゃあ、何でそんな反応をしてるんだ......?」


 俺は七瀬に質問するが、七瀬はチラシをじっと見始め、俺のことを無視した。


「......あれ? これ、よく見たら中止のお知らせじゃん!」


「中止......?」


「えっと......。今年は資産面で厳しくて、中止になっちゃったんだってよ......」


「え、でも......。中止の連絡を、そんなカラフルなチラシで......」


「......下半分花火大会中止のお知らせで、上半分はスーパーのセールのチラシみたい。しかも、期限過ぎてる」


 七瀬はチラシを持ち、母さんの元へ向かう。


「正道のお母さん。このチラシ、もう要らないですよね?」


「え、えぇ。要らないわ。七瀬ちゃん。捨てちゃってくれる?」


「分かりました! じゃ、捨てちゃいますね!」


 七瀬はチラシをクシャクシャに丸め、ゴミ箱に投げ捨ててしまった。


「あ、料理がもう少しで完成しそうですよ」


 料理中の坂月先生が、嬉しそうな声で俺たちに伝える。


「それじゃ、お皿に移して......と......」


 坂月先生が皿にパエリアを移すと、母さんが皿をテーブルに置く。

 見た目はとても良く、忘れていた空腹を思い出す。


「良い感じにできましたよ......!」


 坂月先生がニコニコしながら、七瀬の隣の席に座る。


「あとは、飲み物を用意して......」


 母さんが冷蔵庫からペットボトルを取り出す。

 中身は、オレンジジュースと麦茶のようだ。

 そして、俺と七瀬のコップにはジュースを、母さんと坂月先生のコップには麦茶を注ぐ。

 注ぎ終えると、母さんは俺の隣の席に座った。


「それじゃ、準備も整いましたし......」


 七瀬はコップを持つ。


「正道の十四歳の誕生日を祝って......」


 俺と母さん、坂月先生も同じようにコップを手に持つ。


「かんぱーい!」


「「かんぱーい」」


「か、乾杯......」


 俺たちはコップを一斉にぶつける。

 そして、飲み物を口に入れた。


「さ、正道くん。召し上がれ」


「は、はい......」


 坂月先生に促された俺は、パエリアをスプーンですくう。

 見た目、匂いはとても良いが、果たして味はどうなのだろうか。


 坂月先生が少しだけ不安そうに、じっと俺のことを見つめている。

 そんな先生を気にしながら、パエリアを口に含み、咀嚼する。


「......美味しい」


「本当!?」


 不安そうな顔が一気に嬉しそうな顔に代わる。


「実は、少しだけ不安だったんだ......。味付けが合わなかったらどうしようって......」


「......とても美味しいですよ。作ってくださって、ありがとうございます」


「えへへ......。嬉しいなぁ......」


 坂月先生は後頭部に手を当て、恥ずかしそうに照れている。


「そんな美味しいなら、私もパエリアから......」


 七瀬と母さんもパエリアを食べる。


「んー! 美味しい! 先生、お料理上手なんですね!」


「本当、すごく美味しい」


「まさか、こんなに褒められるなんて......。私、お手伝いして本当に良かったです......! おかわりもあるので、どんどん食べてくださいね!」


「はい!」


 七瀬は返事をすると、パエリアをどんどん口へと運んでいった。



 みんなが用意してくれた、俺の誕生日会。

 賑やかで楽しい誕生日会。


 この誕生日会が幻ではなく本物なら、俺はとても幸せ者だ。



「そういえば正道。あんた、今年は何か欲しい物ってある?」


母さんが、誕生日プレゼントは何がいいかを聞いてきた。


「欲しい物、かぁ......。......今は、うーん......」


「......去年もそんなこと言ってなかったっけ?」


思い出してみると、去年も同じことを言ったような気がする。

勉強の邪魔にならないように、そして、高校に合格して本気でここを出ていくという意志を見せるために、物欲を完全に消し去っていたせいだ。


「......うん。でも、欲しい物はあるから、手に入りそうな時に......」


「はいはい。分かってるわよ。それも去年聞いたわ」


そろそろ母さんに、遠くの高校を受験して一人暮らしをしたいと言ってもいいのでは、そう思った。

しかし、今はまだ言わない方がいいと判断した。


勉強のし過ぎで入院した後なのに、遠くの偏差値の高い高校に通いたいと言ってしまったら。

合格するかどうか分からない不安から、勉強にのめり込みすぎるに違いない、と思われてしまうだろう。

そんなことを思われてしまったら、勉強しないように見張られる可能性だってある。

だから、あくまで趣味で勉強をしているように見せかけるのだ。


そして、母親は倒れたから反省しているはずと思い込んでいるはずだ。

だから俺は、その隙をついて勉強をするのだ。

こんな何もない、退屈な田舎からいち早く出るために。


「ねぇ、正道! チキンも美味しいよ!」


七瀬はそう言うと、俺の取り皿にチキンを勝手に置いた。


「あ、ありがとな......」


俺はチキンを食べる。


「う、美味いな......」


「美味しいよねー。正道のお母さん、本当に料理上手!」


「あら、照れちゃうわね、ほほほほほ......」



本当に、本当にここは退屈なのだろうか。

ここには俺のことを気にかけてくれる家族も、彼女の七瀬もいる。


俺の居場所はここではない。

ずっとその一心で、中学生になってからずっと、ずっと勉強をしてきた。


しかし、その考えは間違えなのではないか。

ほんの少しだけ、そんな疑問が芽生えていた。

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