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俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第4章 不信

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七瀬の気持ち

「......これって、指輪......?」


「うん......。ふもとの街の、個人経営のアクセサリーショップ。そこで買ったの......」


 箱の中に入っていたのは、ダイヤモンドのような作り物の宝石が取り付けられた、金属の指輪だった。

 俺は指輪を指で摘み、指にはめてみる。


「どうして指輪を......?」


「......もしかしたらね?」


 顔を隠しながら、七瀬は話し始める。


「もしかしたら、正道は今、私に不信感を抱いているかもしれない。なんでかは分からないけど、そう感じるの......」


「......っ! そ、そんなことは......」


 そんなことは、あった。

 実際、俺は七瀬に少しだけ、不信感を抱いている。

 だが、何故そんなことを知っているかのように話すのだろうか。


「でも、でもね......? もし、その不信感が綺麗サッパリ無くなって、私のことを、信用できる交際相手として見れるようになったら......」


「なったら......?」


「......私の誕生日に、同じ指輪をプレゼントしてほしい......」


「同じ、指輪......」


 つまり、七瀬を信じ、交際相手として普通に付き合えるようになったら。

 その時は、結婚指輪のように、おそろいの指輪を身に着けたい。

 おそらく、そういうことだと思う。


「......後悔したよね? 私の愛が重くて、こんなに思い上がってるって知っちゃって......」


 七瀬は今にも泣きだしそうだった。


 嫌われるかもしれない。

 そんな思いで押し潰されそうになりながらも、覚悟して渡してくれたのだろう。


「七瀬......ごめん......!」


 俺は謝った。

 七瀬の気持ちも考えずに、ただ、好奇心に突き動かされ、渡してくれと要求したことを。


「な、なんで正道が謝るの......? そ、それより、私こそごめん......。一方的に、こんなもの渡しちゃって......」


「いや、いいんだ......」


 俺は指輪の宝石を眺める。

 取り付けられた作り物の宝石は、部屋の照明で光り輝いていた。


「七瀬......。お返し、楽しみにしててくれ......」


「......うん!」


 そうは言ったものの、実際、七瀬を信じ、お返しができる気持ちになるかは分からない。

 だが、今は、七瀬を落ち込ませないために嘘を付いた。


 それが、とても苦しかった。



「......そうだ。そろそろ料理ができるんじゃないかな? 正道のお母さん、正道が帰る前から仕込んでたみたいだし......」


「そ、そうか......。じゃあ、そろそろ行くか......」


「うん」


 俺と七瀬は立ち上がり、部屋を出た。

 台所へ向かうと、いい香りが鼻を刺激する。


「わぁー! チキン!」


 テーブルの真ん中に置かれている皿には、ローストチキンが盛られていた。


「先生に手伝ってもらってるパエリアも、もう少しで完成するから、楽しみにしててね」


 母さんがそう言うと、調理中の先生が振り返り、ニコッと笑う。


「それじゃ、私たちは食器を用意しよっか」


「お、おう」


 俺たちは食器を取り出し、テーブルに並べる。

 その途中、パエリアのいい匂いを嗅ぐと、俺の腹が鳴った。


「ははは、正道のお腹鳴ってるー」


「そういえば、今日はボーっとしてて、昼食も食ってないからな......」


「じゃあ、いっぱいあるからたくさん食べな。正道の誕生日なんだから、遠慮はいらないよ」


「わ、わかった......」


 そんな会話をしていると、いつの間にか食器は並べ終えていた。

 特にやることが無くなった俺と七瀬は、椅子に座り、料理の完成を待つことにした。


「料理、楽しみだね!」


「そうだな......」


 俺は七瀬に返事をし、何となく台所を見渡した。

 すると、七瀬の背後に置かれている冷蔵庫に、マグネットで何かのチラシが貼り付けられているのを発見した。

 カラフルな色合いから、イベントについて書かれていそうなチラシだが、俺の席からではよく見えない。


「ん? どうしたの?」


 俺が何かを見ていることに気が付いた七瀬は、背後を振り向く。


「あー......。ふもとの街の花火大会、ねぇ......」


 どうやら、花火大会のチラシのようだ。

 ふもとの街で毎年行われており、この地域では数少ない大イベントである。

 数年前までは家族で行っていたが、ここ最近は行った記憶はない。


「花火大会かぁ......。久ぶりに行ってみようかなぁ......」


 おそらく俺は、周りからは勉強のし過ぎで、ストレスを溜め込んでいると思われているだろう。

 実際は勉強がきっかけではないが、ストレスを溜め込んでいることには違いない。

 そう思った俺は、ストレス解消のために行ってみようと思い、遠くてよく見えないチラシを眺めながら呟いた。


 だが、次の瞬間。

 ぼんやりと映っていた七瀬、その反対側に映っていた母さんと坂月先生。

 全員の体が一瞬だけビクっと震えたのが見えたような気がした。

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