質問
「ねぇ、正道......」
「......なんだ?」
「......落ち着いて、聞いて欲しいの。そして、正直に話してほしい」
七瀬が突然、真剣な顔でそんなことを言った。
普段の七瀬らしくないので、体が強張り、身構えてしまう。
「な、なんだよ......」
「......最近、変な違和感ってない? ......明らかに、体調不良とか、そういうことに関係していなさそうな......」
「......っ! ど、どうして......そんなことを......」
「......今は私を信じて答えてほしい」
七瀬の真剣な眼差しが、俺の目を捉える。
正直に話すべきなのか。
正直に話したら、全て解決するのか。
幻覚や幻聴が見えているかもしれないと、七瀬に話してもいいのか。
馬鹿にされたり、軽蔑されるのではないか。
そもそも、何故、七瀬はこちらに何か問題があるのではないかと分かっているのか。
何故、俺に問題があると思い、問いかけてきたのか。
もしかして、俺の症状に関して、何か知っているのではないか。
それなのにも関わらず、困っている俺を見て楽しんでいるのではないか。
それとも、何か、恐ろしいことでもしよう、いや、している最中なのではないか。
七瀬は、信じてもいい存在なのか。
信じられない存在に、真実を話す利点はあるのか。
彼女である七瀬を裏切るような答えを出していいのか。
俺を今まで支えてくれた七瀬を、信じなくてもいいのか。
「......いや、特には......」
苦渋の決断。
俺は、否定する決断を選んだ。
彼女である七瀬に、嘘を付く選択をした。
「......そう。なら、いいんだけど......」
先ほどまでの真剣な眼差しから一点、少し落ち込んだような表情を見せた。
いつもの七瀬に戻り、俺は心の中で少しだけ安心する。
「あ、正道くん。起きたんだね」
教室の外から、坂月先生が声をかけてきた。
「もう......。今日は許しますけど、今度からは夜更かしせずにちゃんと寝て、居眠りしないようにしてくださいね......!」
「は、はい......。今日は本当にすみませんでした......。これからは気を付けます......」
俺は深々と頭を下げ、謝罪する。
「......さ、先生のお説教はここまで。これ以上空気が悪くなったら、この後の誕生日会を楽しめなくなっちゃいますもんね。車の準備はできたので、一緒に行きましょう」
先生はそう言い、玄関に向かって歩いて行った。
「私たちも行こ」
「お、おう......」
七瀬は先生の後を追いかける。
俺も同じように先生の後を追いかけ、教室から出た。
校門前には、先生の赤い軽自動車が止まっていた。
先生が車のロックを解除し、後ろのドアを開ける。
「さ、乗ってください。シートベルトはちゃんとするんですよ」
「はーい」
七瀬は元気よく返事をし、車に乗りこむ。
俺も乗り込み、七瀬の隣に座る。
「それじゃあ、出発しますね」
坂月先生が運転席に座り、エンジンをかける。
車が動き出し、デコボコした道を走り始める。
俺は窓の外をボンヤリと眺めていた。
窓からは森や山、ここ最近使われておらず、草が大量に生えている畑しか見えない。
しかし、そんな単調な風景でも、現実逃避をするには十分だった。
「そういえば先生。先生も今日の料理を作るんですよね?」
「そうですよ。参加させてもらうお礼ということで......」
「先生の料理、楽しみです!」
七瀬と坂月先生が話し始めるが、俺は窓の外から視線を動かさなかった。
目を逸らしたら、不安だらけの現実に戻されてしまう。
そう思ったからだ。
「正道も楽しみだよね?」
「......え、あ、あぁ」
「もー......。先生が料理を作ってくれるっていうんだから、ちゃんと感謝しないと......」
「い、いいんですよ! 凄い料理が作れるわけでもないので......」
「えー? そんなことないでしょー。先生料理上手そうだし......。私の勘だけど」
再び二人は楽しそうに話し始めた。
そしてまた、俺は窓の外へと視線を戻す。
「先生、こっち方面の道はほとんど通らないんですけど、全然人がいないなぁって毎回思うんですよね......。家はたまーに見かけますけど......」
「この辺って老人ばかりだから、みんなふもとの街の老人ホームに入っちゃったんですよね。この辺じゃ、車が無いと生活できませんし。かといって、車に乗るのも危ないですし......」
「そうなんですね......。確かに、こんな舗装されてないデコボコしている細い道を、ご老人の方が通るのは大変ですもんね......」
「私、ここが好きだから、もう少し人が増えて、少しでもいいから賑わってほしいんですけどね......。せめて、お祭りとかはしたいなぁ......」
「そうですねぇ......。流石に、寂しすぎますもんねぇ......」
「あ、次に見える家が正道の家ですからね」
「知ってますよ。毎年ある家庭訪問で訪れているので」
「あ、そっか」
二人はずっと話続けており、俺はずっと窓の外を眺め、ボーっとしていた。
だが、そろそろ家が近い。
現実逃避の時間は、もうそろそろ終わりそうだ。




