頑張る理由
下校中、俺はただなんとなく理由が気になり、何故声が枯れるまで演劇の練習をするのか、聞いてみることにした。
「そういえばさ、七瀬」
「ん? どうしたの?」
「なんでそんなに役者になりたいんだ?」
すると、七瀬は少し困ったような表情を見せる。
「色々理由はあるんだけど......。一つはね、昔、両親と演劇を見に行ったことがあってね。その時に主役のお嬢様を演じている人がいたんだけど。その人に憧れちゃって......」
「いい理由じゃん」
「これが一つ目の理由。二つ目の理由はね......」
理由を言うのが恥ずかしいのか、口をモゴモゴとさせ、なかなか理由を言おうとしない。
「大丈夫だって。笑わないから」
「......本当?」
「......理由による」
少し前にした記憶があるやり取りをすると、七瀬は決心したのか、口を開く。
「......正道を引き留めたかったから」
「え、俺......? どういうことだ?」
俺と将来の夢の関係性が分からず、七瀬に聞き返す。
「正道はこの田舎が嫌で、都会の頭のいい高校に通うことを理由に、都会で一人暮らししたいからでしょ? それで、そのまま大学に行って、就職するつもりでしょ? だから......」
「だから......?」
「......私が頑張って有名になって、ここで活動すれば人が集まるでしょ? それで、ここが観光地にでもなって田舎っぽくなくなれば、もしかしたら戻ってきてくれるかな......って......」
「な、七瀬......」
まさか、七瀬がそこまで俺のことやこの地域のことを考えて練習をしているとが思わなかった。
「でもさ、独立して自由に活動するとなると、とてつもないくらい大変でしょ......? だから......」
だから、声を枯らし、勉強を疎かにしてまで日々練習をしていた。
「七瀬、ごめん......」
「え......?」
「七瀬がそんな思いを持っているのも知らずに、勉強ができないことに対して色々言っちまって......」
心の底から申し訳ないと思い、俺は謝罪した。
「いや、勉強してないのは悪いことだし、正道が謝ることじゃないよ......」
「だけど......」
「じゃあさ、申し訳ないと思うなら、応援してよ」
「そ、それは勿論! 当たり前だ!」
「ふふ、それじゃあ私のこと、ちゃんと見守っててね」
七瀬はニコッと笑う。
「あ、そうだ。役者を目指してるというか、演劇を頑張っている理由があるんだけど......」
「もう一つ?」
「うん。でも、それはまだ言えないかな」
「ま、まだ......?」
まだ、とはどういうことなのだろうか。
恥ずかしいのか、それとも、何か別の理由があるのだろうか。
「い、いつ教えてもらえるんだ......?」
ここまで聞いたら理由が気になってしまい、七瀬に聞く。
「うーん......。......分かんない」
「わ、分からない......?」
「うん。だから、楽しみにしてて」
「お、おう......」
七瀬が演劇を頑張っている理由。
わざわざ役者を目指している理由ではなく、演劇を頑張っている理由と発言したので、将来の夢とは関係がない理由なのだろう。
しかし、演劇に疎い俺は、役者を目指す以外で演劇を必死に頑張る理由が思いつかなかった。
七瀬と会話しつつ、頭の隅っこで理由を考えていると、いつの間にか俺の家の前に辿り着いていた。




