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俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第3章 謎
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声の不調

「えっ!? あー......。実は、演劇練習の一環で、発声練習をしてたんだけど......。今日起きたら喉が少しおかしくなってて......。ゴホッ.....」


 低い声で話す七瀬。

 咳をしていて苦しそうだ。


「ちょっと待ってろ。のど飴持ってきてやるから」


 俺は靴を脱ぎ、台所へ向かった。


「母さん。七瀬が喉が痛いっていうから、のど飴もらってもいい?」


「あら、いいわよ」


 食器棚の空きスペースにお菓子が入っている箱があるので、箱を取り出し、のど飴を探す。

 適当に良さそうな飴を選んだ俺は、玄関へと戻り、七瀬へ手渡す。


「ほら」


「あ、ありがと......」


 七瀬は包装を開け、飴を口に放り込む。


「それじゃ、行こうぜ」


「うん......」


 俺と七瀬はいつも通り歩き始め、学校へと向かった。



 教室の扉を開けようとすると、扉の窓から坂月先生が黒板前の椅子に座っていることに気が付いた。

 ペンとノートを持ち、何かをメモしている。


「おはようございます。今日は早いですね」


 扉を開けながら、先生に声をかける。


「おはようございます。先生」


 低い声で挨拶をする七瀬。


「あっ、おはようございます。二人とも」


「先生、今日はどうしたんですか? いつもはチャイム直前に教室に入ってくるのに」


「今日は職員室じゃなくて教室で作業をして、気分転換でもしようかなーって思って......」


 七瀬と坂月先生が会話を始める。


 おかしい。

 坂月先生は七瀬の声がおかしいとは思わないのか。

 先生であるなら、生徒を心配して確認くらいはしそうであるが、坂月先生は全く声に触れない。


「......あれ? どうしたの、正道くん......? 体調悪い......?」


 坂月先生は考え事をしていた俺を心配そうに見てくる。


「あ、あの......。俺よりも、七瀬の方が......」


「七瀬さん......?」


 坂月先生は七瀬を見つめる。

 じっくりと顔を見て、様子を伺っている。


「先生の目からは、特に調子が悪そうには見えないけど......」


「いや、見た目じゃなくて、声が......」


「......あっ!」


 突然、七瀬が驚き、声を出す。


「ど、どうしたんだ、七瀬......?」


「あ、いや。何でもないよ! 今宿題やり忘れたことを思い出しちゃって......。すみません坂月先生......。休み時間にやるので......」


「あら、仕方ないですね。今回だけですよ」


「本当にすみません......」


 七瀬はしょんぼりとし、謝った。


「じゃあ、少しでも早く終わらせるために、今からやります」


 七瀬は自分の椅子に座り、歴史の問題集とノートを広げ、問題を解き始めた。


「あの、先生。さっきのことなんですが......。七瀬の声......」


「七瀬さんの声?」


「今日は七瀬の声の調子が悪いと思うんですけど、特に違和感はありませんでしたか?」


「えーっと......。私からは、特には......。......もしかしたら先生、耳が悪くなってるのかも?」


 先生は耳を触りながらそう言った。


「ちなみに、今日の七瀬さんの声ってどんな感じだった?」


「えっと......。いつもより声が低い感じがして......。本人は声が枯れたって言ってますけど......」


「あら......。それは少し心配ですね......。正道くん。教えてくれてありがとうね」


 先生がお礼を言う。

 会話はそこで終わり、俺は席に戻った。


「......あれ、範囲ってここでいいんだっけ?」


 問題を解いていた七瀬の手の動きが止まり、七瀬が呟く。

 七瀬は立ち上がり、坂月先生の元へ向かう。


 しかし、範囲を聞くだけなら問題集だけを持っていけばいいのに、何故かノートまで持っていっている。

 これではまるで、俺には聞かれたくないことを、文字で伝えようとしているみたいだ。

 もしかすると、俺に内緒で誕生日会の打ち合わせをしようとしているのかもしれない。


「ありがとうございます! 必ず放課後までに終わらせます!」


 範囲を聞き終えた七瀬は席に戻り、再び問題を解き始めた。



「なぁ七瀬」


 放課後、坂月先生に課題を提出し終えた七瀬に声をかける。


「そのー......。演劇に力を入れるのはいいが、少し力を入れすぎてないか? 声が枯れるのはともかく、宿題を忘れるほどに熱中しちゃって......。あ、いや。七瀬を否定してるって訳ではなくて、ただその......。そのうち体調を崩してしまうんじゃないかって思ったら、少し心配で......」


「そ、そんなに心配......? だ、大丈夫だって......。......でも、正道がそう言うなら、もう少し控えるよ。心配ありがとう」


 七瀬は照れながら言った。


「よーし! じゃあ、そんな優しい正道のために、誕生日会張り切っちゃうぞー!」


 七瀬は声を大きくして自分を鼓舞する。


「お、おい......! 喉の調子が悪いんだから、あんまり大声を出すと......」


「あっ......」


 七瀬は喉を抑え、少し苦しそうな顔をする。


「い、今ので悪化したかも......」


「ほら、言わんこっちゃない......。またのど飴やるから、俺の家に寄ってけよ」


「うう......。申し訳ない......」


「じゃ、帰るぞ」


「う、うん......」


 俺は教室を出て、家へと向かった。

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