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俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第3章 謎
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恐怖

「あら、もう終わったの?」


 診察室から出ると、椅子に座っていた母さんが心配した様子で声をかけてきた。


「それで、結果は......?」


「......疲労で調子が悪くなってたみたい」


 俺はとりあえず藤波さんに言われたことをそのまま伝える。


「......そう。正道、勉強頑張ってるから、そのせいかもね......。体調悪いなら、座って少しでも休んだら?」


 母さんが隣の座席を手でポンポンと叩く。

 俺は母さんの隣に座り、一緒に藤波さんを待つことにした。



「高凪さん。お会計の準備ができました」


 数分後、藤波さんが奥の部屋から受付へ移動してきた。

 母さんは立ち上がり、会計を済ませる。

 俺は椅子に座ったまま、二人のやり取りを眺めていた。


「......ん?」


 会計にしては、やけに会話が長いような気がする。

 何を話しているか聞き取ろうとしたが、声が小さくてこちらには聞こえない。


 俺は会話が気になり、母さんたちに近づこうとした。

 しかし、藤波さんがこちらに気が付くと、会話を切り上げてしまった。

 まるで、俺に聞かれてはマズイ会話をしていたかのように。


「さ、帰りましょ」


 母さんはスタスタと病院の入口に向かって歩き始めた。

 俺も入口に向かって歩き始める。


「なぁ母さん。さっき、先生と何を話してたんだ?」


 病院から出て、駐車場の車に向かっている途中に母さんに聞いた。


「たいした話じゃないわよ。ちゃんと見守っててあげてくださいとか、そういうことを言われただけよ」


 母さんは車のロックを解除しながら話す。


「さ、早く帰りましょ。ちゃんとシートベルトはするのよ」


 母さんが車に乗り込み、俺もそれに続いて乗り込む。

 俺がシートベルトをすると、母さんは車を発進させた。


 森林の中の下り道を走る車内で、俺は窓の外をぼんやりと眺めながら藤波さんの診察を思い出していた。

 既に症状が分かっているかのような、的確な質問。

 何かを知っていそうなのに、疲労という普遍的な診断結果を出した。


 藤波さんは信用できる人物なのか。

 俺の頭の中では、その疑問で埋め尽くされていた。



 帰宅後、母さんに調子が悪いなら寝て休んでいなさいと言われたので、ベッドに横になっていた。

 しかし、特に眠いわけでもないので、スマホで調べ事をしていた。

 調べている内容は、昨日と同じ内容だ。


 ドッペルゲンガー、仮想世界、統合失調症等々。


 頭の中ではあり得ないと思いつつも、どうしても気になって調べ続けてしまった。

 症状や事例を調べ、心の中で否定するも、変な妄想により不安になる。


 横になりながら精神を疲弊させていると、いつの間にか午後になっていた。


「......昼食、食べるか」


 俺は起き上がり、台所へと向かった。



 昼食を食べた後は、またベッドに横になり、色々と調べ、不安になる。

 絶対に良くないとは分かっていても、調べる手を止めることはできなかった。



「......目が疲れたな」


 目の疲れを感じ、スマホをスリープ状態にしようとした。

 その時にふと時刻を確認すると、既に夕方の五時であることに気が付く。


「マジかよ......」


 俺は後悔した。

 せっかく学校を休んだのに、意味の無さそうなことについて調べて時間を潰してしまったのだから。


「はぁ......」


 俺は大きなため息をついた。

 それとほぼ同時に、インターホンが鳴った。

 時間的に、帰宅した七瀬がやってきたのであろう。


「七瀬......」


 ふと、この前の七瀬を思い出してしまった。

 突然姿を変え、俺と同じ見た目になった七瀬のことを。



 怖い。

 七瀬に会うのが怖い。


 得体のしれない七瀬と会うのが怖い。



 俺の心は恐怖で満たされていた。


 一方七瀬は、階段をドタドタと駆け上がり、俺の部屋に近づいてくる。

 俺は反射的に布団を頭まで被り、身を潜めてしまった。


「正道!」


 扉が開き、七瀬が俺を呼ぶ。


「......寝てるの?」


 七瀬の足音が、こちらに近づいてくる。

 俺は怖いと思いつつも、ほんの少しだけ頭を出し、七瀬を確認した。


「あ、起きてたんだ」


 恐る恐る七瀬の顔に視線を向けると、いつも通りの可愛らしい七瀬が立っていた。

 俺は少しだけ安心した。


「顔色はそんなに悪くなさそうだね。良かったー」


 七瀬は安心したのか、笑顔を見せる。

 その笑顔を見て、俺は更に安心した。


「まぁ、そこまでは悪くないよ。明日は学校に行けると思う」


「そうなんだ! ......正道が居ないと寂しいからさ」


「......悪いな。休んじまって」


 少し申し訳なくなり、謝罪する。


「仕方ないよ! 調子が悪かったんだし......。あ、そうだ」


「どうしたんだ?」


「あんまり言いたくなかったらいいんだけどさ......。どんな感じで調子が悪かったの? 例えば、前みたいに意識を失った、とかさ......」


「あー......。今回はそんな大ごとじゃないよ。ただ、目の調子が悪い気がしてさ。なんか、ここ最近見間違えが多くなった気がしてさ。学校を休むほどでもないと思ったけどさ、少し心配だったから......」


「......見間違え、かぁ」


 七瀬は少し引っかかるのか、考え始めた。


「ちなみにさ......」


(あれ......)


 この流れ、このやり取り。

 先ほどした診察と酷似している気がする。


 藤波さんの診察の時は、このあとこんなことを言ったはずだ。


「人を見間違えたりとか、そんなことってあった......?」

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