表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第1章 目覚め
1/4

昏睡からの目覚め

「はっ......!」


 目が覚めた。

 目の前には見慣れない白い天井。

 蛍光灯の光が俺の目を刺激し、うまく目を開けられない。


 半目で周囲を確認すると、一人の見知った女の子の顔が見えた。

 短髪の黒い髪の女の子だ。


「......っ! 目が覚めた!」


「な.....なせ......?」


 目の前の少女は、おそらく同級生の西森七瀬だ。


「大丈夫......!? 自分の名前とか、覚えていることを言って!」


「覚えていること......」


 俺は、ぐちゃぐちゃな思考を整理し、情報をかき集めていく。


「高凪正道......。一四歳......」


 そう、俺は中学二年生の高凪正道。

 確か、受験勉強をしてて、それで......。


 そこからの記憶はなかった。


「なぁ七瀬......。俺は一体、どうしたんだ......?」


 俺は自分の状況を知るために、七瀬から話を聞こうとした。

 しかし、気が付いたら七瀬は居なくなっていた。

 記憶の整理をしている間にどこかへ行ってしまったようだ。



 それから数分後、体を起こせるようになった俺は、体を起こす。

 どうやらここは個室の病室で、俺はベッドに横になっていたようだ。

 あまり広くない白い壁、白い天井、黄色寄りのクリーム色の床の六畳ほどの病室。


 唯一ある窓から外を見ると、外は森が続いていた。

 気に隠れつつも少しだけ見える空は、夕焼けで真っ赤になっていた。

 病室の壁に掛けられている時計を見ると、時刻は午後六時を過ぎていた。


 腕には針が刺された跡と思われる傷があった。

 おそらく、寝ている間に点滴をされたのだろう。


 状況整理をしていると、七瀬と医師が部屋に入ってきた。


「あっ! 正道! 安静にしてないと! 起きないで寝てて!」


 七瀬は俺に駆け寄り、俺の体を横にした。


「なぁ七瀬......。俺は一体......」


「その件については、私からお話しましょう。あ、ちなみに私は藤波と言います。よろしくね」


 藤波という名の医師が眼鏡をクイッっと指で動かしながら言う。


「正道くん。君は、受験勉強のストレスで倒れてしまったんだ。それで、ここに運ばれた」


「受験勉強......」


 そうだ、思い出した。

 俺はこの田舎から出るために、高校の受験勉強をしていた。

 死にそうになるくらい必死に。


「思い出しました......」


「そうか、よかった」


「本当に良かったよ!」


 七瀬は俺に抱き着いてきた。


「お、おいよせよ......。心配してくれるのは嬉しいが、俺たちそんな仲じゃないだろ......」


「あ、そうだね......。ごめん......」


 少しへこみながら離れる七瀬。


「ごほん......」


 藤波さんが咳払いをする。


「二人で色々話をしたいと思うが、私から伝えたいことがある。聞いてくれるか?」


「は、はい......」


 それから、今後の生活に関する話が始まった。


「まず、当分はこの病院で安静にしながら生活してもらう。そして、私が問題ないと判断したら、退院して今まで通り学校に通ってもらっていい」


 藤波さんからの説明は簡素なものだった。


「私もお見舞いに来るから! 慣れない生活が続いて大変かもしれないけど、私も手伝いにくるから頑張ろうね!」


 七瀬は俺を励ますためか、そう言った。


「じゃ、私はこれで。君も明日早いのだろ? もう遅いし、帰りなさい」


 藤波さんは七瀬に帰るよう促すと、病室から出て行った。


「じゃ、じゃあね。正道」


 七瀬は俺のことを心配そうな顔で見つめつつ、藤波さんの後に続いて出て行った。


「七瀬......」


 俺は疑問に思っていた。


「俺と七瀬って、そんなに仲が良い関係だったっけ......?」


 同じ学校、同じ教室で毎日を過ごしていたはずだが、そこまで話をした記憶はない。

 だが、もしかしたら記憶がぐちゃぐちゃになっており、勘違いをしているだけかもしれない。

 これ以上考えても無駄だと思った俺は、回復するまで考えるのをやめることにした。



 それから、俺の入院生活は続いた。

 味の薄い病院食、娯楽はテレビのみ、定期的な検査。

 正直、最悪だった。

 なぜ大切な時間をこんな病院で過ごさなければいけないのかと強く思っていた。


 だが、毎日学校帰りに七瀬がお見舞いに来てくれた。

 学校であったことや、勉強したこと、近所のことを教えてくれる。

 他愛もない会話だが、その会話が俺の唯一の癒しだった。


 それと、両親も毎日お見舞いに来てくれた。

 だが、俺が倒れたのがショックだったのか、それとも体調が万全ではないと思って気を使っているのかわからないが、会話がはずむことはなかった。



 そして、二週間ほど経過した六月の中旬、俺に転機が起きた。

 学校終わりの七瀬が笑顔で俺に話しかけてきた。


「ねぇ正道! さっき藤波さんから聞いたんだけど、三日後に退院していいってよ!」


「本当か!?」


 その言葉を聞き、俺は嬉しくなった。

 ついにこの退屈な入院生活から解放されるのだ。


「ただ、まだ一人で生活させるわけにはいかないから、通学から帰宅まで私同伴が条件だけど......」


「いや、嬉しいよ! でもさ......」


「ん?」


「それじゃあ七瀬に迷惑かかるんじゃ......」


 俺はそれを不安視していた。

 だが、そんな不安を聞いた七瀬は笑顔になる。


「全然気にしてないよ! むしろ、一緒にいれて嬉しいし!」


 七瀬が俺の手を掴み、じっと見てくる。


「これからよろしくね!」


 そして、満面の笑みでそう言った。


「お、おう......」


 俺はあまりの押しに少しどもってしまった。

 何故、七瀬はここまで良くしてくれるのだろう。

 距離の詰め方が急すぎて、少し怖くなる俺だった。



 それから三日後、藤波さんによる検査が行われ、問題ないと判断された。

 定期的に検診を受けに来なければいけないが、入院生活とは完全におさらばだ。

 俺は、両親が持ってきた服に着替えて家に帰宅した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ