表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/58

【3話(3/3)】紫苑センセーの宝具講座

神木の加護を受ける街・煌都(こうと)


サボりの学生・(みなと)陽輝(はるき)は、神木と会話できる女児・猪狩(いかり)美咲(みさき)と出会う。


一日中研究室に預けられている美咲は、幼稚園に通いたいと望んでいた。

そんな美咲に、湊は必ず自分が幼稚園に連れて行くと約束する。


そんな折に、謎の上級生・小昏(こぐれ)が美咲に接触を試みる。

小昏を返り討ちにした直後、湊は何者かによって気絶させられたのであった。


※小説家になろう・note・Nolaノベルにて同時投稿中

※残酷な描写として、殴る蹴る・鼻血が出る程度です。

夜も遅くなるので、湊と紫苑は帰り支度を始めた。

寝巻きの美咲が枕を持って来る。


「みなとさん!ねんねする!」

「寝ません。じゃあね」

「やっ!みさきとねんね!」


追いかける美咲を成海が止める。

「湊と一緒に遊んだでしょ。また明日ね」

「みなとさぁん!みさきとねんね〜!」

「だーめ!兄ちゃんとねんねだよ!」


狩野が車で送るよう申し出てくれたが丁重に断り、湊と紫苑はアパートを後にした。


***


湊と紫苑は、2人で夜の住宅街を歩く。


「いやぁ、湊ってばモテモテじゃ〜ん!」

「はぁ……美咲、昼はあんなに寄って来なかったのに」

「心配だったんだよ、オレが殺しちゃったからね〜」


紫苑は腰袋から翡翠色の何かを取り出し、クルクル回して弄ぶ。


「あっ!それ、宝具じゃないですか!?」

「ふふ〜ん、ちゃーんと許可もらってるし〜。オレ、訓練生の中じゃあ上澄みなのよん」


紫苑の宝具は、あまり武器らしく見えない。

腰のベルトからワイヤーが伸びており、その先に翡翠色のフックが付いている。


「なんか工事現場の命綱みたいですね」

「そーそー!実用性ってヤツ!」

「その鉤みたいなのを俺に投げつけて気絶させたんですか?」


紫苑はフックを湊のうなじに軽く当てた。

「こう、チョンチョンってやっただけ〜」

「うわっ、やめて下さい!」


思わずうなじを押さえて飛び退く。

「夜道で倒れたらどうしてくれるんですか!」

「ヤロウをお持ち帰りする趣味はありませ〜ん!てか祈念知らないってマジ?」


(祈念?俺が思ってる祈りと違うのか?)


「まさか、初っ端から授業出てないワケ〜?」

紫苑が煽るように尋ねてくるせいで、素直に分からないとは言いづらい。

「ぐっ……それくらい分かりますよ!煌都なら祈念の時間は毎日あるじゃないですか」

「ブッブー!宗教的なお祈りとは別モンでーす!」


紫苑はニヤつきながら顔を覗き込んでくる。

「アンタさあ、色々と手遅れになる前に、早めに授業受けなよ〜?」


不貞腐れてそっぽを向くと、今度は肩を組んでくる。

自分より高身長の人間にはあまり遭遇しないが、珍しく紫苑の方が高い。


「はいはい、不真面目な湊クンのために、今日は特別に紫苑センセーが教えてあげましょー!」

紫苑は肩を組んだまま話を始める。


「御使サマが神木にお願いして、それを聞いた神木がお願いを叶えてくれるっしょ?それを普通の人間と結晶でやろうってのが祈念。つまり、結晶に思念やイメージを込めることで、それを実現させるってワケ」


紫苑は湊の頬にフックをペチペチ当てる。

「今は祈念してないから、ここに宝具の力は乗ってないよん」

「うっ……やめて下さい、分かりましたから」


湊が顔を背けると、今度は自分の首にフックを当ててみせた。

「ちゃんと宝具の力を活用するなら、こうやって祈念しなきゃってワケ」


首に触れていた部分から白い光が放たれ、すぐにフック全体が輝きに包まれる。

「おぉ……!」


白い光はだんだんピンク色へと変わっていく。

「すごい……!紫苑さんの髪色に似てますね」

「そりゃこっちの輝きをもとに染めてんだもん。色づく理由は不明だけど、輝きの色は人それぞれ違う。自分だけの輝きって詩的よねぇ」


(自分だけの輝き……俺が宝具に祈念したら、何色になるんだろう)


湊は小昏(こぐれ)の持っていた宝具を思い返した。

小昏の宝具は光っていただろうか?

少なくともこんなに目映い光は放っていなかったはずだ。


ピンクの輝きに目を奪われていると、紫苑は湊の眉間にチョンとフックを当てる。

「ほれっ」


眉間に衝撃と痛みが走る。

「いってぇ!」

「デカい声出さないの〜。加減してるっしょ?」


紫苑はワイヤーを短くして、フックを腰袋にしまった。

ベルトの金具を操作するとワイヤーが巻き戻る仕組みのようだ。

フックの輝きは、いつの間にか消えていた。


「さっき言ったように、祈念にはイメージが必要。対象がどうなってほしいか、想像するの。ただし人体を傷つけるイメージや、人体で実現不可能なイメージは通らない」

「じゃあ、どういうイメージなら通るんですか?」

「対象を制圧する時は、だいたい戦意や意識の喪失を想像するのが定石だよねぇ。あとは衝撃とか痛みとか、身体の損傷を伴わない程度の不快感。今はデコピン程度を想像したけどね」

「へぇ……」


実際に宝具を使ったことがないため、想像しがたい。

自分が使っても、イメージするだけで宝具が光るのだろうか。


「ま、この辺の話が参考になるのはずっと先!小昏にやられた時、痛いけど動けたっしょ?ちゃんと頑張ってるヤツでも、相手に痛みをちょびっと与えるのがやっとなの。祈念って修練とセンスが必要なのよん」

「でも、紫苑さんは気絶までいけてるんですよね?」

「そりゃあオレは上澄みだから〜!まずは授業で宝具に慣れて、安定して祈りを通せるようになりな!」


給金のためにも今後の授業には出ないといけないのだが、いきなり全て参加する気にはなれない。

でも宝具は面白そうなので、まずは宝具を扱う授業に出てみるのがいいかもしれない。


***


寮は学年ごとに階が分けられている。

湊は紫苑と別れ、自室へ戻った。


4人部屋のルームメイトたちを起こさないよう、そっと扉を開ける。

物音を立てたくないので、シャワーや着替えは明日やることにした。

もっとも、物音で起こしたところで何も言われないだろう。

最初は朝に起きるよう声かけをしてくれていたが、無視して堂々とサボり続けた結果、今ではすっかり放置されている。

まあ、干渉されない方が楽でいい。


そっと2段ベッドの上段に潜り、目を閉じる。


(神木の苗木、宝具の祈念……施設暮らしとはいえずっと煌都に住んでたのに、知らないことばっかりだな)


煌都で暮らしていようと、神木は一般には公開されていないし、宝具は貴重品だし、加護も顕著に現れることはまずない。

ほとんどの都民に深い信仰心はなく、形式的な祈りを捧げているのみだ。


今日、人生で初めて煌都の煌都らしい面に触れた気がする。


(色々ありすぎて疲れた……迷子を見に行っただけだったのに)


まぶたの裏に、美咲の顔が思い浮かぶ。


(まずは美咲を幼稚園に通えるようにしないと。俺が普通の子にしてあげるって、約束したから……)


湊はそのまま眠りに落ち、長い一日が終わったのであった。


読んで頂きありがとうございます!

初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ