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【3話(1/3)】科された懲罰、課された任務

神木の加護を受ける街・煌都(こうと)


サボりの学生・(みなと)陽輝(はるき)は、神木と会話できる女児・猪狩(いかり)美咲(みさき)と出会う。


一日中研究室に預けられている美咲は、幼稚園に通いたいと望んでいた。

そんな美咲に、湊は必ず自分が幼稚園に連れて行くと約束する。


そんな折に、謎の上級生・小昏(こぐれ)が美咲に接触を試みる。

小昏を返り討ちにした直後、湊は何者かによって気絶させられたのであった。


※小説家になろう・note・Nolaノベルにて同時投稿中

※残酷な描写として、殴る蹴る・鼻血が出る程度です。

オレンジ色の夕焼けの中、その人はいつもの困り顔でこちらに手を差し伸べた。


「ハルくん、どうして家出したの?先生、とっても心配したのよ」


その手を振り払い、叫ぶ。


「知ってるもん!おれ、いらない子なんでしょ!」

「違うわ、そんなこと言わないで」

「だって!みんな親が見つかってんのに、おれだけ見つかんないじゃん!親がいればフツーの生活できるって言ってたじゃん!何でだよっ!」

「ごめんね、ハルくん、ごめんね……」


背を向けて去ろうとすると、手を繋いで引き止められる。


「はなせっ!ここのシセツ、ビンボーなんだろ!だから学校行けないんだ!フツーの親、おれが自分で探しに行く!」

「お願い、行かないで。ハルくん、そんなに学校に行きたかったの?先生知らなかったわ、ごめんね」


ゆっくりと頭を撫でられ、逆立っていた心が鎮まっていく。


「ね、ハルくん。お手伝いも、お勉強も頑張れる?そしたら先生も頑張る。ハルくんを学校に行かせてあげる」

「……ほんとに?フツーの学校?」

「もちろん。一緒に頑張ろうね。約束よ」

「んー……うん、分かった!」

「ふふ、いいお返事ね」


先生はあたたかい腕で、ぎゅっと抱きしめてくれた。


「だから、ハルくん。自分をいらない子だなんて悲しいこと、もう言わないでね」


***


「うっ……ん……?」


白い蛍光灯が眩しい。

どこかの室内の床に転がされているようだ。


何か懐かしい思い出を夢に見た気がする。

どんな夢だっただろう。


「あっ、お目覚め〜?おはよー」


男が目の前で手をヒラヒラ振ってくる。

ニヤリと笑うと、リップピアスがキラリと光る。

訓練生の制服を着崩し、耳にも大量にピアスがついており、真っ当な学生とは思えない。

束ねた黒髪のところどころにはピンクのメッシュが入っている。


(誰だ、このメッシュ野郎?俺、何してたっけ……)


メッシュ男は湊の足元にあるパイプ椅子を引き出した。


「ほら、自分で座りなー」


言われるがまま、椅子に掴まってよろよろと立ち上がる。


室内には長机とパイプ椅子が並び、ホワイトボードが置いてある。どこかの会議室のようだ。


窓の外に目をやると、陽が沈んだ後の薄暗い空に、校舎の壁と中庭の植木が見えた。


(学校のどっかの部屋か?俺、何でここに――)


「あっ!そうだ、美咲!ちっさい女の子、俺の近くにいたはずで」

「あぁ、美咲ちゃんは成海(なるみ)が連れて帰ったよ」


あの後、無事に兄と合流できたらしい。


「美咲ちゃん、オレがアンタを殺したって思ってるんだよ〜?アンタが死んだって騒ぐから大変だったわ〜」


湊は首にじんわりと残る衝撃に気づいた。

「まさか、あんたが俺を気絶させたのかっ――」

目にも留まらぬ速さで眉間を小突かれた。

「いってぇ!」


「オレ3年だから、舐めたクチきかないの〜。紫苑(しおん)さんとお呼びなさいよ〜ん」


ふざけた言い方だが、手の動きは明らかに戦い慣れている速さだった。

逆らわない方がいいだろう。


「……紫苑さんが、俺を気絶させたんですか」

「そ!同じ敷地とはいえ、研究棟は訓練校の外って扱いなのよ〜?校外での暴力沙汰は普通に懲罰!見ちゃったからには制圧して連行しなきゃね〜」

「懲罰?暴力ったって、正当防衛ですよ!」

「それは聞き取る人に言ってよね〜。いい子にしてお話したら、懲罰も軽くなる……かもね」


紫苑はドアを開け、外に向かって叫ぶ。


「テルちゃ〜ん!出番だよ〜!」

「やめろ、鳩羽(はとば)!他所でそんな呼び方をするな!」


怒鳴りながら眼鏡の学生が入ってきた。

咳払いをし、しかめっ面で向かいのパイプ椅子に腰掛ける。


「生徒会副会長の、吉川(きっかわ)照臣(てるおみ)だ。お前が2年生に暴行を加えた件で、聴取に来た」


(副会長……成海さんが会長だっけ。なんか、成海さんと違って優しくなさそうだな)


この気難しそうな副会長に許してもらえないと、懲罰を食らってしまうのだろう。

今はこの人に縋るしかない。


「副会長さん、暴行されたのは俺の方です。あの小昏って2年、指導とか言って宝具を何回も当ててきました。めっちゃ痛かったんですよ!」


痣のひとつでも見せてやろうと、シャツをめくって身体を確認する。


「……ん?」


全くの無傷だった。痣どころか赤くもなっていない。


(はぁ?クソ痛かったのに!)


副会長が怪訝そうにこちらを見ている。

「どうした?」


紫苑が合点がいったように手を叩く。

「あぁー、宝具ね!アレは傷がつくことはないよん。証拠がなくて残念ね〜」


そういえば、教典にそんな一節があったのを思い出した。

猪狩家の開祖は、神木の大いなる力に慄き、人間同士がその力を利用して争うことを危惧した。

そこで神木は、自らの力を通して人間の身体を傷つけないと約束した。


(それが本当なら、宝具はケガさせずに痛みだけ与える道具ってわけ?そんなのズルだろ!)


紫苑が不思議そうに身体を覗き込んでくる。


「でも物理的なダメージは防げないから、棒切れで叩かれた的な痕は残るはずなんだよね〜。何でどこもキレイなんだろ……あー、小昏は研究志望だっけか!へへっ、殴るのヘタすぎっしょ〜!」


「鳩羽、お前は黙ってろ!小昏曰く、宝具の使用はお前に殴られたことに対する正当防衛だとの話だったが?」


湊は思わず立ち上がる。


「正当防衛じゃない!過剰防衛でしたよ!証明できる傷跡とかはないですけど……それに因縁つけてきたのは向こうが先です!」

「違う、聞きたいのはどちらが先に手を出したのかということだ」

「あいつが美咲に、成海さんの妹に手を出そうとしました」

「すり替えるな。正直に言え!殴ったのはお前が先なんだろう!」

「……だって、アイツ、くそムカついたから」

「ほらー!」


こりゃダメだとでも言いたげに、紫苑が天を仰ぐ。

湊は舌打ちをして座り直した。


「湊陽輝、お前のことは先生方から聞いたぞ。夜間の歓楽街でのアルバイト、授業は初日から欠席続き、やっと出席したと思えば教官への暴言に途中退出、そして同日に学外で上級生への暴行――目に余る素行不良だ!」

「暴言?ああ、婆さんのこと」

「またそうやって!」

「十分丁寧じゃないですか?ほんとはババアって言いたいのに」


吉川は机に突っ伏して頭を掻きむしった。

「きぃーっ!!ダメだ!!こんな奴と話してたら頭がおかしくなる!」


紫苑が隣でニヤついている。

「あーあ、ヒスになっちゃって。これだから不良アレルギーのインテリお坊ちゃんはダメだねぇ」

「うるさい!もういい!」


***


吉川が紫苑に喚いていると、湊の見知った顔が部屋に入ってきた。

「照臣、遅れてすまない。ようやく美咲を預けて来れたよ」


(成海さんだ!会長の成海さんを説得できれば、何とかなるかもしれない!)


「成海さん、俺は美咲を守るためにやむを得ずやっただけなんです!」


吉川がすかさず口を挟む。

「嘘をつくな!さっき小昏にムカついたからと供述しただろう!」


(あっ……クソ、眼鏡野郎が!)


「しょうがないね。当初の予定通りに行こう」

成海は吉川に目配せする。

それを受けて吉川が口を開いた。


「湊陽輝、度重なる素行不良に情状酌量の余地なし!よって生徒会の権限により、学外でのアルバイトを禁ずる!」


「はぁ!?バイト禁止?生徒会ってそんな偉いんですか?めちゃくちゃなこと言わないで下さい!」


湊を宥めるように、成海が声をかける。

「湊くん、生徒への懲罰は生徒会と指導教官が設定するんだ。美咲の世話を頼んだ借りもあるし、指導教官の近衛(このえ)先生には軽い罰でお願いしたんだよ」


「成海、そんなことを言ったのか?」

隣の吉川が不満そうに成海を見る。

不良生徒を甘やかすなとでも言いたいのだろう。


「でも、学内のバイトは安すぎて仕送りに回せません。何で学外のバイトがダメなんですか!」


吉川が苛立ったように机を叩く。

「まだそんなことが言えるのか?夜間の学外アルバイトのせいで学校生活が疎かになったからだろうが。今まで真面目にやらなかった罰と思え!」


湊は思わず声を荒げた。

「あのさぁ、俺は仕送りのためにバイトやってんの!じゃああんたが金を工面してくれるわけ?違うだろ!」


紫苑が近づき、腕を伸ばしてくる。

咄嗟に顔を背けたが、上手く回り込んで眉間を小突かれてしまった。

「あっ……いってぇ!」

「ほらほら、敬語忘れてんよ〜」


成海は困ったように眉を下げる。

「湊くん、これでも十分優しい懲罰なんだよ?お願いだから言うことを聞いてくれないか?」

「嫌です!」

「もう、美咲みたいなこと言わないで……」


兄に対して暴れていた美咲の気持ちが分かった気がする。

弱った顔で懇願されると、こちらが悪者だという構図にされているようで、余計にムカつく。


***


湊と生徒会が揉めていると、指導教官・近衛が一枚の紙を手に現れた。


「どうだ、聞き取りは順調か〜?湊、お前にいい知らせだぞ〜」

「近衛先生!この状況でいいも何もないでしょ!」

「荒れてんなぁ。ほら、見ろ」


近衛は紙を机に置いた。

3年の3人も書面を覗き込む。


「お嬢ちゃんのお守り、正式に任務として認められましたとさ!」


成海が安堵して声を弾ませる。

「良かったー!先生、ありがとうございます!」


近衛は書面の字を指差す。

そこには「継続」の2文字があった。


「湊、ひとつ提案なんだが、今後もお守りの任務を続けて、それをバイト代わりにするってのはどうだ?お嬢ちゃんも湊とはおとなしく手を繋いでたし、湊を気に入ってるんじゃないか?」

「いや、別に――」


別に懐かれてない、と答える前に、成海が会話に参加してくる。

「ええ、そうなんです。さっきも湊くんに会いたいって泣いて暴れてましたから……湊くんが任務を続けてくれるなら、僕は助かります」


紫苑曰く、美咲の中で自分は殺されたことになっているらしい。

だから美咲は今も混乱しているのかもしれない。


「今のバイトは辞めてもらうが、このお守りの任務で金の問題は解決する。どうだ、湊?」


美咲を幼稚園終わりに研究室へ連れて行くだけで給金が貰えるなら、自分にはメリットしかない。


「分かりました、従えばいいんでしょ」

「よろしい!猪狩のお嬢ちゃんをしっかりお世話してやることだな!あぁ、それから授業も真面目に出ろよ〜。この任務、給金は成績に応じて支給されるからな!」

「……はぁ!?」


書面を見ると、給金の金額欄には「受任者の学業成績を鑑みて決定」と書かれている。


「どういうことですか!まさか、最初から俺を授業に行かせるつもりで申請したんですか?」

「あのなぁ、指導教官ってのはそれが仕事なんだぞ〜?まずは今度の中間試験で金額を決める。金が大事なら、自分で頑張ること!いいな?」

「はぁ……めんどくさ」


項垂れる湊とは対照的に、満足そうに笑う近衛であった。

読んで頂きありがとうございます!

初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

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