【15話(1/3)】合同緊急会議・翌日
*** あらすじ ***
神木の加護を受ける街・煌都。
訓練校の新入生・湊 陽輝は、神木と意思疎通できる女児・猪狩美咲の身辺警護を任務として請け負う。
美咲の処遇を決める会議にて、美咲の加護を研究する課長・鹿鳴春花は、美咲を鹿鳴家に引き入れ、他者と隔離する管理体制を唱える。しかし美咲は、幼稚園に行きたいという気持ちを会議の場で表明した。最終的には、室長・鹿鳴雷夏が責任を持つことを宣言し、美咲は通園を継続できることになったのだった。
会議の後、湊は課長に連れられ、神木の御使を務める男・鹿鳴茅秋と対面する。そして茅秋は湊の父親であり、生後間もなく秘密裏に養護施設へ預けたことが明らかにされた。湊は茅秋が父親である事実を受け入れ難く思いながらも、自分の出生について詳しく知りたいという気持ちを滲ませるのだった。
合同緊急会議の翌朝。
推進研究室のオフィスに淀んだ空気が立ちこめる中、研究員の明石は立ち上がった。
「では、朝礼を始めます。本日の予定ですが――」
明石はスケジュールボードを読み上げながら、姉妹の様子を伺う。
室長も課長も、何も置いていない机を見たまま俯いている。
(会議が芳しくなかったのだろうか?この空気で聞けることではないな)
しかし、全く触れないのも却っておかしい。
遠回しに探りを入れることにした。
「最後に、何か伝達事項がある方、いらっしゃいますでしょうか」
……2人は黙ったままだ。
「……では、無しということで。本日もよろしく――」
明石を遮り、課長が言葉を発する。
「まだ。聞くこと、あるでしょう」
「……と、言いますと」
「とぼけないで。時間の無駄」
(ならば自分が振った時に切り出してくれれば良いものを。今日はそういう気分なのだな……)
「……昨日の合同緊急会議にて、幼木とその御使の処遇において決議がありました。自分には参加資格がなかったため、決議事項をお聞かせ願います」
「最初からそう言って。雷夏、述べなさい」
いきなり課長に振られ、室長が戸惑う。
「えっ、あたしが?」
「他にいるの?」
「……分かったわよ」
室長は課長の顔色を伺いながら、話し始める。
「えっと……御使であるあの子の通園、そして湊陽輝があの子に付き添う任務に関しては、継続することが決まりました」
明石はそれを聞いてホッとした。
(美咲嬢、良かったな……しかし、それならば室長は何故、このように浮かない表情なのだろう?)
課長が続けるよう促す。
「肝心なことがまだよ。早く話しなさい」
「っ、はい……それで、通園と任務において、何かあった時の責任は、……あたしが取ります」
課長はそれを聞き、満足げに頷いた。
「明石くん、そういうこと。あなたが資料に余計な追記をしなければ、雷夏はそんな表明をせずに済んだのよ?」
室長の目が、違うと訴えかけてくる。
ここは素直に謝っておいて、後で課長がいない時に話を聞いた方が良さそうだ。
「……勝手な記載をしてしまい、申し訳ありません」
そう言って、深々と礼をする。
課長はしばらく明石を見ていたが、やがて立ち上がった。
「いいわ。直りなさい」
その言葉に顔を上げると、グッと顎を掴まれた。
「明石くん。どうしてここにあなただけを残しているか分かる?」
かつて自分を虐げた、横暴な姉のような威圧感。
明石は掠れた声を絞り出す。
「……いいえ」
じわじわと、迫り来るかのような課長の瞳。
こうしてずっと睨まれていると、口が渇き、息がつまる。
「それはね、あなたの仕事ぶりを評価しているからよ。だから、あまり私を失望させないでね」
課長は明石の肩にポンと手を置いて、オフィスを去って行った。
重たいパンプスの音が遠ざかっていく。
完全に聞こえなくなってから、明石と室長は視線を交わし、嘆息を漏らすのだった。
***
自室に引き上げた課長だったが、昼前になると、またオフィスに姿を現した。大きめのカバンを提げ、書類の束を小脇に抱えている。
「明石くん、私は灯西に行ってくるから」
明石はスケジュールボードに目をやる。
「課長、今からですか?今日は午後から学会の教授方がお見えに」
「今から。午後の資料はここにある」
朝礼でそんなことは言っていなかった。
課長は自分の予定や考えを一切共有してくれない。
「じゃあ、留守を頼むわよ」
課長は抱えていた書類の束をバサバサとデスクに落とし、そのまま去って行った。
「課長、引き継ぎも無しに……」
デスクに散らばった資料を集めるが、嫌がらせとしか思えないくらい順番がバラバラだ。ご丁寧に、学会に提出する要望だけは一枚の用紙に分かりやすくまとめてある。
自分の席から見ていた室長が立ち上がり、資料の並び替えを手伝う。
「明石は行かなくていいわ。午後のミーティングにはあたしが出とく。去年やったのはあたしだから、大丈夫よ」
「そうですか。助かります、室長」
課長の気まぐれは、学会内でも顰蹙を買っている。しかし、神木に深く関わる鹿鳴家の人間を無碍にはできないようだ。
室長が資料を手に執務室へ引き上げた後、明石はひとり、オフィスを見渡す。
(初めてここに来た時はもっと職員がいたのに、課長が尽く異動させてしまった。今となっては使っていないデスクの方が多いな)
明石はあの頃を思い出しながら、幼木の測定データの解析に勤しむのだった。
読んで頂きありがとうございます!
至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!




