【14話(9/9)】心のもや
課長が去った後、湊はひとり本邸を出ていた。
本邸の前には、多くの送迎車が群れをなしている。
その中で、狩野がこちらへ手を振っているのが見えた。
「狩野さん!すいません、遅くなりました」
「いえいえ。坊ちゃんも、今しがた戻って来られたところです」
「成海さんが?どこかへ行ってたんですか?」
狩野は後部座席のドアを開けながら、こっそりと耳打ちする。
「鹿鳴家の議員さんの元へ、ご迷惑をかけたお詫びを……お許しの言葉は頂けなかったようですが、奥さまがとりなして下さったようです」
湊の脳裏に、嫌味ったらしい黒マスクが思い浮かぶ。
(あいつ結婚してたのか?課長といい、あいつといい、意地悪でも結婚できるもんだな……)
湊が乗り込み、車は本邸を出発した。
***
美咲は疲れたのか、成海に寄りかかって眠っていた。
そして成海はじっと車窓を睨んでいる。亡母を侮辱されたことを、まだ根に持っているのだろう。
静かな車内で、湊は鹿鳴茅秋のことを考える。
無精髭に着流し姿の、浮浪者のような男。富裕層の代表格である鹿鳴家とは思えないような風貌に、乱雑な言葉遣い。そして不機嫌で怠そうな目つき。
(あいつが俺の父親?そんなわけ…… !)
自分を見ていたあの男の目。
疎んじるわけでも、喜ぶわけでもなく。
(会えたことを喜んでほしかった?いや、そうじゃないのは自分でも分かる。じゃあ俺は、父親って奴にどんな反応を期待してたんだろうな……)
答えが見つからないまま、湊は車中でまどろむのだった。
***
照東郡に戻った時には、昼を過ぎていた。
成海たちと別れて寮に帰ると、ルームメイトの瑛心が机に向かっていた。
こちらを見るなり、ふにゃりと笑って出迎える。
「湊くん、おかえり〜」
「……ただいま」
もやもやとした思いをぶつけるかのように、湊は上段のベッドに飛び込んだ。
「はぁっ……疲れた……」
瑛心は原石を傍らに置いて何か作業していたようだが、その手を止めてベッドを見上げる。
「湊くん、今日は朝早くからお出かけしてたんだねぇ。僕が起きたらもういなかったから、びっくりしちゃったよぉ。何かあったの〜?」
「うーん……」
瑛心には美咲のことを話せない。
しかし、抱えている思いを誰かに話したかった。
「……実は今日、俺の父親かもって奴に会ってさ。てか、検査的には本当に父親なんだけど……うーん……」
瑛心は心配そうに覗き込んでくる。
「嫌な人だった?酷いこと言われたの?」
「いや、何も。それが逆に拍子抜けっていうか……どうでもいいのに、なんかもやもやするんだよなぁ……」
「ふぅん、そっかぁ。それは確かに考えちゃうねぇ」
瑛心はしばらく原石に目を落としていたが、また湊に話しかけた。
「湊くんは、その人に何か話したの?」
「俺が?いや、何も。話したいこと、別に無いし」
「でも、もやもやしてるってことは、その人を気にしてるんでしょ?本当は、言いたいことや聞きたいことがあるんじゃないの?」
「……うーん」
湊は枕に突っ伏し、呻いた。
自分はなぜ施設に預けられたのか。
母親はどんな人で、今どこにいるのか。
自分と会って、どんな思いを抱いたのか。
どれも、答えを得たところで意味がないものだ。
しかしそれらが渦巻いて、ぽたぽたと心に影を落としていく。
「その人ともうちょっと話してみれば?そしたら、何のもやもやなのか、分かるんじゃないかなぁ」
「……そうかもね」
(って言っても、御使は高貴で特別なんだろ?俺ごときが話す機会なんてもう無いよ)
心の奥に余計な一言をしまい、湊は再び目を閉じるのだった。
読んで頂きありがとうございます!
至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!




