【14話(7/9)】見慣れた瞳
合同会議が終わった後、湊は課長にどこかへ連行されていた。
課長は湊の耳を引っ張ってずいずいと歩く。
「離して下さい!逃げませんから!」
「うるさい。せっかく出会えた駒なんだから、ちょっとは役に立ってもらうわよ」
「こ、コマ……?」
廊下を幾度も曲がった後、課長はようやく湊の耳を離した。
「くっそ、いってぇ〜……」
そして目の前には、議長席にいた男、茅秋が立っていた。
「姉さん、何か用?もう会議は終わったけど?」
「茅秋、残念だったわね。雷夏はあなたの操り人形になれるほど賢くないわよ」
「負け惜しみ?そんなこと言うために来たわけ?」
「いいえ。私は心優しいから、感動の再会をさせてあげようと思って」
(心優しい?底意地悪いの間違いだろ!)
まだヒリヒリと痛む耳たぶを摩っていると、課長は背後から素早く湊の口を覆った。
「んぐっ!?」
「ほら、こうすれば一目瞭然。昔のあなたに似ているとは思わない?ねぇ、茅秋?」
(はぁっ!?似てる?俺とこいつが?)
課長の腕を退けようともがいていると、茅秋と目が合った。
「……ふーん、どうだかなぁ。俺はこんなに目つきが悪かねえよ」
(なんだこいつ……!)
課長はもう片方の手で、茅秋に紙を突きつけた。
「これを見てもそう言えるかしら?正真正銘、本物の遺伝子鑑定よ」
(い、遺伝子鑑定!いつの間に!?)
「ふーん……」
茅秋は顎に手を当て、診断結果を眺める。
特徴的な無精髭が隠れ、湊ははたと気がついた。
(本当だ……目元、俺と同じじゃん)
どこかで見たような気がしていた。
黒髪の間から覗く、無気力な目。
それは他でもない、自分自身だった。
課長が検査に踏み切ったのも頷ける。
この男と自分は、疑いようもなく血が繋がっている。
茅秋はくるりと背を向けた。
「あっそう。だから何?」
「あなた、子どもは連れて行かれたって言ったわよね?でも、この湊陽輝は養護施設にいたのよ?」
「俺は知らねえよ。産んだ女が施設にブチ込んだんじゃねえのか」
「しらばっくれないで。園長が口を割ったわよ」
その言葉に、茅秋が振り返る。
「……あ?」
「あなたが生後間もない赤子を預けに来たって、園長が白状したの。あなたも園長も共犯」
(園長?園長って、先生のことだよな?)
湊は課長の手を振り切った。
「課長さん、待って下さい!こいつが勝手に俺を捨てたんでしょ!?先生は関係ない!」
「いいえ。彼女は鹿鳴直系の、しかも後の御使になるかもしれなかった男児を故意に隠して育てた。その結果、鹿鳴家から御使が誕生する伝統が失われた。これは当家において重大な損害よ。無責任なことをしでかす人間に、施設を経営させるわけにはいかない」
「そんな……!」
茅秋は再び背を向けた。
「俺は何度も言ってんだろ。鹿鳴から御使が出なかったのは幼木の意思。姉さんが枝を折ったせいだ。俺が預けたのとは関係ねえよ」
「ふん、どうかしらね。でも茅秋、あの施設と園長を思うなら、出過ぎた真似はしないこと。いいわね」
茅秋は課長の言葉に返すことなく、そのまま立ち去って行った。
「……課長さん、先生は大丈夫なんですよね?あいつが何もしなきゃ、今まで通りに運営できるんですよね?」
「さあ。それはどうかしら?」
課長は鑑定結果の報告書を懐にしまい、湊の瞳をじっと睨む。
「あなたも茅秋と同じ。『今まで通り』を願うなら、私の機嫌を損ねないように」
そう言い残し、課長は踵を返した。
「これであなたは用済み。もう帰っていいわよ」
課長に何か言い返してやりたい。
しかし、何も思い浮かばない。
去り行く課長の背中を、湊は眺めることしかできなかった。
読んで頂きありがとうございます!
至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!




