【14話(4/9)】成海の激情
神事局と鹿鳴家の合同緊急会議。
美咲が本当に神木と話せると認められた後、いよいよ美咲の今後を決める段階に入った。
進行役の男性が、議員席の方へ目を向ける。
「まずは、鹿鳴家よりご意見を頂戴致します」
議員席から課長が挙手した時、他に立ち上がった者がいた。
「司会さんよぉ、その前に確認しとくことがあるんじゃねえのか?」
進行役の男性は眉を顰めた。
「……冬雪様。発言は挙手をしてからお願い致します」
(出た、冬の名前!まさか最後の四つ子か?)
声のした方を見ると、黒マスクをした男が美咲を指差していた。顔は分かりにくいが、課長たちと同じような年齢に見える。
「猪狩のガキが、どうして鹿鳴に伝わる加護を授かった?そっちの話が先だろうが」
課長が冬雪なる男を横目で睨みつける。発言の機会を奪われてお怒りのようだ。
「冬雪、建設的な話をなさい。手掛かりもない原因を探ることより、今後の扱いを話し合う方が重要でしょう」
「姉さん、俺はちったぁ手掛かりがあると思うぜ?」
「……何が言いたいのかしら」
冬雪は成海を見る。
「俺らみてえな鹿鳴の直系親族には、警護隊から派遣された専属の警護班がつくだろ?本家の警護班に所属してた奴から聞いたんだよ。お前らの母親、猪狩杏奈。よくここに顔を出してたんだってなぁ」
突然話を向けられ、成海は戸惑っているようだった。
「えっ?ああ……母はもともと、鹿鳴本家の専属警護班に所属していた。父と結婚した後も、関わりのあった人とは懇意にしていたと聞いている」
「懇意に、ねぇ……どのレベルで?」
成海が眉を顰める。
「……何が言いたい?」
「だからぁ、お前の母親が、ウチの男と仲良くしすぎちゃったんじゃないの〜って話だよぉ。なぁ?」
そう言った顔は、マスク越しでもニヤついているのが分かる。
成海は勢いよく立ち上がり、冬雪の方へ詰め寄った。
「おい!母の不貞を疑っているのか!?」
冬雪が手を挙げて合図すると、広間の警備にあたっていた集団が、一斉に成海を取り囲む。
「猪狩の坊ちゃんよぉ、ここは鹿鳴の縄張りだぜ?俺が指示すりゃ専属警護班が動くんだよ」
「うるさい!発言を撤回しろ!」
成海の大声に驚いたのか、美咲は幼木をギュッと抱きしめ、湊のもとに寄ってきた。
美咲の頭を撫でると、美咲は湊の腕にぴたりと頭を寄せた。
議長席の茅秋は、欠伸をしながら冬雪を見る。
「あぁ〜あ……クソ弟が暴れようがどうでもいいけどさあ、最初の説明で、おチビに鹿鳴の血は流れてねえって言ってなかったか?それは確かなんだろ、姉さん」
茅秋の言葉に課長は頷く。
「ええ。遺伝子検査をしたから間違いないわ。だから冬雪、さっさとこの茶番を終わらせてくれないかしら」
「フン、そっちの2人で結託するなんて、らしくねえな。じゃあこの異常事態をどう説明するってんだ?ご神木が、そのガキを猪狩じゃなくて鹿鳴の子だって認識するような何かがあったのは確かだろ?なら不倫を疑うのは当然だよなぁ?」
成海が冬雪に叫ぶ。
「黙れ!これ以上母を侮辱するな!」
「侮辱?俺は可能性の話をしてるんだよ。そうじゃなきゃ、赤の他人が寵愛を受ける訳がない」
冬雪は成海を挑発するように嘲る。
「お前が知らねえだけで、母親は不倫相手に乗り換えようとしてたんじゃねえのかぁ〜?お前らガキを捨ててさぁ!……そうだ!愛人の連れ子ってことで、お前らを鹿鳴家で面倒見てやろうか?両親がいないんじゃ、どうせ猪狩家の中でも上手くやれてねえんだろ?なぁ?」
怒りでわななく成海の口元が、フッと笑った。
「……そうか。鹿鳴家は遺産相続で揉めるのがお仕事なんだっけ。だから下品な妄想は得意なんだね」
「あ?何つった?」
湊は成海の目が冷酷に尖っていることに気づいた。
(あの目、美咲にキレた時と同じだ!変なスイッチ入っちゃってる!)
「成海さん、落ち着いて!」
湊は叫んだが、もう遅かった。
成海は周囲の警護班員を掻い潜って、議員席を隔てる柵をひらりと乗り越えた。その勢いで冬雪の胸ぐらを掴んで押し倒す。
会場は騒然となった。
警護班員たちは慌てて成海を引き剥がしにかかる。
「こいつをつまみ出せ!」
成海は班員らに連行されながら叫ぶ。
「撤回しろーっ!母はそんなことしないっ!」
冬雪は立ち上がり、マスクの位置を直す。
「おぉー、怖い怖い。蛮族はすぐ暴力に訴えるなぁ。武力ばかり重視して、脳みそが退化したのかぁ?」
「お前ぇっ!覚えてろ!」
美咲は成海を追いかけようとする。
「おにいちゃぁん!」
「美咲、着いてっちゃダメだよ。後で会えるから」
湊は美咲の肩を抑えて引き留めた。
「おにいちゃぁん!まってぇ!おにいちゃぁーん!」
騒ぎの中で美咲の声は届かず、成海は班員たちに揉まれて広間から閉め出された。
揉める声はだんだん遠ざかり、やがて会場は落ち着きを取り戻した。
湊はしょんぼりとした美咲を膝に抱える。
(マズいな、成海さんがいなくなって俺だけになった……まだ議論は続くはずだ。俺が美咲の立場を守ってあげないと)
課長がゆっくりと立ち上がる。
「冬雪、満足かしら?」
「満足も何もねえよ。とにかく俺は、そのガキが鹿鳴に無関係なわけねえってことと、それなら鹿鳴家で預かった方がいいんじゃねえかって言いてえだけだ」
課長は進行役に目を向けた。
「だそうよ。次は私が発言していいかしら?」
進行役はまだ成海の騒動に動揺しているようだったが、頷いて発言を促した。
「では、鹿鳴家議員、並びに神事局研究開発部研究指導課長、並びに推進研究室主任の鹿鳴春花が発言致します」
そう言って課長は、局員席に向かって一礼した。
「先程は、弟の冬雪が失礼致しました。彼の妄言には呆れるばかりですが、鹿鳴家で御使さまを預かることに関しては意見を同じくします」
湊は耳を疑った。
(……ん?課長、今何て言った?美咲を鹿鳴で預かる?)
湊の混乱をよそに、課長は滔々と自らの弁を述べ始めるのだった。
読んで頂きありがとうございます!
至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!




