【2話(4/4)】俺が普通にしてあげる
神木の加護を受ける街・煌都。
サボりの学生・湊陽輝は、迷子の女児・猪狩美咲と出会う。
成り行きで、湊は美咲のお守りをすることになったのだった。
※小説家になろう・note・Nolaノベルにて同日投稿中
※残酷な描写として、殴る蹴る・鼻血が出る程度です。
重たいガラス扉を開けて、湊と美咲は研究棟の正面玄関で迎えを待っていた。
そういえば、迎えに来るのがどんな人なのか聞いていない。
友人と言うのだから、成海の同級生なのだろう。
訓練生の制服を着た通行人を探しながら、美咲の登園について考える。
(幼稚園のこと、勝手に決めちゃったな。まあ、兄貴は美咲の面倒見てくれる人がいりゃ賛成するだろ。3か月くらい前までは幼稚園に通ってたんだし、家からの送迎はできるよな)
じっと動かない湊を、美咲が不思議そうに見上げる。
「どしたの〜?」
「大丈夫。何でもないよ」
適度に美咲に構ってやりながら、考えを巡らせる。
(美咲の幼稚園が終わる頃に俺が迎えに行って、美咲を研究室に連れて行く……で、南区に出て……夜のバイトに間に合うよな?)
「――君、1年生だよね?」
唐突に話しかけられて、湊は声の主を見やった。
茶髪の男子訓練生だ。
制服のピンバッジを見れば学年が分かる。
(2年生……この人が迎えか?)
湊はペコリと頭を下げた。
「どうも」
男子訓練生はニコリと笑う。
「君、ここで何やってたの?」
「え?」
迎えの人間ならそんな質問はしないはずだ。
「ここは学生がおいそれと入れる場所じゃない。どうして君のようなのが出てきたのかな」
(君のようなのって何だ?バカにしてんだろ。下に見てんならハッキリ言えよ)
何だか嫌な奴だ。こいつには事情を教えたくない。
「別に。先輩こそ、何の用ですか」
「いや、用があるのは君じゃないんだ」
美咲を見下ろし、ニコリと笑う。
「お嬢ちゃん、よくここに出入りしてるよね?何か特別な加護を授かってるのかな?」
美咲の頭を触ろうとするので、湊は咄嗟に美咲の腕を引き、背後に匿った。
「やめて下さい。知り合いじゃないんでしょ」
「僕は2年の小昏。神木研究会の会長だ」
「だから何?美咲に触っていい理由にならないでしょ」
「へぇ、美咲っていうんだ?」
「あっ……」
(しまった!何も情報を与えないようにって思ったのに!)
小昏は呆れたように笑う。
「君、知らないんだろう。ここは鹿鳴家直轄の神木研究施設なんだ。普通の子どもならここには入れない」
後ろから美咲が声を上げる。
「みさき……みさき、ふつうだもんっ」
「はぁーあ、分かってないなぁ。美咲ちゃん、君は普通じゃない。普通なら、こんな施設に用があるわけない」
「いやっ!ふつうだもんっ!」
美咲の目に涙が溜まっていく。
「普通じゃないよ。きっと君には極めて特殊なっ――」
湊は美咲に話しかける小昏の胸ぐらを掴んだ。
「やめろ!何の事情も知らないくせに!美咲が気にするように言わなくていいだろ!」
小昏は臆することなくヘラッと笑う。
「だったら教えてくれるのかい?」
「美咲は普通がいいって言ってんの!だったらそう扱ってやれよ!」
「君の反応で何となく分かるよ。この子は神木に関連した加護を授かってるんだろう?それなら普通にさせてちゃいけない。周りがちゃんと管理してあげて――」
湊は勢いよく小昏の横っ面に拳を振るった。
「ぐぁっ!」
「うるせぇ!どいつもこいつも管理管理って!」
もう一発殴ろうとすると、何かを腕に打ち付けられた。
「うぐっ……」
湊は腕を抑えてしゃがみ込んだ。
痺れるように痛い。
脂汗がじわじわと出てくるのを感じる。
小昏の手には翡翠色のナイフが握られているが、腕からは出血していない。
「正当防衛と、生意気な1年への指導。宝具の使用には十分な理由だろう」
(あれが宝具……実物は初めて見た)
樹木が果実を落とすように、神木は結晶を実らせる。
煌都の民は、結晶を磨いて宝飾や宝具に加工してきた。
宝具は武器ではない。
刀剣の形をしていても、刃は付いていない。
あくまでも平和的に争いを鎮めるための手段とされている。
結晶がそもそも貴重であるため、一般人はおろか、訓練生ですらも宝具を携帯する資格などないはずだ。
(いってぇー……こんなんで宝具が平和的解決手段とか言ってるわけ?てか2年ごときが何で宝具持ってんの?)
混乱した頭には色々な疑問が浮かぶが、小昏は待ってくれるはずもない。
「おらっ!おらっ!これが神木さまの御力だっ!」
身体のあちこちに宝具を当てられ、全身が痛い。
湊は痛みに耐えながら、小昏の動きを窺っていた。
小昏はずっとへっぴり腰で、少し近づいては宝具で小突き、また離れる。
単調な距離の取り方だ。
(宝具は痛いけど、こいつ、喧嘩慣れしてないな。これなら勝てる)
湊は近寄ってきたタイミングで小昏の頭を素早く抱え込んだ。
上背を使って押さえ込む。
「うわぁっ!離せっ!」
小昏は宝具のナイフを振り回し、湊の脚に当てる。
「うっ……」
当たった部分に衝撃と痛みを覚えるが、実際に傷がつかないなら恐れることはない。
痛くない側の脚に勢いをつける。
「このっ!」
全ての怒りをぶつけるように、鼻っ面に膝を叩き込んだ。
顔面に膝蹴りが直撃し、地面にボタボタと鼻血が落ちる。
「げえぇっ!うぅっ、うえっ」
小昏はよろけ、半泣きで咽せる。
「二度と美咲に近寄るな!失せろ!」
美咲は遠くでうずくまってグスグス泣いている。
乱暴な場面を見せてしまったので無理もない。
「美咲!」
小さな身体がびくりと跳ね上がる。
「こいつの言ったことは忘れろ!美咲は普通だ!俺が普通にしてやる!俺が絶対普通にっ……」
その時、背後に何者かの気配を感じた。
「はいはい、やりすぎ〜」
「あっ!……さんっ!」
美咲が何かを見上げて叫ぶが、よく聞き取れなかった。
首にトンっと衝撃が加わり、目の前が真っ暗になる。
足元がふらついて、倒れ込んでしまった。
「うあぁん、みなとさぁん!みなとさぁんっ……」
美咲の泣き叫ぶ声が彼方へ遠のいていく。
(美咲、いっつも泣いてるな。幼稚園に行ったら、ちょっとは笑顔になれるかな――)
湊はがくりと意識を失った。
読んで頂きありがとうございます!
初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!