表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/58

【2話(4/4)】俺が普通にしてあげる

神木の加護を受ける街・煌都(こうと)


サボりの学生・(みなと)陽輝(はるき)は、迷子の女児・猪狩(いかり)美咲(みさき)と出会う。


成り行きで、湊は美咲のお守りをすることになったのだった。


※小説家になろう・note・Nolaノベルにて同日投稿中

※残酷な描写として、殴る蹴る・鼻血が出る程度です。

重たいガラス扉を開けて、湊と美咲は研究棟の正面玄関で迎えを待っていた。


そういえば、迎えに来るのがどんな人なのか聞いていない。

友人と言うのだから、成海の同級生なのだろう。


訓練生の制服を着た通行人を探しながら、美咲の登園について考える。


(幼稚園のこと、勝手に決めちゃったな。まあ、兄貴は美咲の面倒見てくれる人がいりゃ賛成するだろ。3か月くらい前までは幼稚園に通ってたんだし、家からの送迎はできるよな)


じっと動かない湊を、美咲が不思議そうに見上げる。

「どしたの〜?」

「大丈夫。何でもないよ」


適度に美咲に構ってやりながら、考えを巡らせる。


(美咲の幼稚園が終わる頃に俺が迎えに行って、美咲を研究室に連れて行く……で、南区に出て……夜のバイトに間に合うよな?)


「――君、1年生だよね?」

唐突に話しかけられて、湊は声の主を見やった。

茶髪の男子訓練生だ。


制服のピンバッジを見れば学年が分かる。

(2年生……この人が迎えか?)

湊はペコリと頭を下げた。

「どうも」


男子訓練生はニコリと笑う。

「君、ここで何やってたの?」

「え?」

迎えの人間ならそんな質問はしないはずだ。


「ここは学生がおいそれと入れる場所じゃない。どうして君のようなのが出てきたのかな」


(君のようなのって何だ?バカにしてんだろ。下に見てんならハッキリ言えよ)


何だか嫌な奴だ。こいつには事情を教えたくない。


「別に。先輩こそ、何の用ですか」

「いや、用があるのは君じゃないんだ」


美咲を見下ろし、ニコリと笑う。

「お嬢ちゃん、よくここに出入りしてるよね?何か特別な加護を授かってるのかな?」


美咲の頭を触ろうとするので、湊は咄嗟に美咲の腕を引き、背後に匿った。


「やめて下さい。知り合いじゃないんでしょ」

「僕は2年の小昏(こぐれ)。神木研究会の会長だ」

「だから何?美咲に触っていい理由にならないでしょ」

「へぇ、美咲っていうんだ?」

「あっ……」


(しまった!何も情報を与えないようにって思ったのに!)


小昏は呆れたように笑う。

「君、知らないんだろう。ここは鹿鳴家直轄の神木研究施設なんだ。普通の子どもならここには入れない」


後ろから美咲が声を上げる。

「みさき……みさき、ふつうだもんっ」

「はぁーあ、分かってないなぁ。美咲ちゃん、君は普通じゃない。普通なら、こんな施設に用があるわけない」

「いやっ!ふつうだもんっ!」


美咲の目に涙が溜まっていく。

「普通じゃないよ。きっと君には極めて特殊なっ――」

湊は美咲に話しかける小昏の胸ぐらを掴んだ。

「やめろ!何の事情も知らないくせに!美咲が気にするように言わなくていいだろ!」


小昏は臆することなくヘラッと笑う。

「だったら教えてくれるのかい?」

「美咲は普通がいいって言ってんの!だったらそう扱ってやれよ!」

「君の反応で何となく分かるよ。この子は神木に関連した加護を授かってるんだろう?それなら普通にさせてちゃいけない。周りがちゃんと管理してあげて――」


湊は勢いよく小昏の横っ面に拳を振るった。

「ぐぁっ!」

「うるせぇ!どいつもこいつも管理管理って!」


もう一発殴ろうとすると、何かを腕に打ち付けられた。

「うぐっ……」


湊は腕を抑えてしゃがみ込んだ。

痺れるように痛い。

脂汗がじわじわと出てくるのを感じる。


小昏の手には翡翠色のナイフが握られているが、腕からは出血していない。


「正当防衛と、生意気な1年への指導。宝具の使用には十分な理由だろう」


(あれが宝具……実物は初めて見た)


樹木が果実を落とすように、神木は結晶を実らせる。

煌都の民は、結晶を磨いて宝飾や宝具に加工してきた。


宝具は武器ではない。

刀剣の形をしていても、刃は付いていない。

あくまでも平和的に争いを鎮めるための手段とされている。

結晶がそもそも貴重であるため、一般人はおろか、訓練生ですらも宝具を携帯する資格などないはずだ。


(いってぇー……こんなんで宝具が平和的解決手段とか言ってるわけ?てか2年ごときが何で宝具持ってんの?)


混乱した頭には色々な疑問が浮かぶが、小昏は待ってくれるはずもない。


「おらっ!おらっ!これが神木さまの御力だっ!」


身体のあちこちに宝具を当てられ、全身が痛い。

湊は痛みに耐えながら、小昏の動きを窺っていた。

小昏はずっとへっぴり腰で、少し近づいては宝具で小突き、また離れる。

単調な距離の取り方だ。


(宝具は痛いけど、こいつ、喧嘩慣れしてないな。これなら勝てる)


湊は近寄ってきたタイミングで小昏の頭を素早く抱え込んだ。

上背を使って押さえ込む。


「うわぁっ!離せっ!」


小昏は宝具のナイフを振り回し、湊の脚に当てる。


「うっ……」


当たった部分に衝撃と痛みを覚えるが、実際に傷がつかないなら恐れることはない。

痛くない側の脚に勢いをつける。


「このっ!」


全ての怒りをぶつけるように、鼻っ面に膝を叩き込んだ。

顔面に膝蹴りが直撃し、地面にボタボタと鼻血が落ちる。


「げえぇっ!うぅっ、うえっ」

小昏はよろけ、半泣きで咽せる。


「二度と美咲に近寄るな!失せろ!」


美咲は遠くでうずくまってグスグス泣いている。

乱暴な場面を見せてしまったので無理もない。


「美咲!」

小さな身体がびくりと跳ね上がる。


「こいつの言ったことは忘れろ!美咲は普通だ!俺が普通にしてやる!俺が絶対普通にっ……」


その時、背後に何者かの気配を感じた。

「はいはい、やりすぎ〜」


「あっ!……さんっ!」

美咲が何かを見上げて叫ぶが、よく聞き取れなかった。


首にトンっと衝撃が加わり、目の前が真っ暗になる。

足元がふらついて、倒れ込んでしまった。


「うあぁん、みなとさぁん!みなとさぁんっ……」


美咲の泣き叫ぶ声が彼方へ遠のいていく。


(美咲、いっつも泣いてるな。幼稚園に行ったら、ちょっとは笑顔になれるかな――)


湊はがくりと意識を失った。

読んで頂きありがとうございます!

初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ