【13話(2/3)】薄暮の影
神木の加護を受ける街・煌都。
訓練校の新入生・湊 陽輝は、神木と意思疎通できる女児・猪狩美咲の身辺警護を任務として請け負っている。
幼稚園が終わった美咲を研究室に連れて行き、美咲と神木の測定を手伝っているのだった。
そしてある日、美咲の思いに神木の苗木が応え、目に見える形で意思疎通が証明された。神木の託宣を受け取る、幼い御使の処遇を決めるための緊急会議が迫っていた。
オフィスには室長と課長はおらず、明石だけがパソコンに向かっていた。
「湊くん、幼木を返しに来てくれたのか?ありがとう」
「明石さん、実はさっき――」
湊は、明石に美咲の変化を報告した。
「なんと、美咲嬢にそんなことが……!」
「明石さん、やっぱり神木の力なんですか?」
明石は考え込むように、顎に手を当てた。
「――そうだろうな。当代の御使殿の加護については、特別管理室の報告を読んだ覚えがある。火花に関する記述はないが、身体能力の向上はあったはずだ。御使殿が神木に祈りを捧げることで、御力を賜ることができるとか」
湊は美咲の言動を振り返る。
(美咲が桜になってほしいってお願いしたから、幼木はピンクになった。多分、さっきは俺から逃げるのを手伝ってほしいって願ったんだろうな。それで幼木は美咲に力を貸したんだ)
明石は困ったように天を仰ぐ。
「しかし、御使殿が神木と交流を始めたのは、確か学生の頃。まだ分別のつかない幼子が何を祈るか未知数だから、怖いものがあるな」
「一応、簡単に使うなって話はしました。分かってくれてるといいんですけど」
「そうだな。では、この件も今度の会議の資料に――」
そこまで言うと、明石はハッと口を押さえた。
「あっ!もう提出したのか!」
そのまま机に勢いよく突っ伏した。
「あぁーっ!課長にこの件を連絡して、上への提出を取り下げて頂いて、大幅な修正を……!おぉ、課長に何と言われるか……!」
「大丈夫ですか、明石さん?俺が課長さんに言っときましょうか?」
「いや、それはいい。あぁ、また徹夜か……」
「じゃあ、夜食でも買ってきましょうか?」
湊が申し出ると、明石は財布を取り出した。
「じゃあ、頼めるか?腹持ちがいいものと、コーヒーのブラックを何本か」
「あんまコーヒー飲み過ぎない方がいいんじゃないですか?まあ買ってきますけど」
(研究員って大変だなぁ。俺は大量に金積まれないとやりたくないかも)
研究室を出た時、湊は誰かの視線を感じたような気がした。キョロキョロと辺りを見渡すが、誰もいない。
(気のせいか。逃亡犯のヤバい男に襲われたばっかだし、過敏になってんのかな……)
湊は気を取り直し、買い出しに行くのだった。
***
薄暗くなった道を、小昏はトボトボと歩いていた。
三閥がひとつ、鹿鳴家の直轄研究室。
それに興味を持ち、小昏はしばしば研究室に足を運んでいた。もちろん学生の自分に情報を漏らす職員などいない。だが、こういうのは足繁く通い、誠意を見せることが必要なのだ。鹿鳴家もいつか自分の情熱を分かってくれるだろう。
(さっき玄関前にいた黒い車、絶対に三閥の専用車だった!走って追いかけたけど、ダメだった……)
小昏は歩きながら、中に乗っていた人物を想像する。
(お迎えが来るような、鹿鳴家の人……まさか、御使さま!?いや、そんなわけないか)
ダメ元でもう一度、研究室の様子を見てみよう。
そう思いながら、小昏は研究室への道を歩いていた。
(もしかしたら、送った後の運転手さんに会えるかもしれない。はぁ、鹿鳴家にお近づきになれるチャンスだったのになぁ……もうちょっと着くのが早ければ……)
研究室が見えてきた。ちょうど、古びた建物から誰かが出てくるところだった。
「あれは……湊陽輝!どうしてだ!?」
因縁の後輩の姿に、小昏は目を疑った。
事情を尋ねたいが、彼が自分を疎んでいることは分かっている。下手に出ていかない方がいいだろう。
小昏は遠巻きに湊の姿を追った。
(前は雑用だと言っていたな。雑務係として出入りを許可されているのか?)
湊は最寄りの売店に入った。
数分後、レジ袋を提げて、再び研究室へ戻る。
(やはり、職員さんへの買い出しか?どうして、あんな不良生徒が!)
しばらく隠れて待っていると、湊が研究室から出てきた。今度は学生寮のある方へ向かっている。
今日の係は、これで終わりらしい。
(僕の方が鹿鳴家を尊敬していて、神木さまと御使さまへの信仰も深いというのに!納得いかない!)
小昏は遠ざかっていく湊の背を睨みながら、その場を後にしたのだった。
読んで頂きありがとうございます!
初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!




