表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/58

【13話(1/3)】新たな力

神木の加護を受ける街・煌都(こうと)

訓練校の新入生・(みなと) 陽輝(はるき)は、神木と意思疎通できる女児・猪狩(いかり)美咲(みさき)の身辺警護を任務として請け負っている。

幼稚園が終わった美咲を研究室に連れて行き、美咲と神木の測定を手伝っているのだった。

そしてある日、美咲の思いに神木の苗木が応え、目に見える形で意思疎通が証明された。神木の託宣を受け取る、幼い御使(みつかい)の処遇を決めるための緊急会議が迫っていた。

ある日の放課後。研究室の部屋にて、湊は美咲を見守りながら、授業の課題に取り組んでいた。


「ねぇ、さくらちゃん、これねぇ、すべりだいね。そいで、ぶらんこ……」


美咲は幼木の鉢を膝に抱え、色鉛筆で幼稚園の遊具を描いている。


(また話してる。一応メモっとくか)


湊は傍に置いていた美咲の記録ノートを手に取り、簡単に会話内容を記す。


(美咲、前よりめちゃくちゃ喋るようになってるよな。幼稚園で他の子どもと話すようになったからとか、関係あるのかな。それとも、そんなにあいつがかわいいのかな……色が変わっただけなのに)


桜の色が移ってほしい。

そんな美咲の願いに応え、翡翠色だった幼木は、桃色へと姿を変えた。本来の桜色よりもピンクが濃いが、美咲の桜へのイメージが反映されているようだ。


美咲は桃色の姿にいたく喜び、以前よりも幼木と共に行動するようになった。

研究室の外へは持ち出せないが、幼稚園を終えて家族の迎えを待つ数時間、美咲は絶えず幼木を撫で、しきりに話しかけるのだった。


「あとはねぇ、ここにさくらちゃんかこうねぇ!……あぁーっ、みなとさぁん!ぴんくない!」

「はいはい、待ってて。出すから」


美咲はよく幼木の絵を描いている。ピンクの色鉛筆ばかり消費するので、ピンクだけを数本買っておいたのだった。


***


美咲が夢中で絵を描いている中、湊の通信機に通知が入ってきた。


(今日の迎えは狩野(かのう)さんか。いつもより早いな。本家の仕事、もう終われたんだ)


美咲を迎えに来る前に、兄の成海(なるみ)か、侍従の狩野が連絡を入れてくる。

なぜ美咲がいる部屋まで迎えに来ないのか聞いたことがあったが、どうやら課長が猪狩家の人間を建物に入れたくないらしい。

三閥(さんばつ)と呼ばれる3つの名家は不仲であり、互いの領分には干渉しないことになっている。これは煌都の常識だったが、まさか建物に立ち入ることまで憚られるとは知らなかった。


(家が不仲だって言っても、美咲はここに来なきゃいけないんだから、ちょっとは融通きかせたらいいのに……)


湊は立ち上がり、美咲に片付けを促す。

「美咲、あと5分くらいでお迎え来るって。支度しな」

「んー……」

美咲は色鉛筆を握ったまま、顔を上げない。


「美咲、聞こえてるでしょ?お片付けして」

「んー、もうちょっと!」

「ダメだよ、明日続きを描けばいいんだから」


湊がスケッチブックを閉じようと手を伸ばすと、美咲はスケッチブックに覆い被さる。

「んーん!もうちょっと〜!」

「悪い子しないの。終わりったら終わり!」

「むぅーっ!やだぁ!」


子どもなのだから、機嫌が良い時も悪い時もある。今日の美咲は言うことを聞かないようだった。


(測定の時も、絵を描いてる時も、そんな不機嫌じゃなかったのに……狩野さんがせっかく早く来れるんだから、待たせちゃいけない)


「美咲、早く片付けな!」

語気を強めると、美咲の目がキッと吊り上がった。

「いやっ!やだーっ!」


湊は美咲の手からピンクの色鉛筆を取り上げようとした。しかし、小さな指が力を込めて抵抗する。


「ほら、収めるの!」

「いやっ!まだやるのぉーっ!」


湊は美咲の拳を無理矢理こじ開け、色鉛筆を奪い取った。


「かしてぇ!まだやるのぉ!」

「貸さない!やらない!帰るの!」

「いやぁ!かえらない!ここにいるーっ!」

「あー、もういい!そんなん言う子は引きずってく!」


湊は美咲のリュックサックとポシェットを肩にかけ、幼木とスケッチブックを抱えた美咲の腕を引っ張った。

美咲は足をバタつかせるが、お尻はズルズルとカーペットを滑り、すぐに部屋の外まで引きずり出すことができた。


「はい、それ返して!明石さんに持ってくから!」

美咲の腕から幼木の鉢をもぎ取ろうとすると、美咲は大声で抵抗した。


「やだぁー!さくらちゃんといるのぉ!さくらちゃ〜ん!」


その瞬間、湊の両手に桃色の火花がバチッと爆ぜた。


「っ!?」


幼木には触れていないはずだ。しかし、直に触れた時と同じ、強い静電気のような衝撃だった。

手のひらを確認したが、傷や焼け跡などは無い。


「ん!てつだって!」


美咲は立ち上がり、幼木とスケッチブックをしっかりと抱え直した。


「美咲!何言ったの!それ渡しな!」

「いやっ!」


美咲は身体をぶんぶん捻って湊の手を跳ね除けた。美咲の肩が手に当たった瞬間、再びバチッと衝撃が走った。


「っ!」


(いってぇ!やっぱり幼木には当たってない!美咲に触るだけでバチバチなってる!何でだよ!?)


思わず手を引っ込めると、美咲はその隙に走り出した。


「あっ、美咲!」


美咲はふわりふわりと廊下を飛び歩き、階段へ消えていった。まるで重力を感じさせない動きに、湊は目を疑った。


(何だ、今の!?この長い廊下を2歩で行かなかったか?)


美咲の後を追い、階段を駆け降りる。


(オフィスまで言いに行く時間はない。あの飛ぶような走り方で逃げられたらマジで追いつけない!出て行く前に捕まえないと!)


階段から出入り口を確認すると、美咲はまだ扉の前に立っていた。足元に幼木の鉢とスケッチブックを置き、両手で懸命にガラス扉を押している。


「んーっ、あかないよぅ!」


(そっか!美咲はここ、重くて開けられないんだっけ。良かった……)


「美咲!止まりな!」


湊が階段から降りてくるのを見て、美咲は慌てて鉢を抱き上げる。


「さくらちゃん!あけてぇーっ!」


美咲は片腕に鉢を抱え、扉を押す。すると、片手を軽くついただけで、重たいガラス扉がいとも簡単に開いた。


(マジかよ!?)


美咲は鉢とスケッチブックを両方持って行こうとして、開いた扉の間でもたついている。


(ヤバい!外に逃げたら追いつけない!美咲を足止めできることを言わないと!)


湊は咄嗟に叫んだ。


「あーあ!普通じゃないなぁー!」


扉の隙間から出ようとしていた美咲は、ピタリと足を止めた。


「美咲、普通になりたいって言ってたのになぁ!普通の子はそんなことしないのになぁ!もう普通はいいのかぁ!」


美咲は顔をムッとさせ、こちらを向いた。

ひとまず足止めは成功だ。

しかし、無策で美咲を捕まえようとしても、きっとまた火花が散るだろう。あれが邪魔をする限り、美咲の身体には触れられない。何とかして、あの火花が出ないようにしないと。


美咲はこちらに向かって叫ぶ。

「みさき、ふつうだもんっ!みなとさん、みさきがふつうっていった!」

「そうだね。でも、自分で考えてみな。今の美咲はほんとに普通だって思う?」


美咲に声をかけながら、ゆっくり歩み寄る。


「普通の子は、木にお願いして悪いことしないよ?」

「んっ……むぅ……」


美咲はむくれた顔で俯く。

自分が悪いことをしている自覚はあるらしい。


「美咲、普通になりたいんでしょ?だったら、手伝ってもらっちゃダメだよ。美咲の友達はそんなことしないでしょ?」

「さくらちゃんも、おともだちだもん……」

「別に友達でもいいよ。でも、幼稚園の友達は、幼稚園で美咲と同じ力を使ってんの?」


美咲はか細く唸って首を横に振る。

湊は美咲の前にゆっくりと跪いて、視線を合わせる。


「でしょ?幼稚園のみんなと同じようにできなきゃ、幼稚園には行けないよ」


湊は美咲の肩にそっと触れた。

火花は散らず、柔らかい感触とあたたかい体温が伝わってきた。


「そいつと遊んだり、話したりするのは、ここでだけ。それで、遊んだ内容とか話した内容、教えて。分かった?」

「……ん」

「あと、ずっとはダメだよ。お家でみんなが待ってるんだから。お片付けって言ったら、お片付けね。それも幼稚園でやってるでしょ?」

「……んんっ」

美咲は俯いたまま唸る。


「分かったら、そいつとバイバイしな」

「……そいつじゃない。さくらちゃん」

「はいはい、さくらね。バイバイしたら、俺が返しに行くから」


湊が手を差し出すと、美咲は幼木と会話をする。


「ん……さくらちゃん、ばいばい……ううん……うん、またね」


美咲は幼木に別れを告げ、湊に鉢を渡した。

気がつくと、扉の向こうで狩野が心配そうにこちらを見ている。


「お嬢様に何かございましたか?」

「いつもより帰りたがらなかったってだけです。でも、御使(みつかい)の力が前より強くなってるみたいで」


湊は狩野に、美咲の身体からも火花が散ったこと、ふわりと飛び歩いたこと、重たい扉を軽々と開けたことを話した。


「左様ですか。家ではそのようなことはありませんでしたが、やはり神木さまの御力なのでしょうか……職員の方は何と?」

「今起こったことなので、まだ言えてないです。後で言っときます」

「ええ、よろしくお願い申し上げます。私の方からも、お嬢様に変わったことがあればお伝えします」


そう言った後、狩野は視線を彼方に向けた。


「陽輝さま、何やら余所者の気配が致します。神木さまの御子が人目に触れぬよう、速やかにお持ち下さい」

「そうですね。じゃあ俺はこれで」


美咲から幼木とスケッチブックを回収し、湊は3階のオフィスに向かった。

読んで頂きありがとうございます!

初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ