【12話(4/5)】さいしょのおもいで
神木の加護を受ける街・煌都。
訓練校の新入生・湊 陽輝は、神木と意思疎通できる女児・猪狩美咲の身辺警護を任務として請け負っている。
幼稚園が終わった美咲を研究室に連れて行き、美咲と神木の測定を手伝っているのだった。
そんな美咲には、歳の離れた兄・成海がいる。成海はいつか叔父に奪われた生家を取り戻すことを夢見ながら、今は兄妹仲睦まじく、小さなアパートに身を寄せているのだった。
成海が啓三に会っていた頃。
美咲は幼木の白い光により、夢へと導かれていた。
***
美咲は砂浜で目を覚ました。
(さくらちゃん?さくらちゃん、どこ!?)
辺りを見回しても、白い砂浜と青い海が広がっているだけだ。
美咲は誰もいない砂浜を彷徨う。当て所なく歩いていると、見覚えのある後ろ姿に気づいた。
黒髪の、背が高い男の人。
(あっ!みなとさん!みなとさんもここにいるんだ!)
美咲は後ろ姿に向かって駆け寄った。
「みなとさぁーん!」
しかし振り向いたのは、無精髭の生えた知らない男だった。
「ん?おチビ、お前まさか……」
「あっ……!?」
美咲は飛び上がって元来た道を逃げ帰る。
「うあぁん、だれぇ!やだーっ!」
髭の男は、美咲をひょいと捕まえる。
「ここじゃ走っても意味ねえぞ。ほら、観念しろ」
美咲はその手を振り払おうと一生懸命に暴れる。
「やだっ!おじちゃんいやっ!」
「そんな傷つくこと言うなよなぁ。知ってるか?ここには俺とお前しか来れねえんだぜ。仲良くしようじゃん」
男は美咲を確保したまま歩きだす。
「ほら、お前のお友達のところに連れてってやる」
***
髭の男は、不思議な格好をしていた。
昔話の絵本で見るような、古い着物を着ている。
しばらく歩いていると、遠くから桃色の影が駆けてきた。
「美咲〜!探したのよー!」
「あっ!さくらちゃぁん!」
髭の男は美咲の手を離す。
「やっぱり、おチビはお前の御使か」
「おチビじゃない!美咲っていうのよ!」
さくらはすかさず訂正する。
「さくらちゃん、このおじちゃん、おともだち?」
「この個体はねぇ、ママのお友達!そっちでは、みつかいさま?って言うんだって!」
「えぇっ!?おじちゃん、みつかいさまなのぉ!?」
美咲が驚くと、髭の男は得意げにニヤつく。
「ふふーん、驚いたか?俺こそが神木の御使さまだよ。それでお前は、そのおチビの御使さんだろ?」
さくらがまた訂正する。
「おチビじゃない!さくらちゃん!」
「はいはい。俺はあの人のところへ行くから、おチビ共は好きに遊んでな」
そう言って、髭の男はどこかへ消えてしまった。
さくらは心配そうに美咲を抱きしめる。
「美咲、大丈夫?また嫌な思いしたんだよねっ?」
美咲は、成海に蹴られて泣いていたことを思い出した。
(あっ、そうだった!おにいちゃん……)
「さくら、人間って嫌い!いっつも美咲をいじめるんだもん!さくらのことだって!」
さくらは美咲の手を引く。
「美咲、人間なんて気にしなくていいのよ!ずっとさくらといればいいもん!美咲、さくらと遊ぼ!」
美咲は首を振った。
「うぅん、いま、いい……」
「えぇーっ、何で!?」
さくらは困って、美咲の手を引いたまま歩き出す。
「どうしよう!美咲、遊ばないの〜?さくらは美咲を導いてあげなきゃいけないのに……」
しばらく2人で砂浜を歩いていると、木陰に白衣の男が腰掛けているのが見えた。その隣には、髭の男も佇んでいる。
美咲はさくらと手を繋いだまま、白衣の男の隣にちょこんと座った。
「……小娘、寄るでない。我の如き老体と関わる暇があるならば、それと交流し、権能を強靭なるものとせよ」
美咲は困ったように首を傾げ、白衣の男に顔を近づけた。
「ん〜?なに〜?」
「……もう良い。好きにせよ」
白衣の男はそう言って目を閉じた。
髭の男は、さくらと美咲の前に立つ。
「どうした?いっつも遊んでんじゃねえのか?」
さくらは手を繋いだまま、美咲の隣にぴたりと座った。
「美咲が今日は遊ばないって。どうすれば導いてあげられるのかなぁ?さくら、美咲を導いてあげなきゃいけないのに〜!」
髭の男は、美咲の額をチョンチョンと小突く。
「んぅ、おじちゃんやめてぇ」
「おチビ、今日はご機嫌ななめか?何があった?」
美咲の代わりにさくらが答える。
「おチビじゃなくて美咲よ!美咲、いじめられたの!おにいちゃんっていう個体に!」
「ははぁ、そりゃ兄妹喧嘩だな。いじめじゃねえよ」
髭の男は、美咲の前にしゃがんだ。
「どんな喧嘩だ?ぶん殴られたのか?」
「……おにいちゃん、おとうさんとおかあさん、しらないでしょって、おこった」
「何だ、ただの言い合いかよ。平和でいいじゃねえか」
髭の男は立ち上がる。
「俺らの喧嘩はガチでエグかったぜ?だーれも止めちゃくれねえし、前歯が折れちまった奴もいたなぁ」
髭の男は白衣の男に会釈し、美咲に手を振る。
「じゃあな。おチビ、あんま長いこと腐るんじゃねえぞ。ここで切り替えてから帰れよ」
さくらはムッとした顔で髭の男が去るのを見送った。
「むぅ、あの個体も嫌い!おチビ、おチビって!美咲は美咲で、さくらはさくらちゃんなのに!」
白衣の男は薄目を開け、さくらを睨んだ。
「なぁに?いいでしょっ!嫌いなものは嫌いなの!」
さくらは白衣の男にそう言ってから、美咲と手を繋いだまま立ち上がった。
「美咲、邪魔な個体は去ったよ!遊ぶんじゃなくっても、何かしたいことある?さくらが導いてあげる!」
美咲はしばらく考えて、ぽつりと言った。
「……おとうさんと、おかあさん、みして」
美咲には、本当にお父さんとお母さんと過ごした記憶があった。でも、それはぼんやりと白い光に包まれていて、思い出そうとすると、どんな風景だったか、どんな顔だったか、全く思い出せないのだ。
美咲がお父さんとお母さんの顔を思い出せば、お兄ちゃんだって怒らないだろう。
さくらは美咲の手を離し、うろうろと忙しなく歩き回った。
「おとうさん、おかあさん……うーん……ここにはそんな個体、いないみたい」
「えぇっ?さくらちゃん、みしてよぉ!」
「ごめんね、さくらは美咲の記憶を参照することしかできないの……そうだ!」
さくらは手を組み、ギュッと目をつむった。
「美咲の最初の記憶、見てみる?おとうさんとおかあさんに関係してるかなぁ……」
すると、美咲の頭上に桜の花弁が現れた。桜はひらひらと宙を舞い、美咲の足元に落ちていく。
白衣の男は目を開け、その様子を見ていた。
「これが、小娘の原初の記憶とな」
美咲はしばらく桜が散るのを見ていた。
白い記憶の中に、桜が舞う。
美咲は突然、思い出の中身に気づいた。
「そっかぁ!みさき、さくらみてたんだ!」
さくらが嬉しそうに声を上げる。
「美咲、何か分かった!?」
「うん!これねぇ、さくら!みさきと、おとうさんと、おかあさんと、おにいちゃんのおもいで!」
どうして今まで気づかなかったのだろう。
春の白い光の中、美咲は舞い散る桜を見ていたのだ。
それが初めての、そして唯一の家族の思い出だったのだ。
家族のみんなのことを思い出していたら、何だかお兄ちゃんが恋しくなってきた。
美咲は立ち上がる。
「さくらちゃん!みさき、かえる!」
「えっ?もう帰っちゃうの?」
「おにいちゃんに、さくらっていう!」
「まだ遊んでないのに〜!じゃあ、次は遊んでね!」
***
目が覚めて起き上がると、男の人がこちらを見てきた。
「起きた?」
「あっ!おじちゃん!」
「えっ!?おじちゃん!?」
目を擦ってから、男の人をよく見る。
髭は生えていない。
いつも通りの湊さんだ。
「ううん、ちがった!みなとさん、おにいちゃんどこ?」
「お兄ちゃん、まだ帰ってきてないよ」
「えぇー、まだぁ?」
湊は窓ガラスに近づいた。
「おじちゃん……?もうそんな老けて見えたのか?違うよな……おじちゃん……?」
反射する自分の顔を、訝しげに確認するのだった。
読んで頂きありがとうございます!
初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!




