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【12話(2/5)】兄妹喧嘩

神木の加護を受ける街・煌都(こうと)

訓練校の新入生・(みなと) 陽輝(はるき)は、神木と意思疎通できる女児・猪狩(いかり)美咲(みさき)の身辺警護を任務として請け負っている。

幼稚園が終わった美咲を研究室に連れて行き、美咲と神木の測定を手伝っているのだった。

そんな美咲には、歳の離れた兄・成海(なるみ)がいる。成海はいつか叔父に奪われた生家を取り戻すことを夢見ながら、今は兄妹仲睦まじく、小さなアパートに身を寄せているのだった。

とある休日。

湊は研究室にて美咲の迎えを待っていた。研究員の明石(あかし)は実家に急用ができたので、湊が美咲の測定を代わったのだった。


(急用って何だろ?実家ってことは、弟の耀二郎(ようじろう)も一緒に帰ったのかな。誰かの葬式とか?)


ぼんやりと明石家の事情を考えていると、通信機に連絡が入った。


「今日は成海さんか。美咲、お兄ちゃん来たって」


美咲を連れて、湊は階段を降りる。


ガラス扉の向こうでは、成海が通信機に向かって話していた。

「今からか?……ああ、そうだね、分かった」


「成海さん、美咲連れて来ましたよ」


成海は通信機を切り、顔を曇らせる。

「ああ、今日は湊がいてくれたのか。すまないが、美咲をもうちょっとだけ預かってくれないか?」

「別にいいですけど、何かあったんですか?」

「実は、叔父から呼び出しがあって。奪われた前の家を取り戻せるチャンスなんだ」

「へえ、意外と早かったですね」

「まだ決まったわけじゃない。その関係で、至急出なきゃいけないんだよ」

「ふーん、分かりました」


成海は美咲にも伝える。

「兄ちゃん、前のお家に行かないと。終わったら迎えに来るね」

しかし美咲は頬を膨らませ、地団駄を踏む。

「むぅー!やだっ!おにいちゃん、おうちばっかり〜!おうちいやっ!」


自宅でも、前の家の話を聞いていたのだろう。

「ワガママ言わないで。美咲、前のお家知らないでしょ?前のお家は大きくって立派だったんだよ。そこへ住めた方がいいだろう?」

「いやっ!おうちいらないっ!」


成海は美咲に対して語気を荒げる。

「美咲っ!そんなこと言うな!父さんと母さんの、思い出の家だぞ!」

「いやっ!いらないっ!」


(成海さん、珍しいな。美咲がかわいそうで怒れないとか言ってたのに)


「美咲、父さんと母さんのこと何も覚えてないだろ!何も知らないからそう言えるんだよ!」

「みさきしってるもん!しってるのぉ!」

「覚えてるわけないだろっ!」

「しってるのぉ〜!おにいちゃんいやぁ〜っ!」


美咲は成海の脚に縋り、拳をぺちぺちと叩きつける。


「あぁもうっ、うるさいんだよっ!」


成海は美咲を振り払うように蹴飛ばした。


(わっ、成海さん!?)


成海の信じられない言動に、湊は息を呑んだ。

美咲は足がもつれ、タイルの床にポスンと尻餅をついた。きょとんとしていたが、すぐに火がついたように泣き始めた。


「うあぁ〜んっ!おにいちゃんがけったぁ〜!」


成海は美咲をじっと見下ろす。その冷徹な目つきに、湊はゾッとした。普段の柔和な笑みからは想像もできない。


(成海さん、何が気に入らなかったんだ?愛する妹なんだろ?そんな目で見ないでくれ!)


成海の冷酷な視線を遮るようにして、湊は美咲を抱き上げた。美咲は湊の肩に顔を埋めて泣きじゃくる。


「成海さん、美咲は俺が見とくんで、早く行って下さい。急ぎなんでしょ」


努めて平静を装って、成海に声をかけた。


「そうだね。頼んだよ」


成海はそう言って、湊にも美咲にも目を合わせず立ち去ったのだった。


***


成海が去った後、湊は部屋に戻ってずっと美咲の背中を摩っていた。


「美咲、大丈夫?ビックリしたね」

「んぐっ、んっ、えぇ〜ん……」


美咲はなかなか泣き止まない。大声を出すのは疲れたようだが、絶えずしゃくりあげる。ティッシュで何度拭いても顔がぐちゃぐちゃになってしまう。


(美咲、普段怒られてない分、余計にショックだろうな。何で怒られたかも分かんないだろうし……俺もあんまり分かんないや)


両親の家へのこだわり、そして両親の記憶の有無。

成海が亡き両親を大事にしたいと思っているのは伝わってきた。


(だからって、美咲に当たることないだろ。美咲にとっちゃ、今のボロいアパートが家なんだから。前の家がどうとか言われたって、知るかって感じだよな)


「美咲、泣いててもしょうがないよ。なんか楽しいこと考えよ?」

「んっ……さくらちゃんっ……」

「ああ、木ね。持ってこうか?」


美咲はいつも楽しそうに幼木と話している。会話させれば少しは気が紛れるかもしれない。


湊が幼木の鉢を持ってくると、美咲は鉢を抱きしめて泣きじゃくる。

「さくらちゃぁん!……んんっ、おにいちゃん、みさきがきらいなのぉっ」


(美咲、幼木に愚痴ってんのか?)


湊は美咲と鉢を抱き上げた。

「大丈夫。お兄ちゃん、美咲が嫌いで怒ったんじゃないよ。きっと色々あって疲れてるんだ」


(成海さん、頭を冷やして帰ってきたらいいんだけど……)


しばらく部屋をウロウロしながら美咲を揺すっていると、美咲は湊の腕の中で寝息を立て始めた。桃色の幼木は、淡く白い光を灯している。いつもより、樹皮や光の桃色が薄れている気がした。


(一応、カメラで撮っとこう。明石さんの言う通り、こいつは美咲の心を反映してるのかもな)


湊はソファに美咲を寝かせ、ブランケットをかけた。

美咲は涙をこぼしながら、鉢に縋って眠るのだった。


***


一方、成海は狩野(かのう)の運転する車と合流していた。

「坊ちゃん、お嬢さまは預かって頂けたのですか?」

「そんなのどうでもいい。早く行こう」

バックミラーで、狩野は成海の表情を一瞥する。

そして、何も聞かずに車を発進させるのだった。


車窓を眺めながら、成海は口を開く。

「狩野。お前と弥生(やよい)は、あの家に戻りたいと思うだろう?」

狩野は静かに返す。

「私共は主人に仕える身。置かれた状況で、最大限の従事を致すのみにございます」

「ふん、それだけか。やっぱり、僕しかあの家を愛していないんだ。そうやって、すぐみんな忘れる」


狩野は反論しようとしたが、成海の冷めた瞳を見て口をつぐんだ。

「僕は絶対に忘れない。父さんと母さんの思い出は、僕が守らないと」

読んで頂きありがとうございます!

初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

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