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【10話(3/4)】明石耀一郎の空費

神木の加護を受ける街・煌都(こうと)


訓練校の新入生・(みなと) 陽輝(はるき)は、神木と意思疎通できる女児・猪狩(いかり)美咲(みさき)と出会う。


美咲はその力を調べるために研究室へ預けられ、日中は狭い部屋に閉じ込められていた。湊は迎えとお守りを担当することで、普通の子と同じように幼稚園に行きたいという美咲の願いを叶えるのだった。


そしてある日、美咲の思いに神木の苗木が応え、目に見える形で意思疎通が証明された。神木の託宣を受け取る、幼い御使(みつかい)の処遇を決めるべく、緊急会議を開くことが予定されたのだった。


その一方、湊は任務登用試験に合格し、お守りは身辺警護へと名目が変わった。と言っても、やる内容に変わりはない。

湊は授業の後で美咲を幼稚園へ迎えに行き、研究室に連れて行く日々を送るのだった。

明石耀一郎は、無趣味な人間だった。

学生時代には勉強一筋、就職してからは研究一筋。

正直なところ、湊からプレゼントされた休日は持て余すものだった。


ついに明日、久しぶりの全休が来てしまう。

自宅のベッドに潜り込み、明石は過去の生活を思い出す。


昔は何をしていたんだろう?

最後に丸一日の休みを取れた時は、弟の耀二郎(ようじろう)と一緒に暮らす前だから、独身寮にいたはずだ。溜まっている洗濯物を回したり、生活用品を買い足しに行ったりと、家のことをしていた気がする。

そういえば、耀二郎が家に来てからというもの、家事はずっと任せきりだ。


そうだ、休みの日くらい自分が家事をやろう。

それがいい。


そう結論づけて、明石は眠りについたのだった。


***


「兄ちゃん、おはよう」

「おはよう、耀二郎」


耀二郎は朝食の食器を片付け、これから登校するところだった。

「兄ちゃん、湊くんから聞いたよ。今日は一日中休みなんだって?」

「ああ。そうなんだ。だから今日は自分が家事を――」

「駄目だよ!貴重な休みじゃないか!何も気にせず過ごさないと!」

「ううむ、そう言われてもな」

「いいか兄ちゃん、家の雑事はしてくれるなよ!皿一枚でも洗ったら怒るぞ!」

そう言い残して、耀二郎は登校していった。


(変な脅し文句だな……)


とりあえず朝食を済ませ、皿を流しに置いておく。

今日は家事をするつもりで起きてきたので、どうしても洗濯や洗い物に目が行ってしまう。


(湊くんも耀二郎も、自分を気遣ってくれているんだ。年下の子らに心配される大人じゃいけない。2人を安心させられるような、充実した一日にしよう)


まずは身支度をして、外へ出ることにした。

引き出しの奥深くから、薄手のカーディガンとジーンズを引っ張り出す。

洗面所に立ち、ハードのヘアワックスを手に取った。


(……いや、待て。休日らしさを意識するんだ。髪型は平時より整えない方がいい)


いつもはオールバックに整えているが、今日は前髪を下ろして出かけることにした。


***


明石が向かったのは、行きつけの喫茶店だった。

古いバーを改装した、地下にある隠れ家的な場所だ。


薄暗い店内には客がおらず、老齢のマスターだけがカップを拭いていた。


「おはようございます、御主人」


マスターは、明石を見て目を丸くする。

「おや、珍しいのぅ。お前さんにしちゃあラフなナリじゃ」

「ええ、今日は久しぶりの休日を頂きまして。しかし何をするべきなのか分からず、とりあえずここに来たのです」


マスターは明石の言葉に顔をしかめる。

「なんじゃそりゃあ?あんた、いっつも出勤前に来とるじゃないか!こんなところにおらんと、今日しかできんことをせんと!一杯飲んだら出ていきんさい!ええね!」

「はい、すみません……いつものでお願いします」


マスターの語気に圧されて、つい謝ってしまった。

しかし、自分が休日に何をしようと自由のはずだ。それに、客に対して出て行けとは酷い言い様ではないか。

だが、言い返す気がある訳でもない。

反論は心の内に留め、端のカウンター席に座った。


マスターはコーヒーを淹れながら話しかけてくる。

「そもそも、休みの一日くらいで今までの疲れがリセットされるわけなかろうが。一日休みなんかより、毎日しっかり寝れるように仕事配分してくれって訴えりゃあ良かろう。のぅ?」

「はあ……」


(しかし、せっかく湊くんが休ませてくれたのだ。今日という日は大事にせねばなるまい……)


ブラックコーヒーを手に、明石はマスターに尋ねる。

「御主人、休日に行くべき場所など思い当たるでしょうか?」

「フン、まずその『行くべき』っちゅう言い方を変えにゃあいけん。お前さん、行きたい場所はないんか?やりたいことは?」

「いえ、特に……本当は、今だって積まれた仕事のことが気掛かりなもので」


マスターは呆れた声を出す。

「はぁ〜っ、お前さん、つまらん男じゃのぅ。そんなんじゃけえ彼女にフラれたんよねぇ」

「なっ……それとこれとは関係ないでしょう!御主人に話した元恋人は、自分が異動となったから――」

「ほれ、ここまで追っかけるほどの男じゃないって言われとるようなもんじゃ」

「うっ……今日はこれでお暇しますっ」

「おう、そうせえ。やりたいこと、見つけえよ〜」


***


マスターのせいで、嫌なことを思い出してしまった。


『前から思ってたんだけど、今後一緒にいるとしても、今以上にあなたを好きになれないと思うの……この異動を機に、終わりにしない?』


そう、破局したのは異動が原因ではない。

それは別れの言葉を突きつけられた自分が一番分かっている。


(ああ、思い返すだけで動悸がしてくる……もう終わった話だ。考えるのはやめよう)


明石は南区へ向かうことにした。

バスで15分ほど行けば、デパートや飲食店がひしめき合う繁華街に辿り着く。

特に目的がある訳ではないが、情報量の多い場所に行けば、何か目を惹くものが見つかるだろう。


デパートに入り、催事コーナーを眺める。

ふと、パティスリーのポップアップストアの広告が目に入った。詳細な案内を見に行くと、都外の有名店らしく、通販をやっていないから貴重な機会とのことだった。


(ふむ、おひとり様3点まで……珍しそうだし、買ってみるかな)


長蛇の列の最後尾に並ぶ。

(物凄い人数だな。時間の消費にはちょうどいいな)


自分の前後には、若い女性が友達連れで並んでいた。

彼女らの漏れ聞こえてくる会話を聞きつつ、ぼんやりと順番を待つ。


***


順番が来た頃には、人気商品は売り切れてしまっていた。

販売担当のスタッフに尋ねながら、商品を見繕う。


(カヌレは冷凍保存だから、持ち帰って耀二郎にあげよう。個包装のチョコレートは湊くんと美咲嬢に。少々値が張るボンボンショコラは室長に献上するとしよう)


手元に何かが残っていれば、何もしなかったという罪悪感が軽減される。


明石はギフト用の紙袋を提げ、デパートを出たのだった。

読んで頂きありがとうございます!

初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

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