表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/58

【9話(3/3)】新たな依頼人

神木の加護を受ける都・煌都。


訓練生・(みなと) 陽輝(はるき)は、神木と意思疎通ができる女児・猪狩(いかり)美咲(みさき)のお守りを任務として請け負っている。


ある日、美咲の願いに応え、神木の苗木が姿を変えた。

美咲の意思疎通が初めて目に分かる形で明らかになり、神木を取り巻く関係者たちが動き始めるのだった。


一方、湊は訓練校の中間試験を迎えていた。

中間試験の結果に応じて、貰える給金の額が決まる。

金のために、湊は筆記試験に四苦八苦するのであった。


※小説家になろう・note・Nolaノベルにて同時投稿中

※残酷な描写として、殴る蹴る・鼻血が出る程度です。

湊が教室に戻ると、晃記が心配そうに駆け寄ってきた。


「湊くん、僕らの実技試験、終わっちゃったよ!試験官の先生は問題ないって言ってたけど、本当!?」

「うん、大丈夫」


事情を知らない晃記に、お守りの任務の話はできない。


「その、なんか……みんなと別々で受けさせられたってだけ。ちゃんと実技試験みたいなのは受けたから、安心して」

「そうなんだ?大丈夫なら良かった!」


晃記は湊の説明を受け入れ、それ以上は突っ込んで尋ねてこなかった。


***


試験から数日後。

放課後、湊は面談室の前で順番を待っていた。

美咲は研究室に置いてきた。早く面談を済ませて、美咲のもとへ戻らないといけない。


「はい、湊陽輝くーん!最後はお前でーす!」


指導教官・近衛が、面談室から声高に呼びかけてきた。


「どうも……何ですか、そのテンション」

「授業も面談もあって、オレ疲れちゃったのぉ〜」

「別にテキトーでいいですけど、給金は下さいよ」

「その話は後でする。まずは筆記の結果を見ろ!どうだ、この点数!」


近衛は各科目の答案用紙を、机にバシバシと叩きつけていく。

「ほら、湊陽輝くん?何か言うことないですか〜?」


湊は全ての点数を確認した後、白々しい歓声を上げた。


「……すっ、すげぇ!全部30点超えてる〜!こんな大きい数字、初めてだぁ〜!」

「ちが〜う!あのなぁ、普段の小テストは20点満点とかだろ!今回の筆記は全部100点満点なの!」

「でも俺、頑張ったんじゃないですか!?偉いですよね!?やったぁ!」

「下手な芝居はやめろ!ここでお前がどう足掻こうが、給金の額は変わらんぞ〜」

「ちぇっ……」

湊は一瞬で冷めた表情に戻った。


「お前がサボってたのを取り返そうと頑張ってたのは知ってる。だが、こうも見事に赤点とはなぁ……」


湊は答案用紙の上に頬杖をついた。

「だって、変なこと書かせる問題ばっかだし。そんな問題作る奴の方が悪くないですか?」

「教官を奴呼ばわりしないの〜。そのメンタル、繊細な奴らに分けてやりたいなぁ。お前、巻幡(まきはた)と仲良いんだろ?記述の解き方、しっかり教えてもらえ!」


近衛は、茶封筒を机に置く。

「この結果を踏まえて、ありがたく受け取れ。お前がお嬢ちゃんのお守りを始めてから、今日までの給金だ」

「おっ!やっとですか!」


目を輝かせて封筒に飛びつく湊を、近衛はジトッと眺める。

「調子のいい奴め……」


茶封筒の中には、紙幣と明細が入っていた。


「これ、どういう計算ですか?」

「1日3時間程度を30日だ。休日は計算してないぞ」

「2万と、いち、に、さん……7000円……?」


湊は勢いよく立ち上がった。

「はぁ!?時給300円!安すぎ!」

「お前なぁ、自分の点数見ただろ!そりゃあオレからしても、サボり魔からここまでやれたのは偉いと思うぞ。でもこの結果で大金を渡しちゃあ、他の真面目にやってる生徒に示しがつかん」

「はいはい、そうですか……」


湊は不服ながらも、しっかりと封筒を懐にしまった。


***


近衛と話しているうちに、日が傾いてきた。

電気をつけていなかった面談室は、徐々に暗くなっていく。


「なぁ湊、もしもバイトを再開していいと言ったら、お前はやるか?」

「え、いいんですか?即刻求人見に行きますけど」

「だがその場合、お嬢ちゃんのお守りからは降りてもらう。それならお前はどうする?」

「えー、それは嫌です」

「おや、即答なんだな」

「だって俺、美咲と約束してることがあるんで。そう簡単に投げ出さないですよ。先生、何でそんな質問してくるんですか?」


近衛の表情は、翳ってよく見えない。


「――実は、お前の任務を買い取りたいって方が現れたんだ」

「買い取り?」

「ああ。今までは、オレが依頼人としてお前の任務を申請していた。兄貴の猪狩成海は未成年だから、依頼の資格がないもんでね」

「はあ……それで、依頼人が変わったら、何かが変わるんですか?」

「名目が変わる。今後お前がやることは、お守りじゃなくて、身辺警護だ」


形式上とはいえ、なぜ子守り程度で任務登用試験を受けさせたのか、疑問だった。

しかも、試験当日は灯西の事件でバタバタしていた。

なのに、延期せずに例外的な方法で決行した。


(なるほど。俺が身辺警護できそうか、早く確認したかったわけね)


「ちなみに、俺は誰にいくらで買われるんですか?」

「名前は伏せるように言われてるが、お偉いさんだよ。まあ、内部事情に疎いお前に名前を言っても分からんだろうがな。それから、任務の買い取りはあちらの申し出ってだけで、実際に金銭の授受は発生しない」


(なーんだ。金が入るんなら俺にも追加でくれって言おうと思ったのに)


近衛は出入り口へ歩き、部屋の電気をつけた。

浮かない顔で、顎を撫でる。


「だが、訓練始めて1か月そこらの学生に身辺警護を任せるなんて、正直オレは賛成できん。もしお前が身を引くなら、オレが話をつけてやるが」

「さっきから言ってるでしょ。美咲が絡む限り、任務は俺が受けます」

「いいのか?猪狩のお嬢ちゃん、何か特殊な事情があるんだろ?お嬢ちゃんを狙った事件に巻き込まれて、危険な目に遭う可能性だって十分にある」


美咲の御使としての加護が確定した時、室長は喜んでいなかった。あれは、美咲を狙う人間が現れることを危惧していたのかもしれない。


「どうする?お嬢ちゃんから離れて、今まで通りの生活を送ったっていいんだぞ?」


近衛の言葉に、湊は首を横に振った。


「俺が巻き込まれるってことは、美咲を狙うやつがいるってことでしょ。例え周りがどう言おうと、何をしようと、俺はあの子の生活を守ります」


近衛は大きく息を吐いた。


「……お前の覚悟は分かった。先方にはお前が受諾したと伝えておこう」

「時給上げろって言っといて下さい。じゃ、さよなら」

「それは別の話!期末試験、頑張れよ〜!」


***


湊を送り出した後、近衛は通信機を操作する。


「――はい。身辺警護の件、即答だったとお伝え下さい。あの様子なら、真摯に取り組むかと存じます……はい、何卒宜しくお願い致します」


近衛は通信機を切り、ひとり窓辺で黄昏れた。


(隊員ではなく学生に任せるとは、お上は何を考えているんだ?お嬢ちゃんも湊も、危ない目に遭わなきゃいいが……)

読んで頂きありがとうございます!

初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ