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【2話(2/4)】普通になりたい

神木の加護を受ける街・煌都(こうと)


サボりの学生・(みなと)陽輝(はるき)は、迷子の女児・猪狩(いかり)美咲(みさき)と出会う。


成り行きで、湊は美咲のお守りをすることになったのだった。


※小説家になろう・note・Nolaノベルにて同日投稿中

※残酷な描写として、殴る蹴る・鼻血が出る程度です。

2人きりの部屋で、美咲は座椅子にちょこんと座って、カサカサとポシェットの中身を漁り始めた。

音からしてチョコレートの包み紙だ。

湊に渡したもの以外にも持っているらしい。


(あっ、そうだ、子守り)


忘れかけていたが、このお守りは任務として給金が発生するはずなのだ。

後で何もしていなかったとケチを付けられては困る。

それらしいことをしておいた方がいいだろう。


「美咲、何かする?本でも読もうか?」


本棚の絵本に手を伸ばすと、美咲は首を振った。

「ううん、もういい」

「もうって、全部読んだの?ここ」

美咲は黙って頷いた。


そして、ポシェットから何かを取り出した。

湊に渡したものよりひと回り大きい、チョコレートの包み紙の塊だ。


美咲は塊を一旦解体して、包み紙を一枚一枚広げる。

まんまるっこい爪で、シワを丁寧に伸ばしていく。

それから、また綺麗な球体を目指して塊を作り始めた。


静けさの中、ぺりぺりと包み紙の音だけが続く。

湊はカーペットの床に寝そべり、美咲の作業を見ていた。


「……それ、楽しい?」

「うーん……」


美咲は小さく唸って、また包み紙を伸ばして塊にくっ付ける。

それほど楽しいわけではなさそうだ。

やることがない中で編み出した遊びなのだろう。


湊は手首に装着している通信機を確認した。


(もう14時前か。夕方の迎えってあと2、3時間くらいか?意外と短いな)


しかし、何もしていないと時間はなかなか進まないものだ。

本当は美咲を放置して眠りたいが、給金がかかっているので我慢だ。

それに美咲が逃げないよう見ていないといけない。


あくびをして、うつらうつらとしながら美咲の塊づくりをボーっと眺める。


美咲が大きな塊を作り上げたところで、湊は再び通信機を確認した。


(どうだ、1時間は経ったか……はぁ?まだ10分も経ってない?嘘だろ!)


湊は立ち上がり、置いてあったリュックサックをどかしてソファに倒れ込んだ。


(うぅっ、こんなの新手の拷問だろ……!)


しかし、大人より子どもの方が一日を長く感じるという。

自分より美咲の方が時間の流れを辛く感じているのではないのだろうか。


「美咲、暇じゃない?」

「ん……ひま」


美咲はこくりと頷く。


「いっつもなーんもせずにここにいるの?」

「ううん、おてつだいする。おばちゃんの」

「手伝い?」

「うん。そくてい、するの。ちびちゃん」

「測定?ああ、美咲以外はバチバチなって触れないから、美咲が持って測るってこと?」


美咲は2つ目の塊を分解しながら頷いた。


「課長だっけ。さっきの人、来ないじゃん。いつ来るの?」

「あさ」

「え?」

「きょう、おわり」

「終わり?もう終わったのにここにいなきゃいけないわけ?意味ないでしょ、何で?」


美咲は困ったように俯く。

大人に従っているだけなので、事情は知らないのだろう。


(さすがに何もないことないだろ。美咲が知らないだけで、今も観察とかしてるんじゃないか?)


湊はのそのそと這って部屋を調べた。

美咲は不思議そうにこちらを見ている。


壁にも床にも天井にも、隠しカメラや盗聴器らしきものは見当たらなかった。


「俺、ちょっと外見てきていい?すぐ戻るから」


美咲は不安そうな顔をしたが、すぐ戻ると聞いてこくりと頷いた。


***


辺りを見回しながら、ゆっくりと廊下を歩く。

万が一誰かに怪しまれたら、トイレを探していたとでも言えばいい。


両側に立ち並ぶ扉には覗き窓もなく、職員の名前と居場所を伝えるホワイトボードが下がっているだけだ。


(課長、なんて言ってたっけ……鹿鳴、はるか?)


ホワイトボードのひとつに、鹿鳴春花の字を発見した。しかし、マグネットが不在を示している。


(いない?どこにいるんだろ)


殺風景な廊下を歩いていると、突き当たりに全面がガラス張りの部屋が見えてきた。

中はオフィスのようになっていて、白衣を着た職員が忙しなく歩き回っている。


中の職員に見つからないよう、遠くからこっそり観察する。


(……あれ、さっきの木だ)


部屋の奥の方に、透明なケースに入れられた苗木が見えた。

特別そうな台座に載せられている。

美咲はここから苗木を取り出したようだ。


(中のスタッフに聞いてみるか?美咲の出番は本当にもうないのかって)


しかし職員は忙しそうだ。

それに、湊が美咲に付き添っていることを知らされていなかったら、不法侵入者扱いされるかもしれない。

いちいち説明するのも面倒だ。


(課長はいないな……美咲の出番のこと、先に聞いときゃ良かった)


部屋を覗く角度を変えていると、上方に壁掛け時計が見えた。

(まだ25分?何かやること考えなきゃ、暇すぎて死ぬぞ)


まだまだ暇潰しに探検していたいが、美咲を不安にさせてもいけないので、そろそろ帰ることにした。


***


部屋に戻ると、美咲は座椅子の上でボーっとしている。包み紙で遊ぶのも飽きたらしい。

誰かが部屋を訪れたような様子もない。


何か暇潰しができそうなものを探していると、部屋にあったリュックサックに目が留まった。


「これ、美咲の?見ていい?」


美咲が頷くのを確認して、湊はリュックサックを開けた。

お弁当の袋は軽いので、もう食べた後のようだ。

水筒、ハンカチ、ティッシュ、そして幼稚園の連絡帳。


「ん?幼稚園?美咲、幼稚園はどうしてんの?」

「ん……」

美咲は暗い顔で俯いた。


(もしかして、神木と話せるって加護が判明してから行ってないのか?)


その時、外からメガホン越しに女性の声が響いてきた。


「あっ!」

美咲はパッと立ち上がり、窓辺に駆け寄った。

湊も美咲の後ろから外の様子を見る。


近くの幼稚園の、園庭が見える。

幼稚園の先生が、園児を集めて列を組ませているようだ。


「赤組さーん!」

「はーい!」

「桃組さーん!」

「はーい!」


点呼を終えると陽気な音楽が流れ、先生の真似をして園児たちが踊り始める。

美咲も音楽に合わせてふんふん鼻歌混じりに身体を揺らす。


やがて園児たちは一斉に建物へ戻っていき、園庭は静けさを取り戻した。


美咲はテーブルに戻り、ポシェットをひっくり返した。

バラバラとチョコレートの包み紙の塊が出てくる。


「うわ、どんだけ持ってんの……」


いつから溜め込んでいるのだろう。清潔な状態で保管していると信じたい。


美咲は塊を掴み、色ごとに並べていく。


「あかぐみさーん!」

赤い包み紙をぴょこぴょこ動かす。

「はーい!」


今度はピンク色の包み紙を動かす。

「ももぐみさーん!はーい!」


さっきの園庭の光景を真似ているらしい。


「それ、幼稚園ごっこ?」

幼稚園に興味があるのは明らかだ。


「美咲、幼稚園行けばいいのに。ずっと暇じゃん」

「……ん」

「何で行ってないの?」

そう尋ねると、美咲は黙って俯いた。


「嫌なの?幼稚園」

「……ううん」

「じゃあ行けばいいのに」


美咲は突然大粒の涙をこぼした。

「んっ、うぅっ……みさき、ふつうじゃないもんっ……ふつうじゃないと、ようちえんだめなのっ」


ハンカチを取り出し、美咲の涙を拭う。

「まーた泣いてる。誰が言ったの、そんなこと」

「みんな!みんなだめっていうもん!」

美咲は包み紙を握り締めて叫ぶ。

自分は幼稚園に行きたいのに、周りが許してくれないようだ。


(神木と話せるから普通じゃないってことか?でもこんなに暇なら決まった時間だけここに来させて、あとは幼稚園に行かせていいだろ。何でダメなんだ?)


成海に許してもらおうと泣いていた時とはトーンが違う。

本当に悲痛な泣き方をしている。


「そんな泣くことないでしょ。俺がみんなに言ってみようか」


背中を撫でると、美咲は湊の襟元にぎゅっとしがみついた。

「みなとさぁん、みさきもふつうがいいよぅ」


小さな身体を震わせて、美咲は泣きじゃくる。


(普通、ね……昔の俺もこんなだったのかな)


湊は美咲の頭を優しく撫で、声をかけた。

「大丈夫。美咲は普通になれるよ」

「……ほんと?」

「うん。俺も親がいないんだけどさ、代わりの親、見つからなかったの。親がいる普通の家庭に憧れてたから、今の美咲と同じくらい泣いちゃった」


内容が伝わっているか分からないが、美咲はヒックヒックとしゃくり上げながら、黙って話を聞いている。


「でも、施設の先生が俺の親になってくれた。施設暮らしでもなるべく普通と同じ生活ができるように、いつも俺を気にかけてくれた」


そして訓練校にまで進学させてくれたのだが、授業は受けていない現状を思い出し、少し胸が痛む。


「俺の先生が言ってた。子どもは我慢を覚えなきゃいけないけど、大人の事情で我慢させるのは違うって」


そうだ。美咲が我慢する必要なんてない。

周りの大人が何とかしてあげないと。

神木と話せる以外は普通の子なんだから。


「ね、美咲。美咲が幼稚園に行けるように、みんなに俺が話してみるからね」


美咲は赤くなった目でこちらを見上げる。

「……ほんとに?」

「ほんと。俺が幼稚園に連れてってあげる」

「……うんっ」


美咲は湊の肩にぎゅっと顔を押し付けた。

湊は美咲が落ち着くまで、ずっと背中を摩っていた。


読んで頂きありがとうございます!

初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

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