【8話(4/4)】美咲の普通を守るため
神木の加護を受ける街・煌都。
サボりの学生・湊陽輝は、神木と意思疎通ができる女児・猪狩美咲のお守りを任務として請け負っている。
美咲は意思疎通の力を調べるために研究室へ預けられ、日中は狭い部屋に閉じ込められていた。
湊は迎えとお守りを担当することで、普通の子と同じように幼稚園に行きたいという美咲の願いを叶えるのだった。
美咲は日々の幼稚園で、色々な思い出を作っていく。
一方、湊には中間試験が迫っていた。
任務の給金は、中間試験の結果に応じて決まる。
勉強をサボってばかりではいられない。
美咲の面倒を見ている間も、湊は試験勉強に励むのであった。
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※残酷な描写として、殴る蹴る・鼻血が出る程度です。
課長を待つ間、美咲は一心不乱に絵を描いていた。
ピンクの色鉛筆で、何度も何度も殴り描く。
「何描いてんの?」
「さくらちゃん!」
「へぇ、花が咲いてんの」
「うん!さくらちゃんねぇ、もっとあそんだら、おはなさくんだって〜!」
「えっ?それ明石さんに言った?」
「ここがぶわぁって、ひらひら〜ってなるの!」
美咲は絵に集中していて、返答は聞けなかった。
(遊んだら花が咲くってどういうことだ?伝えた方がいいよな?)
***
湊がオフィスに向かうと、ちょうど課長が戻ってきたところだった。
明石と室長が、浮かない顔でこちらを見る。
「あの、すいません。ちょっといいですか?」
声をかけると、課長が微笑む。
この人の笑っていない目にはすっかり慣れた。
「あら、湊くん。ちょうど良かった。幼木の変化を受けて、鹿鳴家と神事局で合同の緊急会議を開くことが決定したの。湊くんも参加してね」
課長に嫌われているのは分かっているため、何とも意外な言葉だった。
「え?来んな、じゃなくて?」
「参加して。聞こえなかった?」
「いや、そうじゃなくて。どうして俺が?」
「湊くん、美咲ちゃんの付き添いが任務なんでしょう?だったら当日、美咲ちゃんを連れて移動すること。いいわね」
「はあ。まあ、いいですけど」
課長はずいと近寄ってくる。
「……それから。湊くんに、もうひとつ」
課長はこちらをグッと見据える。
睨んでいるわけではないが、押し潰されるような圧迫感を覚える。
「幼稚園は、休ませなさい」
「はい?どうして?」
「美咲ちゃんの心身の状態を逐一確認できるように。そして、美咲ちゃんが今回の事態を他言しないように」
(そんな!美咲、せっかく幼稚園で楽しくやってんのに)
明石と室長の表情が曇っていた理由が分かった。
おそらく、美咲の登園を辞めさせるように言われていたのだろう。
「確認ったって、どうせここに閉じ込めるだけでしょ?俺が最初に来た時もそうだった。美咲には、今日のことを内緒にするよう言い聞かせて、今まで通り幼稚園の後で測定すればいいじゃないですか!」
「あら、神木と話せるって他の子に漏らして、トラブルになったばかりじゃないの。信用できないわ」
「それは説明の仕方を練習する前の話です。それからは何も騒ぎになってない!」
明石が湊の隣に立つ。
「課長、自分も湊くんに賛成です。登園を再開してから、美咲嬢の精神状態は良くなっています」
室長も、か細い声で口添えする。
「姉さん。登園の件も、会議で決めればいいじゃない」
室長がそう言った瞬間、部屋の空気がズンと重くなった。
「……雷夏。今、何て?」
課長はツカツカと室長に詰め寄る。
「今、貴女、私に指図したの?」
「いえ、ごめんなさいっ」
課長は室長の肩を掴んで揺さぶる。
「やめて!姉さんっ、ごめんなさいっ!」
「貴女ねえっ、私の妹だからってお情けで事務員に採用された身でしょうがっ!たまたま室長になれたからって、いい気にならないで!」
「姉さん、そんなことないっ」
「課長!おやめ下さい!」
明石が止めに入ろうとするが、課長は聞く耳を持たない。
(なんかどんどん話がズレていってる……そうだ!)
湊は課長の腕を掴んだ。
「触らないで!」
「課長さん。美咲が幼稚園に行くメリット、教えてあげましょうか?」
「はぁ?そんなのない。秘密が漏洩するリスクだけでしょうが」
課長の腕を捻じ伏せ、その瞳を見据える。
「美咲、さっき言ってました。幼木ともっと遊んだら花が咲くんだって。俺はそれを伝えにここへ来たんです」
「なら、幼木との交流時間を増やせばいい。幼稚園とは関係ないでしょう」
「美咲、幼稚園で習った遊びをやってるんです。幼稚園に行けば、幼木とやれる遊びも増えて、もっと幼木が育つかもしれません」
美咲の本当の遊びの内容など知らない。
しかし、何としてでも課長を説得したかった。
「課長さん、あの木を生長させたいんでしょ?だったら、美咲が幼稚園に行くのは効果的だと思いますけど」
課長は腕を振り解き、湊を突き飛ばした。
「うっ!」
「なら、会議までは好きにしなさい。そこで美咲ちゃんの方針をはっきりさせましょう。登園に関してトラブルが起きたら、責任は取ってもらうわよ。3人とも、ね」
課長はオフィスの扉をバタンと閉め、去って行った。
扉のガラスがビリビリと震える。
室長はしゃがみ込んで、啜り泣き始めた。
「なんでっ……なんで、あたしが……!あたしだって、好きで室長やってない!辞めたいわよっ……!」
「室長、大丈夫です。自分たちを庇って下さり、ありがとうございます」
室長に寄り添う明石に、湊は声をかける。
「……なんか、俺のせいですいません。でも、美咲の幼稚園は譲れないんで」
「いいんだ。湊くんが言わなければ、自分が言っていたよ。その場合、自分の首が飛んでいただろうがね」
明石は室長を支えて、椅子に座らせた。
室長は肩を震わせ、顔を覆ったままだ。
「しかし湊くん、あれは本当の話か?」
「はい。もっと遊んだら花が咲くって、美咲が言ったんです。幼稚園の遊びと繋げたのは、俺の勝手ですけど」
「ほう、あの課長にハッタリをかますとは大したものだ……だが、あながち方便ではないかもな」
明石は、美咲の記録用ノートを手に取る。
「幼木の生長に相関する要素……自分は美咲嬢の身体ではなく、心の成長ではないかと考えている。美咲嬢が楽しく過ごせるよう尽力するのは、きっと間違っていないはずだ」
「心の、成長……」
「あくまで自分の考えに過ぎないがな。だが、たとえ幼木の生長に関係がなくとも、美咲嬢を幼稚園に行かせてやりたい。それは自分も室長も同じだよ」
室長は啜り泣きながら、大きく頷いた。
「美咲嬢の迎えが来たら、教えてくれ。自分からご家族に説明しよう」
***
部屋に戻ると、美咲が嬉しそうに絵を見せてきた。
「みなとさん!みて〜!」
「お、完成した?」
「うん!かんせい!」
湊は、絵を持った美咲を膝に抱いた。
「ねぇ美咲。美咲は、幼稚園楽しい?」
「うん!」
「そっか。じゃあ、約束してくれる?」
「なぁに?」
不思議そうな美咲の顔を、じっと覗き込む。
「御使のこと、さくらのこと、みんなには言わないで」
「えぇっ!なんで〜?」
「言っちゃうと、美咲が普通じゃなくなる。幼稚園、行けなくなるから」
そう言うと、美咲は悲しそうに俯いた。
「ん……わかった」
「お家では話していいからね。明石さんが、後で説明しといてくれるって」
***
外が暗くなった頃、侍従の狩野が美咲を迎えに来た。
湊は話があると言ってオフィスへ案内した。
オフィスには明石と、落ち着きを取り戻した室長がいた。
明石は今までの経緯を狩野に伝えた。
「――なるほど。お嬢さまの加護、特殊なものとは聞き及んでおりましたが、まさか、神木との意思疎通だとは……。つまりお嬢さまは、神木の御使なのでしょうか?」
「今は暫定的なものですが、近いうちに、鹿鳴家と神事局の合同会議が開催されます。そこで美咲嬢が正式に御使として認められるのでしょう。課長はその会議に、美咲嬢と湊くんを参加させるようで」
狩野は不安そうに首を捻る。
「鹿鳴家が関わる会議となると、猪狩家は参与できませんな。侍従などもってのほか……坊ちゃんだけでも保護者として参加できませんでしょうか?」
狩野に室長が微笑みかける。
「あたしが話を通してみるわ。三閥とは無関係の湊陽輝だって参加できるんだから、きっと大丈夫よ」
「左様でございますか!ありがとうございます。坊ちゃんと家内にも、しかと伝えます」
湊の脳裏に、クマのできた成海の顔が浮かんだ。
(成海さん、大丈夫か?苦労人っぽいのに、また心配事が増えちゃうな……)
「狩野さん。万が一成海さんが参加できなくっても、俺が美咲を守ります。今の暮らしが続けられるように言いますから」
「心強いお言葉、ありがとうございます。坊ちゃんも安心なさるでしょう」
***
美咲は、明日の幼稚園も楽しみにしながら家に帰っていった。
自分の登園を巡り、周りが揉めているとも知らずに。
でも、それでいい。
美咲が登園の心配をする必要はないのだ。
周囲がどう言おうと、自分が美咲を普通の子にする。
湊は改めてそう決意したのだった。
読んで頂きありがとうございます!
初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!




